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52・来訪客
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「そいつ、レオルの気配じゃないよ」
ディノの指摘に、私は小声で返す。
「誰かしら?」
「僕の知らない人。四人だよ。どうするの?」
「お客様だもの、用件を聞いてから決めるわ。念のため、ディノは姿を隠していて」
「わかった。困ったことがあったら、いつでも呼んで。フィリシアがいじめられたら、僕は許さないからね」
ディノが錬金釜の入っている収納袋へ、ぴょんと飛んで溶けるように消える。
私は錬金部屋を出ると、玄関に向かって声をかけた。
「どなたかしら」
「僕だよ。フロイデンだ」
予想通り、聞き覚えのある青年の声と名前だった。
最近はオルドー様への来客が増えているし、人に紛れて敷地内に忍びこみやすかったのかもしれない。
「アドレオルトがとても君を大切にしているようだから、相談があって来たよ」
レオルのことをまた、この町では聞いたことのない名前で呼んでいる。
このままオルドー様の敷地内で扉越しに話せば、偶然誰かの耳にレオルの隠したい事情が漏れるかもしれないので、レオルの名前は出さないように気をつける。
「彼はその話、知られたくないみたいなの。あなたも知らないふりをしてくれると嬉しいのだけど」
「そういうわけにはいかない。僕は彼にどうしても聞かなければいけないことがあるから、話してくれるまで引き下がるつもりもないよ。かと言って、カシュラ王族の類まれな魔法の力はともかく、アドレが剣術をあれほどに磨いていることはは想定外でね。多少手荒ではあるが、君を餌にアドレをおびき寄せて話をつけることにした。大人しくついてきてもらおうか」
「つまり、誘拐ってこと?」
「大人しく従えば、危害は加えない」
「だけど私、これから予定があるの」
「いいのか? 従わないのなら、ここでアドレの隠している事実を騒ぎ立てるぞ」
それはレオルが嫌がるわね。
でも私の欲しい物が完成したお祝いを今夜すると、イライナ様やコシマさんにもこっそり自慢してしまったし……出来るだけ変更はしたくない。
それにコシマさんからは、あれから彼らがもう来ていないと聞いているけれど、レオルにあれだけ脅されても私の所にやって来たのだし、今追い払ってもまたしつこくつきまとってきそうだし、葬り去るにしてもここでは良くないし……。
彼らの言う通り、話をするのなら場所を変えたほうが良さそうね。
もしかして彼らは私の知らない、今夜のピクニックにいい場所を教えてくれるかもしれないし、そのままお祝いしてしまおうかしら。
「今、行くわ。少し待っていて!」
私は錬金部屋に戻ってディノを含む錬金釜一式の入った収納袋を取って戻ると、玄関を開けてわくわくしながら挨拶をした。
「さぁ、準備はできたから、人に見られる前に早く行きましょう! ピクニック……ではなくて、誘拐先はどこなのかしら?」
期待を込めて聞くと、フロイデンと背後にいるあの三人の男たちは戸惑った様子で私を見てくる。
ディノの指摘に、私は小声で返す。
「誰かしら?」
「僕の知らない人。四人だよ。どうするの?」
「お客様だもの、用件を聞いてから決めるわ。念のため、ディノは姿を隠していて」
「わかった。困ったことがあったら、いつでも呼んで。フィリシアがいじめられたら、僕は許さないからね」
ディノが錬金釜の入っている収納袋へ、ぴょんと飛んで溶けるように消える。
私は錬金部屋を出ると、玄関に向かって声をかけた。
「どなたかしら」
「僕だよ。フロイデンだ」
予想通り、聞き覚えのある青年の声と名前だった。
最近はオルドー様への来客が増えているし、人に紛れて敷地内に忍びこみやすかったのかもしれない。
「アドレオルトがとても君を大切にしているようだから、相談があって来たよ」
レオルのことをまた、この町では聞いたことのない名前で呼んでいる。
このままオルドー様の敷地内で扉越しに話せば、偶然誰かの耳にレオルの隠したい事情が漏れるかもしれないので、レオルの名前は出さないように気をつける。
「彼はその話、知られたくないみたいなの。あなたも知らないふりをしてくれると嬉しいのだけど」
「そういうわけにはいかない。僕は彼にどうしても聞かなければいけないことがあるから、話してくれるまで引き下がるつもりもないよ。かと言って、カシュラ王族の類まれな魔法の力はともかく、アドレが剣術をあれほどに磨いていることはは想定外でね。多少手荒ではあるが、君を餌にアドレをおびき寄せて話をつけることにした。大人しくついてきてもらおうか」
「つまり、誘拐ってこと?」
「大人しく従えば、危害は加えない」
「だけど私、これから予定があるの」
「いいのか? 従わないのなら、ここでアドレの隠している事実を騒ぎ立てるぞ」
それはレオルが嫌がるわね。
でも私の欲しい物が完成したお祝いを今夜すると、イライナ様やコシマさんにもこっそり自慢してしまったし……出来るだけ変更はしたくない。
それにコシマさんからは、あれから彼らがもう来ていないと聞いているけれど、レオルにあれだけ脅されても私の所にやって来たのだし、今追い払ってもまたしつこくつきまとってきそうだし、葬り去るにしてもここでは良くないし……。
彼らの言う通り、話をするのなら場所を変えたほうが良さそうね。
もしかして彼らは私の知らない、今夜のピクニックにいい場所を教えてくれるかもしれないし、そのままお祝いしてしまおうかしら。
「今、行くわ。少し待っていて!」
私は錬金部屋に戻ってディノを含む錬金釜一式の入った収納袋を取って戻ると、玄関を開けてわくわくしながら挨拶をした。
「さぁ、準備はできたから、人に見られる前に早く行きましょう! ピクニック……ではなくて、誘拐先はどこなのかしら?」
期待を込めて聞くと、フロイデンと背後にいるあの三人の男たちは戸惑った様子で私を見てくる。
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