上 下
21 / 90

カノン街の英雄になる

しおりを挟む
 翌朝、目を覚ます。

 体は少しだけだるいが、問題く動けそうだ。

 ニーナさんはまだ寝ているみたいだ。もう少しだけ休ませておこう。

 まずは、ライカの様子を見に行こう。

 宿を出ると、街中は誰も歩いていない。

 昨日の今日だ。皆、休んでいるのだろう。


 ライカは馬小屋で寝ているみたいだ。

 撫でるとクーンと鳴く、よかった。傷も治っている。元気みたいだ。

 ライカの前にはお供えされているのだろう山盛りに肉が置かれている。

 ライカが嬉しそうに食べている。

 この街の人たちはすごく優しい。居心地が良いが、ずっとここに留まれば迷惑をかけてしまうかもしれない。

 「ライカ今日はゆっくり休んでいてくれ。帝国からの追手はまだこないと思うが、夜には街を出よう。雑務をこなしてくる。」

 ライカが遠吠えする。

 モフモフを数分間撫でて満足したから、宿に戻ろう。お腹も空いてきた。



 宿の部屋に戻ると、ニーナさんは起きていた。

 「あら。おはよう。狂犬のカノンさん。」

 「おはようございます。ニーナさん。体大丈夫ですか。」

 「ええ。色々な意味で痛いけど大丈夫よ。この後、ギルドにて賞金の支払いがあるから一緒にいきましょう。」

 「そうですね。お腹がすきました。ご飯食べたら行きましょうか。」

 「そうね。今日は食事処はやっていないでしょう。私の部屋に行きましょう。ご飯振る舞うわ。」



 ニーナさんのご飯は絶品だった。その後、少しだけ休憩してギルドへ向かった。

 ギルドに入ると、冒険者と頭領含めた男たちが集まっている。サンドラも椅子に座っているが、居心地は悪そうだ。

 「おう、坊主にニーナ遅かったな。皆集まっているぜ。」

 「お待たせしました。報酬の話と魔獣の解体の話をしましょう。」

 昨日の魔獣から素材と魔石の剥ぎ取りをする必要があるみたいだ。手分けしてやらないと腐ってしまう。

 頭領が声をかけて、街の住民を総動員して回収をする。

 ニーナさんは冒険者ギルド本部と連絡を取る必要とお金の準備などがあるらしく、剥ぎ取りには参加できないらしい。

 北門から出て周りを見渡すと倒れた魔獣は500は超えているではないか。

 これは一日がかりだな。

 人とすれ違う度にお礼を言われた。お礼を言われるとむずかゆいな。

 

 全てを終わる頃にはもう夕暮れ。

 ギルドに再度集まった。

 「皆さん。お疲れ様でした。冒険者には金貨100枚お支払いさせていただきます。」

 冒険者が歓声を上げる。

 当然だ。金貨100枚あれば一年は遊んで暮らせる。

 「鉱山の方に関しては、帝国からの見舞金含めて金貨70枚となります。冒険者ギルドとしては頭領含めて皆様がいなければ勝利はなかったので、ギルドから特別に30枚をプラスしてお支払い致します。」

 男たちが歓声を上げる。

 「すまんな。ニーナ。ありがとう。これから鉱山の仕事をギルドに依頼させてくれ。」

 「お礼を言うのはこちらのほうですよ。頭領。」

 頭領とニーナさんが握手を交わす。

 「報酬はそれで十分だ。それでこの男だが、どうする。」

 そう言うと皆が、サンドラを見る。

 「まっ…待ってくれ。スタンビートも収まったんだし良いだろう。」

 「おい。サンドラ。生きているだけで感謝することだな。誰か一人でも命を落としていたらお前殺されてたぞ。言葉には気をつけろ。」

 頭領がサンドラを睨む。

 「待てよ。俺はダンジョンの扉を閉めたぜ。オレが原因だって証拠はあるのか。」

 サンドラは昨日は閉め忘れたと言っていた気がするが、どこまでも卑怯な男だ。

 今にも殴りかかる勢いで頭領がサンドラの胸ぐらを掴む。

 「てめえのせいで街が一つ滅びかけたんだぞ。すみませんでした。じゃねえのか。」

 「ふん。誰も死んでいないだろ。痛いなあ離してくれないか。ギルマスへの暴力かい。」

 ニーナさんが最低ですねとつぶやいたのが聞こえた。

 「待ってくれ頭領。サンドラさん一つだけ確認させてほしい。」

 頭領とサンドラの間に入る。

 「なんだ。」

 不機嫌そうにサンドラがオレを見る。

 「サンドラさんは教会と仲がいいのかい。」

 「なんだそんなことか。ああ。懇意にしているよ。」

 「そうか。普段から教会の黒帽子をかぶっていたもんな。」

 「それがなにか。まだなにかあんのか。」

 「その帽子がダンジョンの入口に落ちていたと言ったらどうする。この街に教会はない。つまりこの帽子の持ち主はサンドラさんだと思うが。」

 サンドラが唾を飲む。

 カマをかけた。帽子が落ちていたことは嘘だ。

 昨日、飲み会の最中に抜け出してサンドラの黒帽子はこっそり盗み出していた。騒動で帽子のことなどおぼえていないだろう。

 「サンドラ。お前は扉を閉めに行ったと口籠っていたが、扉は閉めずに教会の刻印が描かれているツボを置いたんじゃないか。」

 「ばかな。なぜお前がそれを知っている。」

 「お前が知っている…つまりサンドラさんも知っていたんだな。あのツボが魔獣を暴走させることを。」

 サンドラはしまったという顔をするが、もう遅い。

 ここにいる人間、全員が証人だ。

 サンドラがバカで良かった。

 「ほう。サンドラ、お前がなにか企んでいたんだな。坊主感謝する。ちょっとサンドラを借りるぞ。体に聞くほうが早い。ニーナ地下を借りる。」

 頭領がサンドラの首を持ち、引きずって連れていく。男たちも手をポキポキと鳴らしながら頭領に付いていった。

 サンドラの悲鳴が聞こえるがいい気味だ。

 
 数十分も経たずに頭領はぼろぼろになったサンドラを引きずって戻ってきた。

 サンドラはオレを睨んでいる。

 「サンドラが吐いたぞ。教会から依頼があってしたことらしい。サンドラをどうするかは、ギルドに任せる。」

 ニーナが頷く。

 「頭領。ありがとうございます。本来はギルドの仕事なのに。」

 「いいんだよ。オレたちは金貨を多くもらったんだ、これくらい協力させてくれ。」

 「サンドラさん、ギルド本部に報告しました。あなたは冒険者ギルドをクビです。今日を持ってギルドマスターの位を剥奪されます。帝国の国民を守るギルドの一員として許される行為ではありません。」

 ニーナの言葉を聞いて、睨んでいたサンドラがうつむく。

 「待ってくれ、ニーナ。俺はしていない。俺はしていないんだ。」

 「サンドラさん、最後のアドバイスです。この街にいたら殺されるので、すぐに出ていった方が良いと思いますよ。」

 ニーナさんが笑顔でサンドラのギルド証明章を胸から外した。

 サンドラはオレを睨みながらギルドをトボトボと出ていった。

 男たちが歓声を上げる。

 「あいつは昔から偉そうで嫌いだった。」「次にこの街で見つけたらぶっ飛ばしてやる。」「鉱山で働くオレたちを下に見やがって。」と口々に文句を言っている。

 よっぽど嫌われていたのだろう。

 ニーナさんが皆に話しかける。

 「これで一件落着ですね。お金は明日、サンタルークから届きますので、明日お渡しします。」

 「だそうだ。お前たち。街をスタンビートから救ったんだ。明日まで飲むぞ! 」

 二日に渡って飲むのは元気だと思う。それだけ嬉しいのだろう。

 ちょうどいい。盛り上がっているところで、こっそりと街から出ていこう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...