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23・リシアが来てから(オルドー視点)

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 俺の妻のヘリンはおっとりしているようで気が弱いのか、やけに人目を気にするところがある。

 慣れない人と会った後はいつも疲れた顔をしているが、リシアが来てからくよくよすることが減り、「彼女と話すと自分の悩みや他人の視線が些細なことに思える」と、最近は笑顔も増えた。

 夭逝した兄の忘れ形見である、今年五歳になる姪のイライナもそうだ。

 イライナはヘリンが心配するほど引っ込み思案だが、地面に描いた猫の絵をリシアがとても気に入ってくれたと、彼女からもらった飴玉の入った瓶を腕に抱えながら繰り返し話すほど嬉しかったらしく、それ以来驚くほど懐いている。

「レオルがリシアを連れてきてくれて、俺たちにとっては良かったけれど、リシアはどうかな? お前があちこち行ってる間にほったらかしにされてると思って、愛想つかされても知らないぞ」

「別に、ほっとくつもりも愛想つかされるつもりもないけど。あいつは人から遠巻きにされて育ってきたみたいだから、ほったらかしにされているとか、愛想をつかすとか、そういう発想すらないかもな」

「ずいぶん孤独な生活を送って来た人なんだな。だけどその様子だと、レオルはそんな複雑な彼女を恋人として受け入れたんだろ?」

 にやりとして見ると、レオルはいつになく考え込んだ様子で黙っている。

 まさか……。

「恋人では、ないのか?」

「ああ、そうだな」

「そうだなって……お前。遠くの地から言葉も文化も分からない、複雑な生い立ちを持つ女性を連れて来て、それはおかしくないか? 彼女をどうするつもりだ?」

「言っただろ? リシアはあの力で面倒なことがあったんだ。できるだけ、自由にさせてやりたいんだよ」

 それは紹介してもらった時に聞いた。

 レオルが帰ってきた時、もらった蜂蜜や薬草、茶葉は味も香りも普段利用している物とは明らかに違う、見たこともないような極上品だった。

 目の肥えているヘリンが手放しで絶賛していたのだし、それは間違いないのだろう。

 しかもそれは、リシアが作った物らしい。

 リシアには様々な品を作る才能があるらしく、その力を悪用していると誤解を受けて遠い国から逃げていたところ、レオルがここに誘ったと説明された。

 確かにこの領は比較的治安も良く、人口もほどよく、なによりレオルと俺たちの庇護下に置けるのは安心だろう。

 それにレオルの冒険者という仕事柄、家を空ける時や万が一不慮の事故に遭って彼女がひとり残された場合、危害を加えないと断言できる俺とヘリンにだけ事情を説明しておいたことも、リシアに対するレオルらしい思いの深さが伝わってくる。

 ので、一応忠告しておいてやるか。


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