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狐の村の不思議

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 翌日起きてもライカは人型のまま寝ている。

 どうも月に一度と言うのは誤りだろうか。わからん。

 窓から外を確認すると、まだ雨と雷が降り続いている。

 おかしい、雲が流れている気がしない。この村を中心に雷雨が降り続いている気がする。

 まあそんなことあり得ない。気のせいか。

 ライカが目を覚ます。

 「おはようございます。カノン。」

 「おはよう。ライカよく眠れたかい。」

 ライカが頷く。下に行けば食堂もあるみたいだ、食堂でご飯でも食べようと思ったとき、扉がノックされた。

 コンコン

 帝国の騎士エドガー達に追いつかれたかもしれない。さすがにまだ追いつかれるとは思っていないが…。

 警戒して、剣を手に取る。

 アイコンタクトをライカにして、警戒態勢を取らせる。

 「どうぞ。開いてますよ。」

 扉を開けると、村人が数人立っていた。

 何の用だろう。皆ローブを頭から被っている。正直、不気味だ。

 「お休みのところすみません。旅人様、助けてください。皆怯えているのです。」

 「どういうことだ。」

 村人はローブを脱ぐ。

 狐だ。狐の耳が見える。

 「見て分かるように我々は狐族です。」

 「なるほど。それで狐族がどんな用だ。怯えているとは何が起こっているんだ。」

 「ありがとうございます。込み入った話になりますので、下でお話しませんか。」

 たしかにこの部屋に5人も座れるスペースはない。

 頷いて、一階に降りる。

 広い席にライカとともに座る。

 狐が出してくれた紅茶は今まで飲んだ紅茶の中で一番美味しかった。

 「それで何が起こっているか説明してくれ。」

 「ええ。申し遅れました。私がこの村の頭領です。もちろんこの街の皆は全員、狐です。それで、この雷雨がずっと続いていまして。」

 なるほど。おかしいと思ったわけだ。この街に向かっている最中はずっと晴れていた。この街に近づくと、急に雨が降り出したんだ。

 「なるほど。それで原因はわかっているのか。頭領。」

 「正直、分かっていませんが、心当たりならあります。祠が四箇所、東西南北に有りまして、そこに我々狐は近づくことができなくなっています。近づくと気分が悪くなり、自我が保てなくなるのです。なにか結界のようなものが貼られているのでしょう。」

 「なるほど。心当たりがある。解決できるかもしれん。」

 恐らく、教会の何かしら仕掛けているのだろう。

 「恐らく祠に何かしらされているのではないかと思っていますが、近寄ることができず。もう一週間も雨が続いているのです。」
 
 「そこを調べれば何かしら出てきそうだな。」

 「ええ。後、問題がもう一つ有りまして…」

 狐の頭領が言いよどむ。なんだろうか。

 「その、おばけが徘徊しているのです。」

 「おっおばけ! 」

 ライカが悲鳴を上げる。魔獣は怖くないのにおばけは怖いのか。

 「詳しく説明してくれ。」

 「ええ。この村は100年に渡りここで暮らしてきました。幸い狐とバレることもなく、帝国内で人間と最低限の接触でうまくやってきたのです。狐だって寿命があります。二世、三世が今は多いのですが…」

 「つまり、先祖を目撃したのか。」

 「そうです。白狐という先祖を祠で祀っているんですが、白狐様だけではありません。我々の亡くなった先祖たちを目撃したものも多く、すぐに消えてしまったみたいなのですが、皆怯えています。」

 「状況は把握した。」

 ライカがこちらを怯えてた目で見ている。

 「ご主人様、おばけはだめですよ。おばけですよ。」

 「たしかに断って先に進むことはできるだろう。だが、教会の動きも気になる。」

 少し悩んでいると、狐の頭領が頭を下げた。

 「旅人様。お願いします。我々をお救いください。報酬として代々伝わる孤剣をお渡し致します。」

 ふむ。どうしようか。

 「ご主人様、無理ですよ。冷静に考えて下さい。おばけですよ。おばけ。」

 どれだけライカはお化けが怖いんだろうか。まあそれはいい。

 「分かった。解決できるか分からないが、調査だけはさせてもらおう。」

 村人たちはおおと声を上げる。

 ライカはすごく悲しそうな顔をした。

 「ライカ。大丈夫だ。お化けは怖いだろう。お前は宿で待機していてくれ。やばくなったら笛を吹くから。」

 「む~。それならいいですよ。」

 むくれているライカは可愛い。ほっぺたをツンツンしたくなる。

 「ありがとうございます。こちらで用意するものはありますか。」

 「そうだな。村の地図があれば助かる。後は、目撃したお化けと言われる狐の情報がほしい。それと、雨に強いローブがあれば貸してもらえると嬉しいかな。」

 「もちろん全てあります。今持ってこさせましょう。おい、お前もってこい。」

 下っ端ない頭領が指示を出して地図とローブを持ってきてくれた。

 「地図はこちらをご確認下さい。東西南北四箇所祠がありますから、調査だけでもお願いします。」

 「もちろんだ。ローブも使わせてもらおう。最後に一つだけ質問させてくれ。なぜ、オレに依頼したんだ。冒険者ギルドに依頼を出すのでもいいだろう。オレがこの事件の犯人かもしれないだろう。」

 狐の頭領がオレの目をジッと見つめる。

 「それは、あなたが持っている笛です。それはフェンリルが認めたものにしか渡しませんから。」

 「なるほど。それでオレを信頼したということか。」

 「ええ。正直に申し上げると、狐族と狼族はあまり仲はよく有りません。昔から何かと争っていましたから。ですが、背に腹は代えられない。狼族が認めた人間であれば、事を大きくせずにうまく解決してくれるかなと思いまして。」

 狐の頭領がライカを見つめる。

 「お主も昨日は狼だっただろう。狼が攻めてきたと昨日は村がパニックになっておったわ。」

 ライカが気まずそうに、えへへっと笑う。

 「狼と揉めていたのはもう数十年も前の話。お主には関係のない話だがな。」

 そう言うと、狐の頭領がオレに深々と頭を下げる。

 「旅人よ。この村を救ってくれ。」

 「わかった。これから四箇所調査に向かう。誰も家から出さないでくれ。合うやつは敵をみなす。オレには判断できないから家の中に居るようにしてくれ。それに、先祖が立ちふさがったら倒しても良いんだな。」

 「それはしょうがないだろう。やむを得ない状況だからな。承知した。おい、こちらから合図を出すまで家から出ないようにと全員に伝えてこい。旅人よ、数分だけ待ってくれ。」

 オレは頷いて準備に入る。狐族が用意してくれたローブを頭から被る。暖かくこれなら濡れずに視界が確保できる。オレのマントは穴だらけだからな。

 ライカが心配そうな顔でこちらを見ている。

 「ライカ大丈夫だ。お化け退治してくるよ。」

 「わかった。気をつけていってきてね。」

 ライカが笑顔に変わり、小さく手を振った。

 「旅人よ、準備はできたか。いつでも行ってきてくれ。こちらも通達が完了した。」

 オレは頷いて、扉を開けて走り出した。
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