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21・ありがとう
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「カーム、急いできてくれて、ありがとう。門のところで、返事をしてくれなかったから。私、嫌われたかもしれないって、怖かったの」
「ガキだからな、俺」
「え?」
「兄貴の言う通りだから。俺、好きにすればいいとか言ったけど。ここに来させるの、本当に嫌だったし。実際、フェアルはあんな家で育って、自分のしたいことに鈍いようなところもあるから、色々考えるのには、ちょうどいいと思ったんだけど……。フェアルの来客が誰なのか考えだしたら、俺、解毒に関しての手配中も落ち着かないし。気になるし。だから即行で終わらせて、全然余裕ない状態で、ここに乗り込んだんだよ。それで、兄貴がいて……で、事情知られて、からかわれて……。いつになったら、こんなガキっぽい自分から抜け出せるんだろうな」
フェアルはそっと、カームの後ろ姿を見上げる。
離れていた時の心細さを思い出すと、胸の奥がうずいて、今までとは違う気持ちで、泣きたくなった。
「私は、ただ……カームが来てくれたから。嬉しい」
「俺の方だよ」
「え?」
「フェアルが戻ってきて、よかった」
ずいぶん小さな声だったので、フェアルは聞き間違いかと見上げる。
カームの耳が、火傷でもしたのかと思うほどに赤い。
見間違いかと思い、横顔を凝視する。
耳だけでなく、全体的に、赤い。
フェアルは口を開いたが、何を言えばいいのか分からず、言葉が出てこなかった。
「見るなよ」
17歳の青年は、フェアルと目を合わせず、赤面を空いている方の腕で隠した。
「だから、見るなって。俺、こういうの、慣れてない」
「ご、ごめんね。突然言われたから、びっくりして。だけど、カームが気持ち、言おうとしてくれてるの、わかるよ。その、あの……」
なんとか意思疎通をしようとしているうちに、フェアルの顔まで熱くなってくる。
普段は博識に裏打ちされた考察と判断で、自分よりずっと落ち着いて見えるというのに、不器用に感情を伝えられると、今までどうやって接していたのか、わからなくなった。
カームは大きく息を吐いてから、小さく笑った。
「……本当、嫌になる。俺、ずっとごまかしてきたから。それっぽく見せることばかり得意になったけど、それって子どもでも、大人でもないんだな。フェアルは恥ずかしげもなく、思ったことを垂れ流してるけど、俺、無理だし」
「私、垂れ流しているつもりは……」
「いつも全身から、とくに目玉から垂れ流してるだろ、フェアルは。俺には無理だ」
「私、わかるよ。今、カームが恥ずかしがってること」
「そこはわからないふりしろよ」
「できないよ、わかるんだもん」
「おまえな……」
「それに、昨日から嬉しい。誰かにお礼を言われるなんて……10年以上、なかったから」
フェアルは恥ずかしそうにはにかむと、カームは「今日は兄貴の方が、先に言ってたけどな」と不満げにつぶやく。
「フェアルは大人だな」
「変なの。カームの方が、私には大人に見えるのに」
少し離れたところから、ノクタディットの茶化すような合いの手が入る。
「かっこつけてるだけだよー」
「うるさい! 地獄耳やめろ!」
カームは怒鳴り返すと、フェアルの手を強く引いてくる。
それは強引でもなく、乱暴でもなく、ただついていきたいと思わせる安心感があった。
「行くぞ」
返事の代わりに、フェアルは、ありったけの勇気を出して、大きな手を握り返した。
「ガキだからな、俺」
「え?」
「兄貴の言う通りだから。俺、好きにすればいいとか言ったけど。ここに来させるの、本当に嫌だったし。実際、フェアルはあんな家で育って、自分のしたいことに鈍いようなところもあるから、色々考えるのには、ちょうどいいと思ったんだけど……。フェアルの来客が誰なのか考えだしたら、俺、解毒に関しての手配中も落ち着かないし。気になるし。だから即行で終わらせて、全然余裕ない状態で、ここに乗り込んだんだよ。それで、兄貴がいて……で、事情知られて、からかわれて……。いつになったら、こんなガキっぽい自分から抜け出せるんだろうな」
フェアルはそっと、カームの後ろ姿を見上げる。
離れていた時の心細さを思い出すと、胸の奥がうずいて、今までとは違う気持ちで、泣きたくなった。
「私は、ただ……カームが来てくれたから。嬉しい」
「俺の方だよ」
「え?」
「フェアルが戻ってきて、よかった」
ずいぶん小さな声だったので、フェアルは聞き間違いかと見上げる。
カームの耳が、火傷でもしたのかと思うほどに赤い。
見間違いかと思い、横顔を凝視する。
耳だけでなく、全体的に、赤い。
フェアルは口を開いたが、何を言えばいいのか分からず、言葉が出てこなかった。
「見るなよ」
17歳の青年は、フェアルと目を合わせず、赤面を空いている方の腕で隠した。
「だから、見るなって。俺、こういうの、慣れてない」
「ご、ごめんね。突然言われたから、びっくりして。だけど、カームが気持ち、言おうとしてくれてるの、わかるよ。その、あの……」
なんとか意思疎通をしようとしているうちに、フェアルの顔まで熱くなってくる。
普段は博識に裏打ちされた考察と判断で、自分よりずっと落ち着いて見えるというのに、不器用に感情を伝えられると、今までどうやって接していたのか、わからなくなった。
カームは大きく息を吐いてから、小さく笑った。
「……本当、嫌になる。俺、ずっとごまかしてきたから。それっぽく見せることばかり得意になったけど、それって子どもでも、大人でもないんだな。フェアルは恥ずかしげもなく、思ったことを垂れ流してるけど、俺、無理だし」
「私、垂れ流しているつもりは……」
「いつも全身から、とくに目玉から垂れ流してるだろ、フェアルは。俺には無理だ」
「私、わかるよ。今、カームが恥ずかしがってること」
「そこはわからないふりしろよ」
「できないよ、わかるんだもん」
「おまえな……」
「それに、昨日から嬉しい。誰かにお礼を言われるなんて……10年以上、なかったから」
フェアルは恥ずかしそうにはにかむと、カームは「今日は兄貴の方が、先に言ってたけどな」と不満げにつぶやく。
「フェアルは大人だな」
「変なの。カームの方が、私には大人に見えるのに」
少し離れたところから、ノクタディットの茶化すような合いの手が入る。
「かっこつけてるだけだよー」
「うるさい! 地獄耳やめろ!」
カームは怒鳴り返すと、フェアルの手を強く引いてくる。
それは強引でもなく、乱暴でもなく、ただついていきたいと思わせる安心感があった。
「行くぞ」
返事の代わりに、フェアルは、ありったけの勇気を出して、大きな手を握り返した。
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