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オアシスのプール

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 太陽が眩しくて、翌朝目を覚ます。そのままオアシスで眠ってしまったみたいだ。

 見渡すとミトはいなかった。

 ここにいてもしょうがない。トボトボと宿に戻る。

 昨日のカルスのことは思い出したくはない。でもカルスからお願いされたことは全うしないとな。

 宿ではロミが起きていた。

 「やあカノン、朝帰りとは大人になったねえ。」

 「…ああ。」

 言葉がうまく出ない。

 「ロミ、カルスは遠くへ行ったよ。場所はわからないがずっと遠くだ。最後にロミに研究資料を使ってくれと言っていた。」

 オレの俯く姿を見て、ロミが近寄りハグをした。

 「そう。カノン辛かったね。今日は休んでいてくれ。僕がカノンの変わりに動くさ。泣くんじゃないよ。男の子だろう。この世の中にはどうしようもないことがあるものさ。カノンは精一杯やったじゃないか。」

 オレは無意識に涙が出ていたみたいだ。

 「泣いてはいないさ。ゴミが目に入っただけだ。」

 「そうかい。今日は特別にカノンが寝るまでハグしてあげよう。大丈夫。キミは何も悪くない。悪くないんだよ。カノン。」



 オレはいつの間にか昼過ぎまで寝ていたようだ。

 どうも気分は晴れない。拭いきれないこの感情はなんだ。オレはカルスを救えたのだろうか。いや、どうあがいても無理だった。

 無力な自分が許せない。時代が許せない。教会が許せない。

 そんな感情がぐるぐると頭をかけまわる。

 寝よう。このままだとロミやライカに迷惑をかけてしまう。心配させたくはない。




 ライカに乗らせて、起こされた。

 「ご主人様、ミトさんがオアシスに招待してくれるって! 一緒に行くでしょ。」

 「ああ。ロミと行って来てくれ。」

 「嫌なの。ご主人様と一緒に行くの。」

 泣きそうな顔でオレを見つめる。

 「カノンも気分転換が必要さ。泳げるみたいだし一緒に行こう。」

 ロミとライカに引っ張って起こされる。乗り気ではないがしょうがない。付き合うか。


 「遅かったじゃない。」

 ミトがオアシスで手を振っている。

 「ミトさん、ここで泳いでいいの。」

 「ここはダメだけど、横のプールなら泳げるわよ。ライカちゃんの水着も用意したから泳ぎましょう。」

 ミトがライカを連れて更衣室に入っていった。

 「カノン無理やり連れてきてすまないね。ライカが心配しててさ。」
 
 「いやいいんだ。オレこそ申し訳ない。」

 「僕の水着でカノンを癒やすよ。今日はゆっくりしていてくれ。」

 ロミがフッフッフと笑いながら更衣室に走っていった。

 ロミにも気を使わせてしまったか。

 オレはプールに入る気にはならなかったが、冒険者の格好でプール内には入れないらしい。下半身だけズボンとサングラスを借りた。

 着替えてプールに出ると誰もいない。

 プールサイドにある寝椅子に座って待つことにしよう。

 日差しは強いが気持ちいい風が吹いている。このまま寝てしまいそうだ。


 水をかけられて起こされる。びっくりした。

 どうやら寝てしまっていたようだ。

 目の前にはライカが真っ白なワンピース型の水着を着て、笑っている。

 「ライカか、水着似合ってるじゃないか。」

 「そう。嬉しい! 」

 ライカがくるりと回って全身を見せてくれた。ライカはまだ幼さは残るがすごくよく似合っている。脚が長くてしなやかに見えるな。さすがはフェンリルの血だ。

 「カノン、僕はどうだい。」

 ロミは魔法学校のスクール水着を持ってきて着ているようだ。胸が入りきれないほどパツパツで苦しそうだが。真っ白な肌でモジモジしているのはロミらしい。

 「ロミもよく似合っているよ。」

 ロミが恥ずかしがりながら、嬉しそうに笑った。

 「あら、英雄さんはお疲れかしら。」

 ミトはオレと年齢はほとんど変わらないはずだが、大人の女性の色気がある。黒いビキニを着てオレはツバを飲み込んだ。

 「まあな。そんなところだ。ミトも黒い水着似合っているな。美人が引き立つ。」

 ミトが顔を真赤にしてオレを叩いた。

 「辞めてよ。そんな事言われたら照れるじゃない。」

 ライカが入ってきていい。と言い、頷くとライカがプールに飛び込んだ。飛び込むと危ないぞと言うが聞こえていない。オレたち以外誰もいないから良いだろう。

 オレたち三人は椅子に座って日光浴をしていた。

 「それにしてもミトは傷だらけさ。昨日の戦闘の後に回復しなかったのかい。」

 「いいえ。これは狂犬につけられたのよ。」

 ロミがジッと睨んでくるが、気にしないようにしよう。

 「ミトさん、一緒に泳ごうよ。」

 ミトは手を振って勢いよくプールに飛び込んだ。

 今はロミと二人っきりになるのは少し気まずい。

 「それで次はどこに行こうと思っているのさ。」

 「ああ、できれば笛を調べたい。笛をカルスは欲しがっていた。なにかあるんじゃないかと思ってな。リスクはあるが帝都の研究者で魔法具に詳しい知り合いはいないか。」

 「なるほどね。クロスケ飛ばしてちょっと聞いてみるさ。明日には返事が来ると思う。」

 ロミがクロスケを呼び出してササッと紙に何かを書いて渡した。

 烏のクロスケがカアと声を上げて飛び立った。

 「カノンはだいぶ引きずっているようだね。皆、心配しいるよ。」

 「そうか。申し訳ないな。」

 「謝る必要はないさ。カノンを責めていないんだよ。仲間としては打ち明けてくれないことはちょっとだけ寂しいけどね。」

 そう言うとロミが笑った。

 「ご主人様、助けて! 」

 ライカが溺れているようだ。オレはすぐに水中に飛び込む。

 ライカまでたどり着くとライカが笑った。

 「ライカ、大丈夫か。」

 「ごめんなさい。本当は溺れていないの。心配だったの。」

 「そうか、驚かせないでくれよ。」

 「ご主人様…ううん。カノン。私たち仲間だよ。良いときも悪いときもどんなときでも仲間だからね。頼っていいんだからね。」

 そう言うと、ライカが抱きついた。

 そうだ。オレには仲間がいるんだ。世界は変わらないかもしれないが、仲間は守ることが出来る。

 「ありがとう。元気が出たよ。」

 オレはニコっと笑った。

 ミトも後からオレに抱きつく

 「しんみりしていても何にもなんないわよ。今日は泳ぐわよ。」

 ロミもオレのところに来ようとしているがあまり泳ぎはうまくないみたいだ。見るかぎり本当に溺れそうになっている。

 ロミの腕を引っ張る。

 「みんな、ありがとう。夜話すよ。今は楽しもうか。」

 「うん。カノンが元気になったようでよかった。競争しよう! ご飯持ってきてくれるって!」

 そうライカが言うと、皆が泳ぎだした。

 たしかに腹が減ってきた。

 オレは追放されて一人で生きていこうと思っていたけど、仲間がいるんだ。オレは一人じゃない。彼女たちがいればオレはなんでも出来る。
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