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26・猫は相談に向いていない

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 思わずため息が出てしまう。

「私、レオルの負担になっているわよね」

「えっ? レオルは楽しそうだと思うけど……でもリシアがそんなに弱気になるなんて、珍しいなぁ」

「レオルは大切な人だもの。もし迷惑をかけているのなら、離れる覚悟だってあるわ」

 その言葉に偽りはないけれど、いつものように冷静に割り切れなくて気持ちが沈む。

 黙っている私を見かねたように、ディノがビスケットを豪快にかじった。

「ああ、じれったいなぁ! リシアはレオルに頼んで恋人にしてもらえばいいんだよ!」

「……急に何を言い出すの?」

 私、猫の思考回路はわからないわ。

「だってリシアに恋人がいるってわかれば、まともな男なら声をかけるのは諦めてくれるし、変な男なら遠慮なく暴発をお見舞いすればいいのさ。それに恋人同士だったら、レオルと一緒に出かけたりするのだって気にすることもないよ!」

「……そういうものかしら?」

「そうそう! レオルをリシアの恋人にして、色々利用すればいいんだよ!」

「しないわ」

「えっ、しないの?」

「絶対しないわ。レオルは千年後に来て困っていた私を救ってくれた大恩人よ。これ以上自分の都合で利用するなんて、よこしまな考えを抱くつもりはないの」

「相変わらず真面目だなぁ」

 どちらかというと、にこにこして言うディノの考えに問題がある気もするけれど。

 それに、恋人ね……。

 今まで考えもしなかったけれど、私が知らないだけで、レオルに親しい女性がいるかもしれないわよね。

 レオルって異常な古代史好きではあるけれど、親切だし、努力家だし、剣士として一流だけど博識でもあるし、見た目も整っているし……。

 褒めているはずなのに、なんだか胸の辺りがもやもやとしてくる。

 試作と言い訳してビスケットを食べすぎたせいかしら。

「ねぇディノ。レオルは……私たちが知らないだけで、恋人がいるのかもしれないわよね」

「ふふ、そんなこと聞くのも失礼だよぉ。絶対いないって」

「絶対? どうして言い切れるの?」

「だってレオルはリシアに夢中じゃないか。それにレオルは僕たちに会ってからずっと、人に気兼ねせず気ままに旅してた様子だっただろ? 町へ帰る道中だって、リシアのことを見たり触ったり撫でたり、ずっとずーっと執拗に構っていたし。ここで暮らしてからも他の女性が入る隙なんてないくらい、リシアに会いに来てるもん」

 その理由ならわかっているわ。

 レオルは並外れた古代史好きで、しかも私はレオルとお姉様の思い出でもある魔彫像のモデルなんだから。

 ただ思い出をこじらせて悪い癖を出されるのは私も困っているので、出来る限り無反応、無動揺を貫こうと努力はしているのだけど……なかなか難しい。

「だけどディノ。護衛はともかく、レオルが古代史に興味があることを利用して恋人になりすまそうなんて失礼な話、本人には絶対言わないでね」

「大丈夫、キス一回で手を打ってくれるって。ふふふ、絶対喜ぶよぉ」

 なるほど。

 ディノは猫的な感覚が強すぎるのか、人間らしい判断が必要となる相談には向いてなさそうね。

 だけど変なことばかり言われたせいか、折角会いに来てくれても緊張してしまう気がするわ。

 そこに玄関の呼び鈴が鳴り、私の心臓が跳ねる。

 ディノがくすくす笑ってまたビスケットをかじった。

「ふふ、リシア。誰が来たと思う?」

「ディノ、さっきの話はもうしないでね。絶対に」

 私は急いで玄関へと向かった。 



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