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カノン街の英雄になる

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 翌朝、目を覚ます。

 体は少しだけだるいが、問題く動けそうだ。

 ニーナさんはまだ寝ているみたいだ。もう少しだけ休ませておこう。

 まずは、ライカの様子を見に行こう。

 宿を出ると、街中は誰も歩いていない。

 昨日の今日だ。皆、休んでいるのだろう。


 ライカは馬小屋で寝ているみたいだ。

 撫でるとクーンと鳴く、よかった。傷も治っている。元気みたいだ。

 ライカの前にはお供えされているのだろう山盛りに肉が置かれている。

 ライカが嬉しそうに食べている。

 この街の人たちはすごく優しい。居心地が良いが、ずっとここに留まれば迷惑をかけてしまうかもしれない。

 「ライカ今日はゆっくり休んでいてくれ。帝国からの追手はまだこないと思うが、夜には街を出よう。雑務をこなしてくる。」

 ライカが遠吠えする。

 モフモフを数分間撫でて満足したから、宿に戻ろう。お腹も空いてきた。



 宿の部屋に戻ると、ニーナさんは起きていた。

 「あら。おはよう。狂犬のカノンさん。」

 「おはようございます。ニーナさん。体大丈夫ですか。」

 「ええ。色々な意味で痛いけど大丈夫よ。この後、ギルドにて賞金の支払いがあるから一緒にいきましょう。」

 「そうですね。お腹がすきました。ご飯食べたら行きましょうか。」

 「そうね。今日は食事処はやっていないでしょう。私の部屋に行きましょう。ご飯振る舞うわ。」



 ニーナさんのご飯は絶品だった。その後、少しだけ休憩してギルドへ向かった。

 ギルドに入ると、冒険者と頭領含めた男たちが集まっている。サンドラも椅子に座っているが、居心地は悪そうだ。

 「おう、坊主にニーナ遅かったな。皆集まっているぜ。」

 「お待たせしました。報酬の話と魔獣の解体の話をしましょう。」

 昨日の魔獣から素材と魔石の剥ぎ取りをする必要があるみたいだ。手分けしてやらないと腐ってしまう。

 頭領が声をかけて、街の住民を総動員して回収をする。

 ニーナさんは冒険者ギルド本部と連絡を取る必要とお金の準備などがあるらしく、剥ぎ取りには参加できないらしい。

 北門から出て周りを見渡すと倒れた魔獣は500は超えているではないか。

 これは一日がかりだな。

 人とすれ違う度にお礼を言われた。お礼を言われるとむずかゆいな。

 

 全てを終わる頃にはもう夕暮れ。

 ギルドに再度集まった。

 「皆さん。お疲れ様でした。冒険者には金貨100枚お支払いさせていただきます。」

 冒険者が歓声を上げる。

 当然だ。金貨100枚あれば一年は遊んで暮らせる。

 「鉱山の方に関しては、帝国からの見舞金含めて金貨70枚となります。冒険者ギルドとしては頭領含めて皆様がいなければ勝利はなかったので、ギルドから特別に30枚をプラスしてお支払い致します。」

