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18 おもてなし
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◇
ミュナは湯殿に入ることが苦手らしく、支度をはじめたメイドたちのことも怖がっていました。
そこで「ふたりで入りましょう」「楽しいですよ」と誘ってみると大成功です。
大理石でつくられた湯殿は広々として、貸し切り状態でした。
ミュナは洗髪が苦手だと聞いていましたが、髪を色々な形に変えるのが気に入ったようです。
猫耳のそばで赤髪をツインテールのように泡で形を作ると、大きな緑色の目を輝かせていました。
『ミュナ、ウサギなったね』
「はい、とってもかわいいです! 次はウサギ姫になりましょう!」
『なる!』
湯浴みを終えてほかほかになった私とミュナは、メイドたちの案内で衣装部屋へ向かいます。
部屋にはきらびやかなドレスや靴が所狭しと飾られていて、私はしばし呆然と立ち尽くしました。
この中からひとつだけ選ぶなんて、迷ってしまいます。
「こちらはすべて、セレイブ様からリシェラ様への贈り物です」
「えっ? すべてですか!?」
「はい」
メイドたちは全員、当然のように頷きます。
「ミュナお嬢様を助けていただいたのですから、これはささやかなお礼だとセレイブ様が申しておりました。ご満足いただけない場合はもちろん、別の品を用意いたします。ご不満がありましたら、遠慮せずおっしゃってください」
「い、いえ。十分すぎるほどです」
きれいなドレスばかりなので、どれを着ればいいのか選ぶのに迷ってしまいます。
私はミュナと相談しながら、ミュナのドレスと似た若草色のドレスを選びました。
今日はもう外に出る予定がないので、ミュナは青いリボン付きのカチューシャをしなくてもいいそうです。
猫耳もしっぽもそのままなこの姿は、やっぱり一番ミュナに似合っています。
ミュナの身支度を整えてくれたのは、エントランスで青いカチューシャを渡してくれた三つ編みのメイド、アンナでした。
「私は弟ばかり六人だったので、ずっと女の子のお世話に憧れていました!」
アンナはとても張り切って、ミュナのリクエストであるツインテールにしてくれました。
ミュナははじめ緊張していたようですが、湯浴みの洗髪中に見つけたお気に入りの『ウサギヒメ』な髪型になったことが嬉しいらしく、頬を赤くしています。
『ミュナ、ウサギヒメなってるね』
「なってます。とってもかわいいです!」
『ウサギヒメ! ウサギヒメ!』
着替えを終えたミュナは楽しそうにぴょんぴょん跳ねて、一人遊びをはじめました。
「リシェラ様のお支度も、私たちにお任せください」
私もメイドたちの手によって、夕食にふさわしく着飾られていきます。
このような扱いを受けるのは、マリスヒル伯爵家の養女になってからはじめてなので、不思議な感じがしました。
「みなさま、ありがとうございます。この短時間で服や靴、宝飾品まで準備するのはとても大変だったと思います」
メイドたちははじめ驚いたような顔をしましたが、すぐに笑顔を見せてくれます。
「使用人にまで心配りの声をかけてくださるなんて……。リシェラ様はとても礼儀正しい方なのですね」
「それに私たちの方こそ、リシェラ様に感謝しているのですよ。湯浴みを嫌がるミュナお嬢様が、こんなに楽しそうにしているんですから!」
「なによりリシェラ様は、行方不明になっていたミュナお嬢様を保護してくださいました。このご恩は忘れません! 本当にありがとうございます!」
メイドたちが頷いている中、アンナはふと、いたずらっ子のようにほほえみました。
「なによりあのクールなセレイブ様が、リシェラ様には今までと違うご様子なのも嬉しいですよね」
そうそう、と周囲のメイドたちも相槌を打っています。
「セレイブ様はあの一族とは思えないほど淡白な方だというのに……」
そういえばジンジャーにも、似たようなことを言われました。
私も噂では冷たい方だと聞いていましたが、実際に会ったセレイブ様はそんな風に思えません。
「あの一族とは、どういう意味なのですか?」
メイドたちが意味深な視線を交わし合っています。
アンナは秘密の話をするように声をひそめました。
「ロアフ辺境伯の一族は代々、惹かれた相手に一途すぎることで有名なんですよ」
アンナの話によると、彼らは政略結婚をせず、見初めた人を伴侶とする特殊な貴族だといいます。
貴族は身分や家柄、利害関係などを重要視するので、たしかに珍しいことです。
「しかも彼らは成人する前に、運命的にその相手と出会うようです。さらにあの一族は伴侶を選ぶ目があるのか、相手との良好な関係のためか、結婚するたびにロアフ辺境伯領は代々豊かにしています」
ロアフ領は元々、ティラジア王国でも貧しい辺境地だったそうです。
しかし今は世界中から一目置かれる領となっています。
「たとえばセレイブ様のお父様、現在のロアフ辺境伯は若いころ不調を抱えていたため、治療のために呼んだ薬師が奥様でした。彼女の治療ですぐに回復したロアフ辺境伯は交際を申し込みました。それからも欠かさず手紙やお菓子を送って彼女に愛を情熱的に伝え続け、ついに結婚されたんです」
そしてふたりが結婚されてから、奥様の目利きと提案でロアフ辺境伯領内で生産される薬草の品質と種類が向上し、輸出量が膨大に増えて生活が豊かになったといいます。
「セレイブ様の亡きお兄様には幼いころから思い合い、婚約していた婚約者様がいました。しかし残念なことですが、十年前に彼女を事故で失ってしまいました。その後も新たな婚約者を迎えることなく、ずっと思い続けていたようです」
「そうですか……」
私は頷きながらも、少し引っかかります。
セレイブ様のお兄様は婚約者を十年も前に亡くして、それから新たな婚約者を迎えることがなかった……?
では、ミュナのお母様は誰なのでしょうか。
「そしてセレイブ様のお姉様は五歳のとき、ソディエ王国の王弟である若きネスト公爵に一目惚れされました」
その年の差はなんと、十二歳だといいます。
つまり五歳で十八歳の男性に想いを寄せたということでしょうか。
成就したのかどうか、想像がつきません。
「ネスト公爵はソディエ国王よりも国民や他国の評判がよく、すでに数々の婚約者候補がいました。しかしセレイブ様のお姉様は彼にふさわしくなるたゆまぬ努力を重ね、重ね、重ね続けて! 二十年後に婚姻を結び、今ではふたりのお子様に恵まれたネスト公爵夫人です!」
成就されていました!
そしてセレイブ様のお姉様が輿入れしたことでネスト公爵家とのつながりが深くなると、互いの領地を繋ぐ道の整備が進んだそうです。
馬車は安全で快適に移動できるようなり、貿易港のあるネスト公爵領とロアフ辺境伯領の交易がいっそう盛んになったといいます。
なるほど。
ロアフ家はたしかに情熱的なほど一途、そして結婚が領地の豊かになるきっかけになっているようです。
「でもセレイブ様は常に人と一定の距離を置いているといいますか。彼は成人をとっくに過ぎて二十四歳になりますが、惹かれる相手と出会う兆候もなく……。世界中の王侯貴族が自分の娘と会わせたがっていますが、冷徹な理由を述べて拒否してばかりです。幼いころも変わらず、怖いくらい大人びた方でした」
セレイブ様の幼いころ……落ち着いている姿が想像できます。
食べ物の好き嫌をしたりせず、淡々と口に運びそうです。
「たとえば三歳のころ、枕元に置かれた建国祭のプレゼントは妖精が持ってくるという設定を見抜き、こっそり用意したご両親に直接お礼を伝えて驚かせていました」
……どうやら、好き嫌いをしない程度では次元が違ったようです。
それにしてセレイブ様、三歳児にして冷徹すぎます……。
「四歳のころは一緒に暮らしていたお兄様が夜更かしされていると、睡眠が人体に影響を与える重要性を説明して早めの睡眠をすすめたそうです」
どうやってその知識を仕入れたのでしょうか……。
「五歳のころはお姉様がスタイルを気にされて悩んでいるのを知り、体型に影響を及ぼす効果的な運動と食事方法を助言したといいます」
年ごろの女性に的確なアドバイスをする五歳児……。
「あの、それは本当にお子様なのですか?」
「セレイブ様です」
「なるほど……」
納得していいのかはわかりませんが、納得しました。
「それが今日、リシェラ様を大切そうに抱いてやってきたセレイブ様は、いつもと違いましたね。冷静というよりもリシェラ様との関わりを楽しんでいるというか。どことなく柔らかい雰囲気に変わっているというか……」
「たしかに、やさしく笑いかけてくださいました」
「「「えっ!?」」」
メイドたちが目を見張って私を見ています。
なにか悪いことでも言ってしまったかと思うほど、彼女たちから動揺が伝わっています。
「それはつまり、なるほど……」
「あの甘い雰囲気、納得しました」
「やっぱりあの一族だったのね」
メイドたちは真剣な様子で目配せしあうと、いっせいに私と向きあいました。
そしてにっこり笑います。
「リシェラ様、ドレスの襟元を直させてくださいね!」
「髪ももう少し、リシェラ様のやさしさを引き立てるようにふんわりとさせて!」
「デコルテが引き立つように、こちらのペンダントを合わせましょう!」
「は、はいっ」
メイドたちが笑顔で私の装いを整えていくその真剣さに、妙な熱量を感じます。
「あの、これからの夕食、なにか起こるのですか? 私はアップルパイがあればそれで満足なのですが。それ以上の心の準備が必要なら教えていただけますか?」
「ふふふっ。リシェラ様を着飾ることは、私たちのセレイブ様へのお祝いなんですよ!」
先ほどの喜びようは、やはりお祝いごとだったようです。
「それでしたら、私にもお手伝いできることがありませんか?」
「あら、いいのですか?」
「はい、もちろん! 私はセレイブ様にこんなに親切にしていただいているのですから。もちろん協力させてください!」
メイドたちはさらに笑顔を深めました。
な、なんでしょう。
これはものすごく、ものすごく楽しそうなことを想像している顔です。
「ではリシェラ様にはひとつ、セレイブ様にサプライズをお願いしましょう」
メイドたちはそんなふうに言うと、内容を話しはじめました。
