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15・懐かしい再会

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 イリーネが思案していると、青年は驚きつつも笑顔を浮かべて近寄って来た。

「イリーネ、俺だよ! シモナの息子の」

 イリーネは彼に、先ほど思い出していた母の友人であるシモナの面影を見る。

「あんた……ユヴィだよね?」

「そうだよ、びっくりしたな!」

 久々に会ったユヴィは随分背が伸びて別人のように大人びて見えた。

「でも驚いたな! サヒーマたちを見ながら、ちょうどイリーネのことを思い出していたんだ。元気にしているのかなって」

 ユヴィは相変わらずの癖毛と穏やかながらも懐かしい笑顔で迎えてくれたが、どこか疲れているように見えて少し気にかかる。

「私も今、シモナのことを思い出していて……そうだユヴィ。あのサヒーマたちは環境変化のストレスで少し前、角に猛毒溜めるくらい体調を崩していたんだ。ユヴィの母さんはサヒーマの飼育員をしていたけれど、あの子たちをどう世話すればいいのかわかる?」

「確かに、サヒーマの体調管理なら母さんが詳しいだろうけど……」

 ユヴィは唸りながら、柵の向こうでじゃれている二匹のサヒーマに目を向ける。

「残念だけど母さんは今、体調の問題とか色々あって協力できそうにないんだ。だけどサヒーマたちなら、ラヴディングの森で育ったノマの実を食べさせたり、飲み水には香りの強いマーラの葉を選んで塗ってあげるといい。環境変化からくるストレスの炎症を抑えて、体調も毛づやも良くなるから」

「へぇ、結構詳しいね」

「これはサヒーマだけじゃなくて、他の生き物も含めた一般的な話だよ。俺は最近、栄養管理士って名乗ってるんだけど……どんなものを食べれば体にどのような影響があるのかを調べているんだ。近ごろは健康志向の人や、体調管理、肉体改造も食べ物に頼る人が増えているし、細々と食べる程度には困らないよ。イリーネもまだ義賊やってるのか? いい物仕入れたら俺のところに売りにこいよ」

 ユヴィは胸元から取り出した紙にさらさらとメモを書いてイリーネに渡す。

「これ、俺の普段いる場所だから。気が向いたら寄って。待ってる」

「うん」

「ところでイリーネ……男物の上着でごまかしているけど、その令嬢気味の服、盗んだのか? まぁ似合っているけど、らしくない指輪までしてさ。もしかしてどこかの奥様になったとか?」

 すっかり自分の服装のことを忘れていたイリーネは、ユヴィの指摘に歯切れ悪く言い訳を始める。

「これはへまをして人でなしに捕まって、呪いの指輪までつけられたという事情があって……。そうだ。ユヴィは悪魔の魔術解く方法とか知らない? 呪いが解ける食べ物とか……」

「そんな方法はないよ」

 背後からぞっとするほど静かな声がかけられ、イリーネは小さく身体を跳ねさせて振り返る。

 佇むレルトラスの禍々しい迫力に気圧されてユヴィの顔つきも変わったが、イリーネは毎日その毒気に晒され続けて少し鈍感になっているのか、正直に嫌悪感を表した。

「げっ、レルトラス! 来たの?」

「イリーネが楽しそうだから、俺は面白くなくてね。邪魔しに来たよ」

「あんた、人としてどうなのそれ。ユヴィ、行っていいよ。こいつに関わったらろくなことにならないから」

「イリーネ、悪魔の魔術って彼の?」

「そうそう。ほら、早く行って」

「だけど」

「心配してくれるなら、呪いを解く方法とか探しておいてよ。こんなひらひらのスカート、着慣れたくない」

 イリーネが不満を漏らすと、ユヴィは少しだけ笑った。

「わかったよ。確かに彼、手ごわそうだし、今の俺にできることは何もないかもね。イリーネ、また生きて会おう」

 ユヴィが手を振って去っていくのを見て、イリーネはその自由な姿を羨ましく眺める。

(まずは、指輪を外さないとね)

 レルトラスは立ち去ったユヴィに興味を示さず、つまらなさそうにイリーネの首に指を伸ばした。

「イリーネはマイフからもらった鈴のついた首輪をつけたくないと駄々をこねるけれど、やはり人除けとして繋いでおけばよかったね」

 イリーネは不愉快そうに手の甲でレルトラスの手を弾き返す。

「駄々をこねないほうが問題でしょ。全く……どんな説明したら、私にどうぞって動物用の首輪を渡されることになるのか理解できないけど」

「マイフは変わっているから」

「マイフって、ここの領主でしょ? 頭弱そうだけど、サヒーマの世話を任せておいて大丈夫なの?」

「さぁ、興味ないから。マイフのことは、俺も昔に遊んでもらった程度しか知らないし」

「へぇ、あんたと遊ぶなんてよっぽどの変人だろうね……ん」
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