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55・目的
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「もちろん、あなたにクレイの話を聞いてもらいに来ました!」
ティサリアはいきいきとした様子で、リュックの中を確認し始める。
「少しでも楽しく、わかりやすく……と考えた結果、紙芝居を作ってみたんです! ヴァルドラはねぐらでずっとひとりだったんですよね? それならまずはほっこりした気持ちになれる『クレイ君と城下の子どもたち』を聞いてみませんか!? お腹の空いている私のおススメは『クレイ君は屋台がお好き』ですが! しかし主人と騎士の熱い友情を表現した『クレイ君と愉快な護衛騎士』なども自信作です! では、どの話から行きますか!!」
『……その作風で話すことは決定しているのか』
「あっ、すみません。硬派な感じが好みですか?」
『違う! 俺はお前の目的を聞いているんだ』
「? ですから私の目的は、ヴァルドラに会って挨拶が出来たので、次はクレイの話を聞いてもらうことです! 私はヴァルドラがクレイのことを思って、静かに自分から去ったと知っているんです。詳しい事情はわかりませんが、クレイのことが好きだけど会えない、という切ない状況は想像できます! ですから最近のクレイの様子を、楽しくヴァルドラに伝えたいんです!」
『それで紙芝居か……』
「人形劇にすると持ち運びが大変そうだったので。ですが、希望があればもちろん検討します!」
『だから違う! お前は一体、何を考えて……いや。そう聞いても返ってくる言葉はわかっている……』
ヴァルドラが戸惑いがちに横目で見ると、ティサリアはリュックから取り出した紙芝居の表紙を、さっとヴァルドラへ向けた。
*
少し経ったころ、リンは勢いよくヴァルドラのねぐらへ飛び込んだ。
魔力追跡に特化した彼女だったが、周辺をくまなく捜索してもティサリアの魔力を探知できずにいる。
一番考えたくないことだったが、それはこの竜の巣と思われる洞から漂う、膨大な魔力量にかき消されているせいだと直感した。
巣の主は今まで出会ったどの竜よりも、高い潜在魔力を持つことは間違いない。
しかし大切な友がそこにいるのならばと、リンは臆せずに突き進んだ。
通路の大きさからすると、その竜は魔力だけではなく身が大きく力も強い。
リンはティサリアを救うべきあらゆる手段に意識を集中させながら、風を切ってその先へ向かった。
(何か聞こえてきた……ティサリアの声だわ。もしかして結界の詠唱を唱えている? まさか恐ろしいほどの魔力を持つ竜に対峙して、相当危険な状況になって……!?)
通路が開けた先、リンはその広い空間に躍り出る。
『ティサリア!』
そこには大きめの紙を持ち、声色を使い分けてなにやら物語っているティサリアの後ろ姿と、彼女に向き合っている巨大な緋竜がお行儀よく座り、夢中になって話を聞いている姿があった。
ティサリアはいきいきとした様子で、リュックの中を確認し始める。
「少しでも楽しく、わかりやすく……と考えた結果、紙芝居を作ってみたんです! ヴァルドラはねぐらでずっとひとりだったんですよね? それならまずはほっこりした気持ちになれる『クレイ君と城下の子どもたち』を聞いてみませんか!? お腹の空いている私のおススメは『クレイ君は屋台がお好き』ですが! しかし主人と騎士の熱い友情を表現した『クレイ君と愉快な護衛騎士』なども自信作です! では、どの話から行きますか!!」
『……その作風で話すことは決定しているのか』
「あっ、すみません。硬派な感じが好みですか?」
『違う! 俺はお前の目的を聞いているんだ』
「? ですから私の目的は、ヴァルドラに会って挨拶が出来たので、次はクレイの話を聞いてもらうことです! 私はヴァルドラがクレイのことを思って、静かに自分から去ったと知っているんです。詳しい事情はわかりませんが、クレイのことが好きだけど会えない、という切ない状況は想像できます! ですから最近のクレイの様子を、楽しくヴァルドラに伝えたいんです!」
『それで紙芝居か……』
「人形劇にすると持ち運びが大変そうだったので。ですが、希望があればもちろん検討します!」
『だから違う! お前は一体、何を考えて……いや。そう聞いても返ってくる言葉はわかっている……』
ヴァルドラが戸惑いがちに横目で見ると、ティサリアはリュックから取り出した紙芝居の表紙を、さっとヴァルドラへ向けた。
*
少し経ったころ、リンは勢いよくヴァルドラのねぐらへ飛び込んだ。
魔力追跡に特化した彼女だったが、周辺をくまなく捜索してもティサリアの魔力を探知できずにいる。
一番考えたくないことだったが、それはこの竜の巣と思われる洞から漂う、膨大な魔力量にかき消されているせいだと直感した。
巣の主は今まで出会ったどの竜よりも、高い潜在魔力を持つことは間違いない。
しかし大切な友がそこにいるのならばと、リンは臆せずに突き進んだ。
通路の大きさからすると、その竜は魔力だけではなく身が大きく力も強い。
リンはティサリアを救うべきあらゆる手段に意識を集中させながら、風を切ってその先へ向かった。
(何か聞こえてきた……ティサリアの声だわ。もしかして結界の詠唱を唱えている? まさか恐ろしいほどの魔力を持つ竜に対峙して、相当危険な状況になって……!?)
通路が開けた先、リンはその広い空間に躍り出る。
『ティサリア!』
そこには大きめの紙を持ち、声色を使い分けてなにやら物語っているティサリアの後ろ姿と、彼女に向き合っている巨大な緋竜がお行儀よく座り、夢中になって話を聞いている姿があった。
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