 男たちが歓声を上げる。

 「すまんな。ニーナ。ありがとう。これから鉱山の仕事をギルドに依頼させてくれ。」

 「お礼を言うのはこちらのほうですよ。頭領。」

 頭領とニーナさんが握手を交わす。

 「報酬はそれで十分だ。それでこの男だが、どうする。」

 そう言うと皆が、サンドラを見る。

 「まっ…待ってくれ。スタンビートも収まったんだし良いだろう。」

 「おい。サンドラ。生きているだけで感謝することだな。誰か一人でも命を落としていたらお前殺されてたぞ。言葉には気をつけろ。」

 頭領がサンドラを睨む。

 「待てよ。俺はダンジョンの扉を閉めたぜ。オレが原因だって証拠はあるのか。」

 サンドラは昨日は閉め忘れたと言っていた気がするが、どこまでも卑怯な男だ。

 今にも殴りかかる勢いで頭領がサンドラの胸ぐらを掴む。

 「てめえのせいで街が一つ滅びかけたんだぞ。すみませんでした。じゃねえのか。」

 「ふん。誰も死んでいないだろ。痛いなあ離してくれないか。ギルマスへの暴力かい。」

 ニーナさんが最低ですねとつぶやいたのが聞こえた。

 「待ってくれ頭領。サンドラさん一つだけ確認させてほしい。」

 頭領とサンドラの間に入る。

 「なんだ。」

 不機嫌そうにサンドラがオレを見る。

 「サンドラさんは教会と仲がいいのかい。」

 「なんだそんなことか。ああ。懇意にしているよ。」

 「そうか。普段から教会の黒帽子をかぶっていたもんな。」

 「それがなにか。まだなにかあんのか。」

 「その帽子がダンジョンの入口に落ちていたと言ったらどうする。この街に教会はない。つまりこの帽子の持ち主はサンドラさんだと思うが。」

 サンドラが唾を飲む。

 カマをかけた。帽子が落ちていたことは嘘だ。

 昨日、飲み会の最中に抜け出してサンドラの黒帽子はこっそり盗み出していた。騒動で帽子のことなどおぼえていないだろう。

 「サンドラ。お前は扉を閉めに行ったと口籠っていたが、扉は閉めずに教会の刻印が描かれているツボを置いたんじゃないか。」

 「ばかな。なぜお前がそれを知っている。」

 「お前が知っている…つまりサンドラさんも知っていたんだな。あのツボが魔獣を暴走させることを。」

 サンドラはしまったという顔をするが、もう遅い。

 ここにいる人間、全員が証人だ。

 サンドラがバカで良かった。

 「ほう。サンドラ、お前がなにか企んでいたんだな。坊主感謝する。ちょっとサンドラを借りるぞ。体に聞くほうが早い。ニーナ地下を借りる。」

 頭領がサンドラの首を持ち、引きずって連れていく。男たちも手をポキポキと鳴らしながら頭領に付いていった。

 サンドラの悲鳴が聞こえるがいい気味だ。

 
 数十分も経たずに頭領はぼろぼろになったサンドラを引きずって戻ってきた。

 サンドラはオレを睨んでいる。

 「サンドラが吐いたぞ。教会から依頼があってしたことらしい。サンドラをどうするかは、ギルドに任せる。」

 ニーナが頷く。

 「頭領。ありがとうございます。本来はギルドの仕事なのに。」

 「いいんだよ。オレたちは金貨を多くもらったんだ、これくらい協力させてくれ。」

 「サンドラさん、ギルド本部に報告しました。あなたは冒険者ギルドをクビです。今日を持ってギルドマスターの位を剥奪されます。帝国の国民を守るギルドの一員として許される行為ではありません。」

 ニーナの言葉を聞いて、睨んでいたサンドラがうつむく。

 「待ってくれ、ニーナ。俺はしていない。俺はしていないんだ。」

 「サンドラさん、最後のアドバイスです。この街にいたら殺されるので、すぐに出ていった方が良いと思いますよ。」

 ニーナさんが笑顔でサンドラのギルド証明章を胸から外した。

 サンドラはオレを睨みながらギルドをトボトボと出ていった。

 男たちが歓声を上げる。

 「あいつは昔から偉そうで嫌いだった。」「次にこの街で見つけたらぶっ飛ばしてやる。」「鉱山で働くオレたちを下に見やがって。」と口々に文句を言っている。

 よっぽど嫌われていたのだろう。

 ニーナさんが皆に話しかける。

 「これで一件落着ですね。お金は明日、サンタルークから届きますので、明日お渡しします。」

 「だそうだ。お前たち。街をスタンビートから救ったんだ。明日まで飲むぞ! 」

 二日に渡って飲むのは元気だと思う。それだけ嬉しいのだろう。

 ちょうどいい。盛り上がっているところで、こっそりと街から出ていこう。
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