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騎士見習いエドガーの災難

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 夜になると傷が痛むから何度も起きる。

 数日経って骨はくっついたが、傷が痛え。夜になると疼きやがる。

 カノンの事が忘れられない。俺様を見下したあの目だ。格下を見る目で俺様を見やがって次あったらぶっ殺してやる。

 俺様は父上に掛け合ったが、見習いからやり直せの一点張りだ。俺様の言い分は一切聞いてもらえなかった。

 その後、父上は家には帰ってこなかった。なにか忙しく働いているとママが言っていた。

 クソッ。俺様が見習いなんて帝国は見る目がない。

 もう朝四時だ。準備してもう出ないといけない。
 
 脚と腕が痛むから、準備も移動するのも時間がかかる。普段なら十分程度で着く城にも三倍は時間を要した。

 カノンに対する殺意が湧く。俺様が悪いわけなんてない。計画は完璧だったんだ。教会からの提案があって乗ったのは俺様だが、クロスナーやシイナ、フラメルも同意したんだ。

 俺様だけ見習いに降格なんてどんな嫌がらせだ。

 これも全てカノンが悪い。

 騎士見習いの朝は速い。他にも見習いはいるが誰も話しかけてこない。そうだろうな。俺様は元団長だ。恐れ多くて話しかけられないのだろう。

 馬小屋は臭い。急いで終わらせたいのだが、利き手じゃない左腕一本では作業がうまくすすまない。


 俺様の作業を見に来た騎士見習いの男が言った。

 「エドガー速くしてくれよ。他の皆は終わってるんだぜ。」

 「ああ。すまない。急ぐから先に武器を磨いていてくれ。」

 「そう言って昨日もサボっていただろ。ルノガー将軍に言いつけても良いんだぜ。」

 そう言うと三人が笑う。

 「まあそう言わないでくれよ。俺様も精一杯やっているんだ。急ぐよ。」

 この三人は俺様が騎士に戻ったら、いじめてやる。いや、殺してやる。今は我慢だ。

 「ったく、元団長だって聞いていたけどこんなに使えないとは思わなかった。」

 我慢だ。我慢。

 「なぁ親の七光りさんよ。見習いの次はもうクビになるんだからな。速く動けよ。」

 流石にキレた。今ぶっ殺す。

 「ぶっ殺してやる! 」

 俺様は殴りかかるが、拳は当たらない。

 「そんなに遅い拳、当たるわけが無いだろう。」

 見習いの男の拳が俺様のみぞおちにめり込み、俺様は膝をついた。

 「見習いの中にも序列はあるんだ。エドガーは一番の下っ端なんだから俺たちには敬語を使えよ。お前は臭い馬小屋がお似合いだよ。一生そこで作業してろ。」

 三人は笑いながら馬小屋を出ていった。

 「クソガキが。剣さえあれば俺様は負けないんだ。」

 帝国騎士の象徴である剣だが、騎士見習いは訓練中しか持たせてもらえない。

 「全てカノンが悪い。カノンを殺せば全て解決するんだ。ぶっ殺してやるぜ。」



 馬小屋の世話を終わらせて、装備の手入れに入る。

 なぜ俺様がシイナやクロスナー、フラメルの剣や杖、鎧を磨かないといけないんだ。

 ムカつくから適当に拭く。俺様が拭いてやっているんだそれだけでもありがたいと思え。

 さっきのガキどもは俺様を見てコソコソ話して笑ってやがる。無視だ無視。アイツたちは団長に戻ったら死ぬほどいじめてやるさ。

 そう考えると笑いが止まらない。
 


 朝食を取ってからは騎士見習いは訓練や騎士と共にダンジョン攻略に付いていくことになる。

 今日はシイナたちのダンジョン攻略のお手伝いだ。剣は持たせてもらえるが、ダンジョンでの仕事は荷物持ちだ。

 「エドガー、遅いぞ。脚を引っ張んな。」

 クロスナーが偉そうに言う。

 「ああ。すまない。急いではいるが脚が痛むんだ。」

 「言い訳すんなよ。それに、ちゃんと俺の武器を磨けよ。まさか手を抜いてるんじゃないだろうな。」

 「そんなことないさ。俺様はクロスナーの武器磨きの担当じゃない。」

 「そうか。それは悪かった。とにかく脚は引っ張るなよ。」

 クロスナーは単細胞だ。適当に言えば誤魔化すことが出来る。


 その後、フラメルが突っかかってきたが無視だ。こいつには剣さえあれば勝てるからな。


 「見習い。あの敵を走って引き付けなさい。足手まといだけどそれくらいは出来るでしょ。私たちはそのスキに倒してあげるから。」

 問題はシイナだ。俺様と目すら合わせないし、名前すら呼ばない。

 「無茶な注文だ。俺様が骸骨剣士がうじゃうじゃいる中に突っ込んで、囮になれってか。」

 「そうよ。やらないなら将軍に反抗的だって言いつけるけど。」

 シイナが俺を蔑んだ目で見る。こいつマジだ。

 「わかったよ。やれば良いんだろやれば。」

 俺は駆け出す。骸骨剣士の注目が俺様に集まったところで入ってきた道とは別の小道に逃げる。骸骨剣士はワラワラと俺様を追ってきた。

 「今だ! 攻撃しろ! 」

 俺様はシイナ達に叫ぶが、シイナたちの攻撃する音は聞こえてこない。

 バカな。完璧な囮だっただろ。

 奥を見るとシイナたちが扉を空けて階段を上がろうとする姿が見えた。

 「裏切り者! 」

 落ち込む暇なんてない。骸骨剣士が斬りかかってくる。右腕は使えないがやるしかない。こんなところで俺様は死ぬわけにはいかないんだ。

 必死に左手で剣を振る。

 数が多いが骸骨剣士くらい俺様でもなんとかやれるはずだ。


 数分経っただろうか。床には骸骨剣士の死体が小道いっぱいに広がっている。

 まさに死闘だった。俺様は何度死を覚悟したことか。

 シイナたちが上の階から降りてきた。

 「任務達成よ。ぼさっとしないで。戻るわよ、見習い。」

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