50 / 90
砂漠のピラミッド
しおりを挟む翌朝、ロミが目を覚ました。
「私、ずっと寝てた? 」
「ああ。体調は大丈夫か。」
「もう平気。」
ロミの額を触るが熱はない。平熱に戻ったみたいだ。
「今日一日は宿でゆっくりしていてくれ。オレたちはダンジョンに行ってくるよ。」
「そうさせてもらうわ。」
「ご飯は部屋に持ってきてもらうように、伝えておく。今日はしっかりと休んでくれ。」
オレはカノンと共に部屋を出た。
カルスの部屋をノックする。
「はい。空いているよ。」
挨拶をしてさっそく本題に入る。
「カルス、今日はダンジョンに行くだろう。」
「ああ。もちろんだ。先に下に降りていてくれ。もう少しだけ準備に時間がかかる。」
「わかった。一階で待たせてもらうよ。」
一階で飲み物を注文して席でライカを撫でながら待つ。もう明日には満月だ。ライカも人型に変化するだろう。
「お待たせ。彼女の体調はどうだい。」
「ああ。熱は下がったみたいだ。念のため、今日は休んでもらうよ。」
「そうか。さっそくダンジョンに行こうか。彼女の体調も気になるし、夕方には戻ってきた方がいいだろう。目指すは二十階だ。」
そう言うと、カルスは先に歩き出す。
ダンジョンまで歩いて進むとピラミッドと呼ばれるものがダンジョンになっているとカルスが説明してくれた。外は日差しも強く暑いのだが、ピラミッドの中はひんやり涼しくて快適だ。
骸骨剣士やサソリなどの魔獣は出るが、脅威にはならない。ライカが先に走って狩っている。
「それにしてもカノンも、ライカも強いな。」
「まあ普通くらいだよ。そこまで強くはない。」
「いいや、俺の十倍は強いんじゃないか。」
「カルスは冒険者じゃないだろ。研究者に強さは必要ないさ。」
そう言うと、カルスが笑った。
カルスとはウマがあう。彼が研究していることを熱く語ってくたが、理解は出来なかった。
二十階のボス、骸骨ロードをサクッと倒した。骸骨ロードは鉱山でも戦っているし、脅威ではない。これくらいであればライカ一人、いや一匹でも余裕だな。
「今日は二十階のボスを倒してくれて助かったよ。」
「いや、大丈夫だ。オレたちもいい経験になった。カルスは研究をするんだろ。」
「ああ。壁画を研究したい。暇だろうし、カノンたちは先のダンジョンに進んでいてもいいよ。二十階のボスを倒したんだ。俺たちがダンジョンから戻るまでボスは復活しないからね。」
そう言うと、オレには目もくれず壁画を見てふむふむ言って紙になにかを書いている。
「わかった。一時間ちょっとで戻る。それまで好きに研究をしていてくれ。」
もうオレの言葉はカルスには届いていない。
ライカと共にダンジョンを進む。
三十階の蠍ロードまではすぐにたどり着いた。
蠍ロードの一番の特徴は尻尾に猛毒を持っていることだ。まぁ尻尾の攻撃を当たらなければ問題はない。硬くてすばしっこいのは少しだけ厄介だ。それに脚が多くて気持ちが悪い。
二本のハサミで攻撃してくる。その後に尻尾の毒でトドメを刺すつもりだろう。
尻尾が飛んできたところをクサナギで斬る。蠍が悲鳴のような声を上げる。
これで毒は考えなくてもいい。
「ライカ! トレーニングだ。蠍ロードを倒せ。」
ライカが駆ける。
蠍はデュラハンほどではないが硬い。硬くて早い敵を倒すトレーニングになるだろう。速さではライカが上だが。
ハサミを避けライカが爪で削る。
いいぞ。その調子だ。
蠍が咆哮を上げて速度が上がる。もう少しだ。
ライカは蠍のハサミを華麗に躱す。
ライカも攻撃を与えてはいるが、決定的に優位に立っている訳では無い。
「ライカ脚を狙うんだ! 」
蠍は足が八本ある。
ライカが足を食いちぎる。蠍はハサミを振って抵抗するが、ライカはすぐに距離を取り当たらない。
足が半分なくなったところで蠍の動きは鈍くなった。
これでもう負けることはないだろうな。
「ライカ! トドメだ! 」
ライカがハサミを避けて飛び、蠍の頭胸部を爪でひっかいた。
蠍ロードはピクピクした後、動かなくなった。
終わりだ。ライカが嬉しそうに駆け寄ってきたので撫でて褒める。
「ライカは元の戦闘能力は高いんだから、頭を使って弱点を攻めような。」
ライカがワオンと声を上げた。
倒した蠍ロードの魔石と素材を取る。どれくらいで売れるかわからないが、お金には困っていない。
『相棒、その魔石美味しそうだな。俺にくれないか。デュラハンのときには貸しを作ったんだからいいだろう。』
クサナギが話しかけてきた。
「しょうがないな。今日はクサナギにやるか。」
『さすがだぜ、相棒。俺も頑張るからよ。強い魔石をどんどん食わしてくれよ。』
蠍ロードの魔石が光って消えた。
まあ良い。草薙の剣しか今のオレは持っていないし、草薙の剣は強いからな。魔石で使えるなら得だろう。
時計を見るとカルスト別れてからちょうど一時間経っているようだ。もうそんなに経っていたか。
