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17・デザートは絶対残さない(ジェイル視点)

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(何か持ってきてくれたのか?)

 ジェイルが軽く手を振りかざすと、彼の魔力で卓上のランタンにほどよい光が灯った。

 リセから紙袋を受け取るとほんのり温かく、甘い香ばしさに鼻をくすぐられる。

 開けると丁寧に形成されたクッキーが入っていた。

「ジェイルって甘いもの好きだよね」

「そうか?」

「だってお腹がいっぱいでもデザートは絶対残さないもん。今日は何もいらないって言ってたけど……これ、食べない?」

「食べるか」

 ジェイルは相変わらず食欲もなかったが、せっかくリセが持ってきてくれたので、ベッドに腰掛けたまま焼き菓子をいただく。

 リセはジェイルの食事を用意しているうちにその嗜好を把握しつつあるため、味はかなり好みだった。

 生地には色とりどりの果実や、柑橘系の甘くさっぱりとした香草がちりばめられて、それぞれが素材の風味を引き立てるような、いいアクセントになっている。

 次第に食欲をそそられ、食べているうちに止まらなくなった。

「いつもの変な草も入ってるな」

「ハーブだよ。それは精霊の体の調子を整えるんだって」

「美味いよ。ほら」

 袋を向けるとリセも一枚手に取り、薄く艶のある唇を開いて頬張るので、つい見つめる。

(食べるの下手なのか? なんだか危なっかしい……おい、こぼすぞ)

 ジェイルはふと、リセから目が離せなくなっている自分に気づき、慌てて視線を逸らした。

(本当は俺に近づきたくもないくせに。自分が寒いことも忘れて、冷めないように抱えてきてくれたんだな……)

 リセがクッキーを頬張っている音を聞いているうちに、ジェイルの表情が和らいでいく。

「今日は朝から嫌がらせばかりして、悪かった」

 ふと漏らすと、リセは嫌な話題だったらしく、あからさまにぎこちなくなった。

「あ、えっと……あの男の人たち、ジェイルのこと怖くないってわかってくれたかな? 精霊獣を捕まえようって考えないでくれたらいいね」

(そっちか)

 キスのことはなかったことにされて、ジェイルは複雑な気持ちで甘い焼き菓子をかじる。

 リセは急に居心地が悪くなったように、そわそわと視線をあちこちに移した。

「私、クッキーは窓から渡すだけにしようと思ってたけど、大丈夫? 私といたら疲れない?」

(あ、そうか。外気で身体が冷え切っていたから何も聞かずに抱き上げたけど……もしかして窓から来たのは、俺の部屋に入るのを避けてただけなのかもな)

「こんな時間に勝手に連れ込んで悪かったよ」

「そんなことない。私はずっと、ジェイルのこと気になってたから。こうやって、いつもみたいに話せてほっとしてる」

 言いながら、リセが眠そうにあくびをしたので、ジェイルは苦笑する。

(眠いのに来てくれたのか)

「そろそろ戻って休めよ」

 離れる寂しさからそっけなく言うと、リセははっとしたようにうつむいた。

「あ、あのね……その前に」

「どうした」

「実は思い切って、お願いしたいことが」

「リセが?」

「うん……」


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