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16・思わぬ贅沢(レオル視点)

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 見上げると、夜空に月明りが冴えていた。

 雨風をしのぐため、塔の一階に錬金釜一式を運んだ後、俺はリシアとディノと共にたき火を囲んでいる。

「はい、レオル」

 湯気の立つカップをリシアに差し出されて、俺はそれを受け取る。

 澄んだ琥珀色の液体を一口飲むと、豊かな茶葉の香りと蜂蜜の甘さが溶けるように広がった。

「美味いな」

 友人から王族御用達だと特上品のマジックハーブティーを淹れてもらったこと思い出したが、リシアの錬金釜で作った茶葉となら比較するまでもない。

 間違いなく、こっちだ。

 石の上に腰掛けているディノも、蜂の巣から錬金された黄金色の蜜を落としたマジックハーブティーを飲みながら、うっとりとため息をついていた。

「フォレストオーク、鮮度がいいから臭みもなくて、ただただ美味しすぎたなぁ」

 あの後、錬金釜付属の収納箱に吸い込まれたフォレストオークは「おすすめ解体」で毛皮と肉に切り分けられた後、リシアの錬金術で上品な口当たりのソテーに生まれ変わった。

 聞くとリシアは以前、従姉妹にオークのソテーをごちそうしてもらったらしく、それを思い出しながら錬金釜のおすすめ調合で仕上げたらしい。

 そうして俺たちの元へやって来た、出来立ての厚切り肉のソテーとなったフォレストオークは、食べる前から熱に絡む肉汁の香ばしさを周囲に漂わせていた。

 やはり絶品だった。

 からりと焼けた焦げ目は空腹を刺激する見た目だけではなく、食感が最高に心地良い。

 そのこんがりした感じとは対照的に、噛みしめると旨味がじわっと口の中に溢れて、しっかりとした肉質なのに不思議と柔らかく、岩塩の加減も絶妙だ。

 俺たちは夢中になって平らげてしまうと、今はこうしてハーブティーを楽しんでいる。

 しばらくは携帯用の固焼きパン三昧を覚悟していたのに、リシアとの出会いで思わぬ贅沢が舞い込むこととなった。

 錬金釜に投入して、杖でぐるぐる混ぜているだけにしか見えないのに、見たこともないような最高級品が出てくるんだよな……。

 便利な反面、膨大な魔力消費をしているのは間違いないけれど。

 だから今日リシアが大量に生産していた、彼女の芸術的センス満載な猫?の石像を含め、相当な魔力量を消費していることが気にかかる。

 他にも、付属の収納箱の機能を使ったり維持するために、錬金釜に触れて魔力を補充しているし。

 いくら魔力量の多かった古代人だとしても、あんな使い方をしていたら、魔力が空になってそのうち気絶するんじゃないか?


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