上 下
38 / 86

38・熱心な質問

しおりを挟む
 クレイルドはその端正な輪郭を青空へ向ける。

「だけどその日は、俺と同じ年で下働きしている子が解雇されていたと知ってしまってね。どうしても謝りたくて、城を抜け出したんだ」

「その方に、何かしてしまったのですか?」

「彼が手入れをした木剣で俺がへまをして、ちょっとした怪我をしたことが解雇の理由だったんだ。彼の父親は体の調子が良くなくて、少しでも家にお金を入れるために働いていたことを知っていたから、俺は夢中で飛び出して……。だけど子どもだったというか、彼の家の場所について知っていることは『王城より西側で、隣に大きな栗の木がある赤い屋根の家』だけだったんだよ。会うどころか、家すら見つけられなかった」

 クレイルドは友人と会うことも叶わずとぼとぼと戻る途中、何気なく立ち寄った時計塔の屋上で、中型犬ほどの大きさをしたオスの幼竜を見つけた。

「ヴァルドラは親とはぐれたんだろうな。見た目の傷は軽傷だったけれど、遠くから飛んできたのか妙にぐったりとしていて、近づいても触っても威嚇どころか抵抗すらしなかったよ」

 この国で竜が見つかればどうなるかはわかっていたので、それから時計塔に通ってこっそり世話をすると、ヴァルドラはどんどん元気になっていった。

「そのうち、本で読んだ通りブレスを吐くような仕草を始めたんだ。だから焼きイモでも一緒に食べようと思って持参したら……凍てつく息吹でカチコチにされたよ。綺麗な緋色の竜鱗だったから、てっきり火竜だと思ったんだけど」

 イモが凍ってがっかりしている少年のクレイルドと、見事な息吹を出せて得意げな幼竜が浮かんできて、ティサリアもつい頬が緩む。

「ヴァルドラの外見は火竜のようですが、潜在魔力は氷竜ということですよね。そんな竜、初めて聞きました。好む生育環境は火山帯なのでしょうか。それとも氷山? 意外と渓谷や小島かも……そうだ、角はありましたか? 鉤爪は何本ですか? 生え変わったりは?」

 ティサリアの熱心な質問に、クレイルドの方が驚く。

「詳しいね、竜についてそこまで調べてくれたの?」

「それもありますが、先ほど話した竜騎士の友達との出会いがきっかけで知ったこともあります。その竜にイモを食べさせようとしたということは、好きな食べ物は根菜ですか? 趣味は? 特技は? 好みのタイプのメスは?」

 クレイルドは声を上げて笑った。

「俺よりヴァルドラの方が興味ある?」

「えっ……え、いえ! その、すみません。時折呼ばれるお茶会でも、他のご令嬢たちは素敵な竜騎士の男性の話で盛り上がるのに、私はこんな感じで彼らの乗っていた竜のことばかりが気になって……。みなさんの好きな話題についていけた方が、話も弾むとは思うのですが」

「いや、俺は竜の話をしてくれた方がいいな」

 その言い方がどことなく親しげで、ティサリアもほっとする。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双子の姉妹の聖女じゃない方、そして彼女を取り巻く人々

神田柊子
恋愛
【2024/3/10:完結しました】 「双子の聖女」だと思われてきた姉妹だけれど、十二歳のときの聖女認定会で妹だけが聖女だとわかり、姉のステラは家の中で居場所を失う。 たくさんの人が気にかけてくれた結果、隣国に嫁いだ伯母の養子になり……。 ヒロインが出て行ったあとの生家や祖国は危機に見舞われないし、ヒロインも聖女の力に目覚めない話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ヒロイン以外の視点も多いです。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/3/6:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...