「そろそろ戻るか。ライカ今日はここまでだ。急いで戻ろう。」
ライカの返事を聞いてダンジョンを下っていく。
二十五階でカルスが壁を見ながら立っていた。
「カルス。大丈夫か。こんなところに居て魔獣に襲われなかったのか。」
「ああ。二十階の研究が終わってな。進んでいたらこんなところまで来ていたよ。」
「そうか。研究熱心だな。」
「カノンのお陰でだいぶ研究も進んだ。少し早いけど今日は戻ろうか。部屋でまとめたい。」
このダンジョンには転移門がないみたいで、下って降りる必要がある。
先程通った道だし、サクサクと進む。
カルスは上機嫌だ。研究が進んだからだろうか。
◇
「今日はありがとう。助かったよ。お礼に夜ご飯はご馳走させてくれ。寝ている彼女も体調がよかったら連れてきてくれ。研究の話もしたいしね。」
カルスが笑い、部屋に戻っていった。
オレも部屋に入るとロミが不満そうな顔でこちらを見ている。
「ずるいよ。カノン。そんな楽しそうな顔しちゃって。僕だけ置いてけぼりじゃないか。」
オレは楽しそうな顔をしていたのか。それにしてもロミのプゥっとむくれている顔はかわいい。
「しょうがないだろ。体調が悪かったんだから。それで熱は下がったのか。」
「もちろんさ。もう万全だね。食欲も湧いてきた。」
そう言うと、ロミが細い腕で力こぶを見せる様な仕草をした。
「そうか。昨日助けてくれカルスがご馳走してくれるらしい。もう少ししたら一階に降りよう。」
ロミが頷く。
その後、ご飯の時間までロミにピラミッドのことを延々と聞かれたのだが、オレはピラミッドには興味がない。壁の柄なんてどうでもいいから、ロミは少し不満げだった。
0
お気に入りに追加
984
あなたにおすすめの小説
【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった
華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。
でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。
辺境伯に行くと、、、、、
【完結】聖女が世界を呪う時
リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】
国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される
その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う
※約一万文字のショートショートです
※他サイトでも掲載中
精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった
SA
恋愛
精霊魔法が盛んな国の、精霊魔法で有名な家門に、精霊魔法がまったく使えない『技能なし』として生まれた私。
精霊術士として優秀な家族に、『技能なし』でも役に立つと認めてもらいたくて、必死に努力していた。
そんなある日、魔物に襲われた猫を助けたことが発端となり、私の日常に様々な変化が訪れる。
『成人して、この家門から出ていきたい』
そう望むようになった私は、最後の儀が終わり、成人となった帰り道に、魔物に襲われ崖から転落した。
優秀な妹を助けるため、技能なしの私は兄に見殺しにされたのだ。
『精霊魔法の技能がないだけで、どうしてこんなに嫌われて、見捨てられて、死なないといけないの?』
私の中で眠っていた力が暴走する。
そんな私に手を差しのべ、暴走から救ってくれたのは…………
*誤字脱字はご容赦を。
*帝国動乱編6-2で本編完結です。
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
非論理的LOVE 〜思考型上司と新人エンジニアの恋〜
ストロングベリー
BL
「社内恋愛など非合理的。ありえねぇよ」荒々しくそう言った男は、自らの論理の壁が崩れることをまだ知らない——
システム開発会社で技術責任者を務める音川はヨーロッパの血を引く圧倒的な美貌を持つが、本人は一切無頓着。鍛え上げた身体とぶっきらぼうな物言いのせいで一見威圧的だが、部下には優しく、技術力向上のために尽力する仕事一筋の男だ。
常に冷静沈着、モラル意識も高く、フェアな態度を貫いているため社内からの信頼も厚い。
ある日、社内で起きた事件をきっかけに、開発部に新人が配属される。彼は驚異的なプログラミングの能力を持ち、音川はいち早くそれを見抜くが——
その新人を前にすると、音川は自身のコントロールを失い、論理の鎧が剥がれていくのを止められない。
論理と感情の間で葛藤する二人の社会人ロマンス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる