魔法使いフウリン

烏帽子 博

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第二章

ユニコーン

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次の新月迄の間、ヒューリとリタの訓練を中心にスケジュールを組んだ。

ヒューリは、小さいが火球を打ち出せるようになり、剣の腕もあがった。
マリアは、それにも増して、神聖力を身体強化に使える迄になった。

そして、いよいよ新月の日がやって来た。

「リタ 今日の狩りは、あなた一人で行くのよ。
私とはいつでも念話で連絡できるから、心配しないように。」 


~~~


師匠が『妖精のランプ』に火を灯して、補充用の蟻蝋と共に渡してくれた。

山の端に日が沈むと、あたりは真っ暗だ。
星ってこんなにたくさん有ったんだ!夜空を見上げると無数の星々が煌めいている。

『妖精のランプ』は緑色の光を放っているが、あたりをぼんやりと照らすだけで、この広い平原で氷のユリを照らして見つけられるとは思えなかった。

湖の祠を中心に円を描く様に探して、少しずつ範囲を広げていった
もしかしてと思って、湖全体が見渡せる所まで高度を上げてみた。
湖は周りを山に囲まれた所で、カルデラ湖だ。その昔ここで大きな噴火があったんだろう。

その時、湖の中で何かが光った。
「まさかね」

近付いてみると、湖の氷が割れて、その裂け目にユリの用な花がある。
ランプで照らすと、明るく光を跳ね返してきた。氷の下には、まだ何本かあるのか、光るものが見える。

「氷のユリ発見!ヤッター」
おっと、大きな声は禁物ね。目的はユニコーンだもん。

ー 師匠!聞こえます?氷のユリ見つけました ー

ー 凄いわね。よく見つけたわね。でも念話も控えた方が良いかもね。ユニコーンの探知能力は未知だからね ー

ー はい、師匠、ではまた。明日笑顔で会えるよう頑張りま~す ー

氷のユリの生えてる所から100メートル位風下方向に離れ、妖精のランプを消した。結界を作り、魔力も抑えて、隠れてユニコーンを待った。

早く来ないかしら。
ユニコーン
湖の氷が膨張して割れてせり上がる程の寒さの中、ただひたすら待つのは、想像以上に辛い。
結界や体温調節の魔力が無かったら、とっくに凍え死ぬ寒さだ。


とにかく、新月と氷のユリ、この条件が揃うのは、今日を逃したら、1年先だろう。
負けないわ。


もうすぐ夜が明ける頃、
もうだめかと思うと泣きたくなった。
声を出してワーンと泣きたい。
でも、もしかしたらと思って、声を押し殺した。
涙で視界がボヤケてよく見えない

そんな時に、探知に微かに引っかかりをおぼえた。
来たのかしら?
涙を、手の甲で拭って、目に魔力を集めて視力を強化した。

いた!
ツノから足先迄全身真っ白で、存在自体視認しづらいが、ユニコーンだ。

探知で誘導して氷弾を撃った
手応えは有る。
身体強化して一瞬で距離を詰めた。
が、ユニコーンの姿が見えない。
慌てて妖精のランプに火を灯してみると、ボンヤリとユニコーンの姿が見える。

「やっと見つけたわ。私の勝ちよ」
一瞬でユニコーンにトドメを刺した。

どうしてだろう、あれほど待ち望んでいたユニコーンを仕留めたのに、涙が流れてる。
この一晩の辛さからの開放感?いや、何の罪もないユニコーンを殺めたからだ。

「ごめんなさい。ワァーン ワァーン ごめんなさい」

今度は大声をあげて泣いた。

これ迄にも食べる為に動物や魔物を殺めたことはある。
その時は心は傷まなかった。

何故か今回は、苦しかった。

ー 師匠 ユニコーン仕留めました ー

ー よくやったね。おめでとう。お疲れ様。私も嬉しいわ。ー

ユニコーンの体も、氷のユリも、高値で引取ると冒険者ギルドからオファーされていたが、持ち帰る気にはなれず、ユニコーンの角だけ切り取って、他は埋葬した。

妖精のランプを祭壇に戻して、残った蟻蝋は、ソルジャーアントの巣の入口に置いた。

「ヨシ!」
少しだけ心が晴れた。
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