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11・贈り物に指輪は重すぎます

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「レルトラス様、私にはいったい何のことか……」

 エアが戸惑っている中、レルトラスは魔術で硬直させられているイリーネの前に跪いた。

 そして手に収まる高級感のある小箱を開き、そこから細身の指輪を取り出すと、イリーネの白く華奢な薬指にするりと通す。

 少し大きめだったそれはわずかに震えると、イリーネの指にぴたりとはまった。

「な……に、して……」

 イリーネは動かない体で必死に起こっていることを確認しようとするが、肝心の手の辺りがレルトラスの頭部に隠れてよく見えない。

 ただ、自分の指先に触れているその手は意外に思えるほど、イリーネを慈しむように穏やかだった。

(どうしよう、苦しい)

 意識しすぎているのか、触れられたところが意味を帯びるように熱くなる。

「イリーネ、どうかな」

 鋭く澄んだ眼差しに見上げられて、イリーネは怯んだ。

 胸の鼓動が高まってきて、まともに目を合わせられない。

「ど、どうって言われても。拘束されたままだから、何のことか全くわからないし……」

 返事の代わりにすぐに身体の硬直が解かれて、弱り切ったイリーネはそのまま倒れて膝をついた。

「いたた……」

 レルトラスはイリーネの手を取り、それを彼女の顔の前に持ってくる。

 つけられている細いリングに目をとめると、イリーネは全く予想していない光景に目を見張った。

 しばしの間、室内に沈黙が落ちる。

 無反応のイリーネを前に、気の短いレルトラスにしては根気強く待った方だった。

 彼はゆっくりとエアの方を向く。

「エアのアドバイス通り、心のこもった、きらきらした装飾品を贈ったんだけど……燃やしたくなるのはなぜかな」

 エアはようやく事情を悟ると、レルトラスの物の分からなさを理解しつつも叫ばずにはいられなかった。

「出会ったばかりの女性に、指輪の贈り物は重すぎます!」

「こんなに細くて小さいのに、重いわけないよ」

「そうではなく、気持ちの問題で重いのです!」

「よくわからないけれど……この館に置いてある女性用の装飾品はこれしかなかったからね」

 なにやら揉めている二人を尻目に、イリーネは相変わらず自分の指にはまった指輪をしげしげと観察し続ける。

 指輪は滑らかな光沢を放ち、何か意味があるのか文字とも模様ともつかない繊細な装飾が施されていた。

(私、ただの宝飾系興味ないけど。これは妙な力を感じるから、何か特殊効果が付属されているのかも。仮にも王族らしいからそこそこいい物かもしれないし。浄蜜のお返しかな)

 すでに指になじんだ指輪をにんまり見つめていると、イリーネの身体の片側に焼け焦げるような熱を感じる。

 混血の悪魔は片手に火柱を蓄え、視線の先には無力な妖精が壁際で怯えていた。

「お、お許しくださいレルトラス様! 私が注意事項を省いてしまったばかりに! しかし、他者との関係が一度の失敗で終わることはまれで、何度も歩みを進めているうちに深まっていくのが常でありまして……」

「少なくとも俺は、一度嫌になった奴は永遠に嫌いだよ」

「それはレルトラス様が嫌いになった時点で葬り去ってしまうので、深めようが……」

「よくわかったね、エア。おやすみ」

「ひゃっ! イリーネ様! お助けを……!」

「何、なんのこと。そんなことよりこれ!」

 イリーネはレルトラスのそばにやってくると、指輪のはまった手のひらを開いて見せる。

「これ、本当にくれるの?」

 イリーネのどこかうきうきした様子に、エアへ向けられていたレルトラスの射殺すような眼差しが少し緩んだ。

「俺には全く理解できないけれど、そんな小さいものが本当に重いのなら別の軽い物に……」

「いいよ。もっと重くてもいいくらい」

 イリーネの明るい声にレルトラスは息をのみ、手のひらの火柱が一瞬で消える。

「イリーネ、気に入ったのかい」

「まぁね」

 あっけにとられたレルトラスとエアを気にする様子もなく、イリーネは手のひらを掲げてほんのりと微笑んだ。

 出会ってからはじめて見せたイリーネの表情に、レルトラスは釘付けになる。

 身を整えた彼女はそれだけで可憐だったが、最も価値のある色香はその笑顔に間違いなかった。

(高く売れるかな)

 ただし、頭の中は通常運転である。
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