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6・3 解き放たれた黒魔術
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ティアナと似た旅装をした者が、静かに歩み出てくる。
エルーシャと同じ年ごろの女性だ。
フードを目深にかぶっているが、清楚で品の漂う顔立ちだとわかる。
(何者かはわからないが、おとなしそうな雰囲気の女だ)
謎の女性の登場で、ロイエに打算が生まれた。
(彼女なら少し甘い言葉をかければ、俺になびくかもしれないな。荒魔竜を倒した英雄の正体について、エルーシャとティアナがどこまで知っているのかはわからないが……。この女を操れば、ごまかせるかもしれない)
ロイエは下品に口元をにやつかせる。
「やぁ、はじめて見るような美しいお嬢さんだね」
ロイエはいつもの軟派な調子で手を振ってみせた。
フードをかぶった女性は、軽蔑の眼差しを返す。
しかしエルーシャのそばまで来ると一転、胸に手を当て敬意を示した。
「エルーシャ様、あなたがティアナに騎乗用のフェンリルを預けてくださったそうですね。おかげで監禁されていた孤島から救い出されました。本当にありがとうございます」
(孤島に監禁されていた? まるであいつらみたいな話じゃないか……っ、待て。まさか……!?)
ロイエの肌がぞわりと粟立つ。
今まで偽り続けてきた事実が、すべて見透かされている恐怖に襲われた。
*
「はじめまして。ティアナが助けた方ですね」
エルーシャはフードをかぶった女性と向き合い、なにかを探るように目を細める。
彼女が呪縛のような魔術に侵されていることを感じ取った。
「どうやらあなたはまだ、囚われたままのようです」
迷いのない指摘に、フードをかぶった女性は目を見開く。
「私の状態をひと目で見抜いてしまうなんて……」
「人質型の黒魔術ですね。ティアナが今まで自分の過去について語らなかったのは、あなたの命を守るためだったのでしょう?」
「本当に、説明すら必要ありませんね」
フードをかぶった女性はエルーシャの才能を悟り、安堵の微笑を浮かべる。
「では、お願いさせてください。私がかけられた黒魔術を、エルーシャ様の天恵『魔力浄化』で解いてくださいますか?」
「もちろんです」
エルーシャは女性の手を取る。
触れた肌から、相手の強くしなやかな魔力の流れが伝わってきた。
注意深く探っていき、その奥に巣食う歪んだ魔力の塊をとらえる。
意識を集中した。
(この女性の黒魔術が解ければ、英雄の事実に関してティアナの証言が得られるわ)
夜会でロイエに浮気宣言をされた、ひと月ほど前のこと。
エルーシャはティアナから「荒魔竜を討ったのはロイエではない。それ以上は言えない」と明かされた。
(ティアナが黒魔術の術者を裏切る行動をとれば、この女性の心臓は止まるように仕組まれている……。卑劣な手段でふたりは自由を奪われていた。でももうしがらみはないわ!)
邪悪な黒魔術が霧散する。
解き放たれた女性の全身が一瞬、輝きに包まれた。
彼女のフードがはためき、取り払われる。
あらわになったのは、さらりと流れるような青い髪だ。
「エルーシャ様、ありがとうございます。これでようやく名乗ることができるようになりました」
フードを取り払った女性の姿を見て、ロイエの表情がみるみるうちに歪んでいく。
震えながら口を開いても、恐怖のあまり声にもならなかった。
対して女性は清々しい笑顔を浮かべている。
周囲に対し、優雅に一礼した。
「みなさま。私はメラニー・クリスハイルと申します」
会場は凍りついたような静けさに包まれる。
それは魔獣に食い殺された少女としてあまりに有名な、クリスハイル家の末娘の名だった。
エルーシャと同じ年ごろの女性だ。
フードを目深にかぶっているが、清楚で品の漂う顔立ちだとわかる。
(何者かはわからないが、おとなしそうな雰囲気の女だ)
謎の女性の登場で、ロイエに打算が生まれた。
(彼女なら少し甘い言葉をかければ、俺になびくかもしれないな。荒魔竜を倒した英雄の正体について、エルーシャとティアナがどこまで知っているのかはわからないが……。この女を操れば、ごまかせるかもしれない)
ロイエは下品に口元をにやつかせる。
「やぁ、はじめて見るような美しいお嬢さんだね」
ロイエはいつもの軟派な調子で手を振ってみせた。
フードをかぶった女性は、軽蔑の眼差しを返す。
しかしエルーシャのそばまで来ると一転、胸に手を当て敬意を示した。
「エルーシャ様、あなたがティアナに騎乗用のフェンリルを預けてくださったそうですね。おかげで監禁されていた孤島から救い出されました。本当にありがとうございます」
(孤島に監禁されていた? まるであいつらみたいな話じゃないか……っ、待て。まさか……!?)
ロイエの肌がぞわりと粟立つ。
今まで偽り続けてきた事実が、すべて見透かされている恐怖に襲われた。
*
「はじめまして。ティアナが助けた方ですね」
エルーシャはフードをかぶった女性と向き合い、なにかを探るように目を細める。
彼女が呪縛のような魔術に侵されていることを感じ取った。
「どうやらあなたはまだ、囚われたままのようです」
迷いのない指摘に、フードをかぶった女性は目を見開く。
「私の状態をひと目で見抜いてしまうなんて……」
「人質型の黒魔術ですね。ティアナが今まで自分の過去について語らなかったのは、あなたの命を守るためだったのでしょう?」
「本当に、説明すら必要ありませんね」
フードをかぶった女性はエルーシャの才能を悟り、安堵の微笑を浮かべる。
「では、お願いさせてください。私がかけられた黒魔術を、エルーシャ様の天恵『魔力浄化』で解いてくださいますか?」
「もちろんです」
エルーシャは女性の手を取る。
触れた肌から、相手の強くしなやかな魔力の流れが伝わってきた。
注意深く探っていき、その奥に巣食う歪んだ魔力の塊をとらえる。
意識を集中した。
(この女性の黒魔術が解ければ、英雄の事実に関してティアナの証言が得られるわ)
夜会でロイエに浮気宣言をされた、ひと月ほど前のこと。
エルーシャはティアナから「荒魔竜を討ったのはロイエではない。それ以上は言えない」と明かされた。
(ティアナが黒魔術の術者を裏切る行動をとれば、この女性の心臓は止まるように仕組まれている……。卑劣な手段でふたりは自由を奪われていた。でももうしがらみはないわ!)
邪悪な黒魔術が霧散する。
解き放たれた女性の全身が一瞬、輝きに包まれた。
彼女のフードがはためき、取り払われる。
あらわになったのは、さらりと流れるような青い髪だ。
「エルーシャ様、ありがとうございます。これでようやく名乗ることができるようになりました」
フードを取り払った女性の姿を見て、ロイエの表情がみるみるうちに歪んでいく。
震えながら口を開いても、恐怖のあまり声にもならなかった。
対して女性は清々しい笑顔を浮かべている。
周囲に対し、優雅に一礼した。
「みなさま。私はメラニー・クリスハイルと申します」
会場は凍りついたような静けさに包まれる。
それは魔獣に食い殺された少女としてあまりに有名な、クリスハイル家の末娘の名だった。
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