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真夜中の決闘②
しおりを挟む「狂っているのはお前たちバカな人間だ! 争い繰り返し歴史からは何も学びはしない。帝国はオレたちが滅ぼして管理してやる。」
「それが教会の目論見か。」
「そうだ。冥土の土産に教えてやるよ。死人には口がないからな! 」
カルスの速度も力も大幅に上がっている。魔人化の影響だろう。
本気を出さないと殺られる。
「どうした。防ぐだけじゃ勝てねえぞカノン。」
「クソッ」
防ぐだけで手一杯だ。攻撃の一撃一撃が重い。
「オラッ! これも避けてみろ! 」
至近距離からサンダーボルトをカルスが放つ。
無詠唱で相殺するか。いや間に合わない。
慌てて転がる。
転がったところに、カルスが斬りかかってくる。オレもサンダーボルトを放ち、カルスを退ける。
カルスは魔法を使えるのか。危なかった。
下がったカルスと目が合う。二人して笑った。
「嬉しいぜ、カノン。やっと本気になってくれたみたいだな。」
「もういいさ。カルスにはカルスの事情がある。今はお前を倒すそれだけだ! 」
オレは攻めに転じる。勝負を決めるためのきっかけが欲しい。
連続で斬るが躱される。
「そんな攻撃が当たるわけねえだろ! 」
カルスが剣を振ると、一瞬にして形勢が逆転する。カルスの圧に押される。
このままじゃジリ貧だ。なにか手はないのか。
草薙の剣の叢雲斬り<むらくもぎり>は最後の手段だ。叢雲斬り<むらくもぎり>じゃないと決定打は与えられないだろう。
頭の中で様々な手段を考えるが、どうも名案は思いつかない。
「カノン、がっかりさせるな。お前は考えて動く賢いタイプじゃないだろ。猟犬らしくぶつかってこいよ! 」
「うるせえんだよ! 」
「そうだ。その意気だ。カノン。もっと本気を見せてみろ。」
剣と剣がぶつかり合う音が響いている。満月の明かりに照らされてカルスの笑っている顔が見える。
もういい。何も考えない。
カルス、いや、こいつのクビに剣を突き立てやる。
防御しながら、強引にツバメ返しを放つ。カルスの腹に傷がつく。
「まだだ。もっと来いよ! 」
オレも血が騒ぐ。ニヤケが止まらない。オレは戦場でしか生きられないだろう。
「オラッ! 」
再度、ツバメ返しを放つ。
手応えがある。カルスの左腕から大量に出血するのが見える。
いつもより疾く動けている気がする。もしかすると、スキル猟犬は満月に影響があるのかもしれないな。
「クソッ。まだ速くなるのかよ。」
カルスが何か言っているが、もう耳には入らない。サンダーボルトを五発、カルスを誘導するように放つ。
カルスが慌てて避ける。計算通りだ。
避けた時点にはもう既に十文字斬りを放っている。
「グオオオオオ! 」
十文字斬りを食らったカルスの胸から血が吹き出す。
「まだだ。まだ俺は負けねえ! 」
カルスが咆哮を上げると傷は塞がった。
「上等だよ! 」
何度でも斬ってやるさ。勝つのはオレだ。
無詠唱で最上級火炎魔法インフェルノをカルスの手前に放つ。
「ふんっそんなの当たらなければ意味がない。」
「バカが! 狙い通りだ! 」
地面に灼熱の炎が広がる。炎に自ら突っ込み、最大火力を叩き込む。
「叢雲斬り<むらくもぎり>!!」
カルスの体を上下真っ二つに斬った。
終わりだ。
「バカな。この俺が…この俺が負けるだと。」
カルスは血を吐く。まだカルスは生きているのか。
「ああ。オレの勝ちだ。」
「カノンは後悔していないのか。帝国の騎士を追放されて。なぜ教会の邪魔をする。愚かな帝国の力になって英雄気取りか。」
カルスが血をさっきよりも多く吐いた。もう長くはないだろう。
「後悔なんてしていない。オレはオレの生きたいようにするだけだ。」
「そうか。オレもカノンみたいに生きれたら…なにか変わっていたかもしれないな。」
オレは二の句が継げなかった。
「お願いをしてもいいか。カノン。」
「ああ。なんだカルス。」
「ロミに研究資料を渡してくれ。」
オレは頷く。
「最後のお願いだ、カノン。一緒に死んでくれ! 」
カルスがオレに抱きつくき体が光り出す。爆発するつもりだ。
「すまないがそれは聞けない。一人であの世に行ってくれ。」
首をはねる。爆発が収まった。油断していて危ないところだった。
カルス顔は安らかに笑っていた。
オアシスの大きな木の横にカルスを埋めた。昨日カルスと共にオアシスの水面を見た場所だ。
カルスは教会の指示によって事件を起こした。それは悪だ。だが、オレはカルスを憎めなかった。カルスを友だと思っていた。
カルスの研究に対する熱意は本物だったし、世界を変えようとする考え方が違う方向に向いていれば。運命は変わっていたかもしれない。
最後だってあの安心しきった死に顔を見ると。カルスが本気でオレを殺そうとしたとは思えない。オレを殺そうとするのであれば何も言わずに爆発すれば殺せたのだから。
彼の発言のいくつかは、オレには本気で言っているとは思えなかった。
今となっては確かめようがないことだ。
「バカ野郎。」
そう呟いて、オレは手を合わせた。
その場に数分座っていただろうか。
いつもなら血が沸き立つ感覚はすぐに収まるのだがまだ収まらない。生死を賭けたやり取りがしたい。心の中の獣がまだ荒ぶっている。乾く欲望が抑えられない。
「カノン? 」
振り返ると首長のミトが立っていた。
「ああ。首長か。どうしたこんな夜遅くに。飲んでいたんじゃないのか。」
「大きな音がしたから散歩がてら偵察しに来たの。横に座ってもいいかしら。」
「ああ。」
「ミト。私の名前はミトよ。首長じゃないわ。」
「すまない。」
「カノン、あなたは街を救ってくれた英雄よ。」
「ああ。」
「ねぇ、ちゃんと聞いているの。」
「すまない。気が立っていてな。興奮が収まらないんだ。」
「それはそうよね。あんな戦いがあったのだから。命がけだったもの。」
「もう帰ってくれ。このままじゃ襲ってしまいそうだ。」
「いいよ。私が鎮めてあげる。」
ミトがオレに抱きついた。
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