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62・飛空船のお披露目パーティー
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その日は反竜派のフォスタリア公爵が主催する、最新の飛空船のお披露目パーティーだった。
「あれ、なんですかね」
付き添っている赤髪の護衛騎士ザックの言葉に、クレイルドは飛空船内の広いラウンジへ視線を向ける。
頭上には豪華なシャンデリアがきらめき、アルノリスタ王国中から呼ばれた来客が立食形式の軽食や歓談を楽しんでいるその奥に、巨大なモニター画面があった。
もう一人の金髪の護衛騎士ラウドは、「ああ」と、興味深げに頷く。
「あのモニターを起動させれば、船内のあちこちを映せて、様子を見ることができるのでしょう。音声も調整すれば聞こえるはずです。見たところ、最新の魔法技術で作られているのではないでしょうか」
「ふーん。そんなに立派なものなのに、どうして使わないんだ? せっかく飛空船を自慢するためにたくさん人を呼んでいるんだし、試しに映してくれれば面白いのにな」
「ザック、いいですか。もしあのモニターに私たちが映し出されたとしても、殿下の側でピースサインはやめてくださいよ」
「ラウドこそ、殿下の側で人見知りの子どもみたいに、顔を赤らめてもじもじするなよ」
ザックとラウドは一言ずつやりあうと、この飛空船の機能や設備について考察し始めた。
クレイルドはそれを聞きながら、一面が大窓となっている壁へと寄る。
世界には青空が広がり、あちこちに柔らかそうな白雲が浮いていた。
見下ろすと山に囲まれたフォスタリア公爵領の田舎道が伸びていて、粒のように小さく見える領民たちがこちらを仰いだり、手を振ったりしている。
船内の様子が見えるのかはわからなかったが、クレイルドは自然と笑みを浮かべて手を振り返した。
「フォスタリアの領民は、この飛空船を歓迎しているのかな」
何気ない呟きをザックが拾う。
「どうですかね。結局領民は領主の決定に従うしかありませんから。フォスタリア公爵は最新式の飛空船を領民に見せつけて、『竜は危険で飛空船は安心だ』ってアピールしてるつもりでしょうけど」
ラウドは首を傾げる。
「そのアピールに何の根拠も見当たりませんし、最新が最善とも限りませんが」
「まぁ要は、手に入れたばかりの高級おもちゃを自慢したいんだろ。さっきの演説も『竜は危ない』ってまた言いふらしていたし、ここに招待したのも殿下の印象を悪くさせようって、そんなくだらない魂胆じゃないのか」
「なるほど。とんでもなく幼稚な嫌がらせ好きの発想ですね」
忠実な護衛たちが主人の受けている無礼に腹を立てているのだと気づき、クレイルドは和やかに笑った。
「俺がここに呼ばれたのは好都合だったけどね。最近はみんな竜に興味を持ってきているから。来客の方々とも一通り挨拶を済ませたけれど、彼らが竜に対してどう考えているのかを把握するには、もってこいの状況だったよ」
余裕の笑顔を浮かべるクレイルドに、護衛たちは目をしばたく。
「最近の殿下は、色男っぷりに磨きをかけすぎてませんか?」
「確かに近ごろの殿下は、国内外問わず評判が上がり続けていますね」
二人にまじまじと見つめられたクレイルドは思い当たることがあるのか、にこやかに頷くと胸の辺りに手を置いた。
その日は反竜派のフォスタリア公爵が主催する、最新の飛空船のお披露目パーティーだった。
「あれ、なんですかね」
付き添っている赤髪の護衛騎士ザックの言葉に、クレイルドは飛空船内の広いラウンジへ視線を向ける。
頭上には豪華なシャンデリアがきらめき、アルノリスタ王国中から呼ばれた来客が立食形式の軽食や歓談を楽しんでいるその奥に、巨大なモニター画面があった。
もう一人の金髪の護衛騎士ラウドは、「ああ」と、興味深げに頷く。
「あのモニターを起動させれば、船内のあちこちを映せて、様子を見ることができるのでしょう。音声も調整すれば聞こえるはずです。見たところ、最新の魔法技術で作られているのではないでしょうか」
「ふーん。そんなに立派なものなのに、どうして使わないんだ? せっかく飛空船を自慢するためにたくさん人を呼んでいるんだし、試しに映してくれれば面白いのにな」
「ザック、いいですか。もしあのモニターに私たちが映し出されたとしても、殿下の側でピースサインはやめてくださいよ」
「ラウドこそ、殿下の側で人見知りの子どもみたいに、顔を赤らめてもじもじするなよ」
ザックとラウドは一言ずつやりあうと、この飛空船の機能や設備について考察し始めた。
クレイルドはそれを聞きながら、一面が大窓となっている壁へと寄る。
世界には青空が広がり、あちこちに柔らかそうな白雲が浮いていた。
見下ろすと山に囲まれたフォスタリア公爵領の田舎道が伸びていて、粒のように小さく見える領民たちがこちらを仰いだり、手を振ったりしている。
船内の様子が見えるのかはわからなかったが、クレイルドは自然と笑みを浮かべて手を振り返した。
「フォスタリアの領民は、この飛空船を歓迎しているのかな」
何気ない呟きをザックが拾う。
「どうですかね。結局領民は領主の決定に従うしかありませんから。フォスタリア公爵は最新式の飛空船を領民に見せつけて、『竜は危険で飛空船は安心だ』ってアピールしてるつもりでしょうけど」
ラウドは首を傾げる。
「そのアピールに何の根拠も見当たりませんし、最新が最善とも限りませんが」
「まぁ要は、手に入れたばかりの高級おもちゃを自慢したいんだろ。さっきの演説も『竜は危ない』ってまた言いふらしていたし、ここに招待したのも殿下の印象を悪くさせようって、そんなくだらない魂胆じゃないのか」
「なるほど。とんでもなく幼稚な嫌がらせ好きの発想ですね」
忠実な護衛たちが主人の受けている無礼に腹を立てているのだと気づき、クレイルドは和やかに笑った。
「俺がここに呼ばれたのは好都合だったけどね。最近はみんな竜に興味を持ってきているから。来客の方々とも一通り挨拶を済ませたけれど、彼らが竜に対してどう考えているのかを把握するには、もってこいの状況だったよ」
余裕の笑顔を浮かべるクレイルドに、護衛たちは目をしばたく。
「最近の殿下は、色男っぷりに磨きをかけすぎてませんか?」
「確かに近ごろの殿下は、国内外問わず評判が上がり続けていますね」
二人にまじまじと見つめられたクレイルドは思い当たることがあるのか、にこやかに頷くと胸の辺りに手を置いた。
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