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旅立ち

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 その日のノーズ鉱山防衛成功のお祝いは広場でずっと続いた。

 皆は楽しそうに飲んでいるし、何回も前に立たされてスピーチをさせられた。

 かなり恥ずかしかったけど、何とも言えない気持ちになった。人に求められることがこんなに幸せだとは思わなかった。

 だいぶ酔っている人が多くなっていく中で、ニーナさんが隣に来て座る。

 「カノンさんのお陰で街は救われました。」

 「いえ。ニーナさんまでそんな事言わないで下さい。」

 「カノンさん…街から出ていくんですか。」

 ハッとする。まさかバレるなんて思わなかった。

 頷く。

 「ええ。今日中には出ていこうと思っています。」

 「そうですか。寂しくなりますね。」

 ニーナさんが空を見上げる。

 「カノンさん。これ。」

 ニーナさんが袋を手渡した。

 中を確認すると金貨が入っている。

 「どうせ皆に黙って出ていくんじゃないかと思っていました。先に報酬をお渡しします。」

 ニーナさんは気が利く女性だ。

 「ありがとうございます。」

 「お礼言うのはこっちのほうですよ。私はずっとカノンさんと居たかったな。」

 沈黙が続く。


 ニーナさんが口を開く。

 「ギルドとしてカノンさんを保護することが決まりました。帝国から要請があっても引き渡したりしません。冒険者ギルドとして人を救ってくれていますので当然ですが。それに、新しく冒険者カードを作っておきましたので、これからはこちらを使ってくださいね。」

 ギルドカードを手渡される。名前がカノンと書かれており、ランクもDと印刷されている。

 「すみません。こんなによくしてもらって。すごく嬉しいです。」

 「後、帝国は騎士団を使ってカノンさんを探しているみたいです。エドガー団長が指揮を取って探しているみたいです。注意してくださいね。この街に来たときには、別のところに行ったと嘘ついておきます。」

 ニーナさんは笑った。

 何から何までニーナさんにはお世話になりっぱなしだ。

 「ニーナさん何から何までいつもありがとうございます。」

 「いいえ。これくらいしか私に出来ることはありませんから。」

 ニーナさんの横顔は奇麗だ。月の光で茶色の髪が輝いて見える。

 「カノンさん、私はギルドの職員だから、付いていきたいけどそれは叶いません、最後のお願いです。もう少しだけ二人きりでいさせてください。」






 ニーナさんとお別れをして、ライカとこっそりと街を出る。

 街道を歩いていると、後から爆発音が聞こえた。振り返ると大きな花火が上空に輝いている。

 頭領たちが送り出してくれたのだろう。

 笑みが溢れる。

 街を救えてよかった。

 今日のうちにサンタルークまで辿り着こう。

 街道を歩いていると、木の影から男が現れた。

 「待て。カノン。」

 警戒して剣に手をかける。声をかけた男の顔は見えない。

 「お前のせいで、散々な目にあった、ふざけんなよカノン。全てが台無しだ。」

 どうやらサンドラみたいだ。

 睨んで剣を構えている。

 「サンドラ、今はどういう気持ちだ。ギルドに捨てられて、教会からも見捨てられたのか。」

 サンドラが斬りかかってくる。

 「うるせえ。ぶっ殺してやる。」

 サンドラの剣は遅い。

 目をつぶっていても躱すことはできる。

 サイドステップで避けて、サンドラの斬撃が床に落ちたところで腕を蹴り上げる。

 サンドラは剣を落とし、うめき声を上げた。

 みぞおちを蹴り、跪かせる。

 弱い。弱すぎる。

 「サンドラ。お前にはすべて吐いてもらうぞ。オレは頭領と違って甘くないからな。」

 サンドラは怯えている。

 オレは脅すように笑った。

 サンドラはすぐに吐いてくれた。目論見通り、教会から依頼があってツボを置いたみたいだ。ツボを置けとだけ言われたらしい。

 依頼主のことを話すのは渋ったが、少し刺すだけですぐ吐いた。教会のお偉方から依頼が来たらしい。人を介しての依頼で名前は分からないと言っていたが、恐らく本当だろう。

 卑怯な男が、この命がかかった状況で嘘をつく訳がない。

 「もうこれだけ言ったんだ。助けてくれ。なあ。」

 どうしようか悩む。

 サンドラをこのまま放置していても良いことは起こらないだろう。

 賭けで決めるか。

 「サンドラ、お前はオレだけではなくギルド、そして街の皆までも危険にさらした。殺されても文句は言えないだろう。」

 「ちっちがうんだ。俺は言われただけだ。」

 「チャンスをやろう。コインをトスして、表なら殺す。裏なら見逃す。どうだ。のるか。」

 押さえつけていたサンドラから手を離し、装備も返してやる。

 コインを取るのを手間取る仕草をして、わざとスキを作る。

 「うるせえ。お前にそんなことを言われる筋合いわねえ。」

 そう言うと、サンドラが斬りかかってきた。

 残念だ。

 一閃でサンドラのクビをはねる。

 害をなす人間は駆逐すべきだ。

 「ライカ行こう。こんなまずそうな肉食べちゃダメだ。」

 ライカが少し残念そうな顔をしてアオンと吠えた。

 歩く足取りは軽い、次の街ではどんな出会いがあるのか楽しみだ。
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