ミュナは湯殿に入ることが苦手らしく、支度をはじめたメイドたちのことも怖がっていました。
そこで「ふたりで入りましょう」「楽しいですよ」と誘ってみると大成功です。
大理石でつくられた湯殿は広々として、貸し切り状態でした。
ミュナは洗髪が苦手だと聞いていましたが、髪を色々な形に変えるのが気に入ったようです。
猫耳のそばで赤髪をツインテールのように泡で形を作ると、大きな緑色の目を輝かせていました。
『ミュナ、ウサギなったね』
「はい、とってもかわいいです! 次はウサギ姫になりましょう!」
『なる!』
湯浴みを終えてほかほかになった私とミュナは、メイドたちの案内で衣装部屋へ向かいます。
部屋にはきらびやかなドレスや靴が所狭しと飾られていて、私はしばし呆然と立ち尽くしました。
この中からひとつだけ選ぶなんて、迷ってしまいます。
「こちらはすべて、セレイブ様からリシェラ様への贈り物です」
「えっ? すべてですか!?」
「はい」
メイドたちは全員、当然のように頷きます。
「ミュナお嬢様を助けていただいたのですから、これはささやかなお礼だとセレイブ様が申しておりました。ご満足いただけない場合はもちろん、別の品を用意いたします。ご不満がありましたら、遠慮せずおっしゃってください」
「い、いえ。十分すぎるほどです」
きれいなドレスばかりなので、どれを着ればいいのか選ぶのに迷ってしまいます。
私はミュナと相談しながら、ミュナのドレスと似た若草色のドレスを選びました。
今日はもう外に出る予定がないので、ミュナは青いリボン付きのカチューシャをしなくてもいいそうです。
猫耳もしっぽもそのままなこの姿は、やっぱり一番ミュナに似合っています。
ミュナの身支度を整えてくれたのは、エントランスで青いカチューシャを渡してくれた三つ編みのメイド、アンナでした。
「私は弟ばかり六人だったので、ずっと女の子のお世話に憧れていました!」
アンナはとても張り切って、ミュナのリクエストであるツインテールにしてくれました。
ミュナははじめ緊張していたようですが、湯浴みの洗髪中に見つけたお気に入りの『ウサギヒメ』な髪型になったことが嬉しいらしく、頬を赤くしています。
『ミュナ、ウサギヒメなってるね』
「なってます。とってもかわいいです!」
『ウサギヒメ! ウサギヒメ!』
着替えを終えたミュナは楽しそうにぴょんぴょん跳ねて、一人遊びをはじめました。
「リシェラ様のお支度も、私たちにお任せください」
私もメイドたちの手によって、夕食にふさわしく着飾られていきます。
このような扱いを受けるのは、マリスヒル伯爵家の養女になってからはじめてなので、不思議な感じがしました。
「みなさま、ありがとうございます。この短時間で服や靴、宝飾品まで準備するのはとても大変だったと思います」
メイドたちははじめ驚いたような顔をしましたが、すぐに笑顔を見せてくれます。
「使用人にまで心配りの声をかけてくださるなんて……。リシェラ様はとても礼儀正しい方なのですね」
「それに私たちの方こそ、リシェラ様に感謝しているのですよ。湯浴みを嫌がるミュナお嬢様が、こんなに楽しそうにしているんですから!」
「なによりリシェラ様は、行方不明になっていたミュナお嬢様を保護してくださいました。このご恩は忘れません! 本当にありがとうございます!」
メイドたちが頷いている中、アンナはふと、いたずらっ子のようにほほえみました。
「なによりあのクールなセレイブ様が、リシェラ様には今までと違うご様子なのも嬉しいですよね」
そうそう、と周囲のメイドたちも相槌を打っています。
「セレイブ様はあの一族とは思えないほど淡白な方だというのに……」
そういえばジンジャーにも、似たようなことを言われました。
私も噂では冷たい方だと聞いていましたが、実際に会ったセレイブ様はそんな風に思えません。
「あの一族とは、どういう意味なのですか?」
メイドたちが意味深な視線を交わし合っています。
アンナは秘密の話をするように声をひそめました。
「ロアフ辺境伯の一族は代々、惹かれた相手に一途すぎることで有名なんですよ」
アンナの話によると、彼らは政略結婚をせず、見初めた人を伴侶とする特殊な貴族だといいます。
貴族は身分や家柄、利害関係などを重要視するので、たしかに珍しいことです。
「しかも彼らは成人する前に、運命的にその相手と出会うようです。さらにあの一族は伴侶を選ぶ目があるのか、相手との良好な関係のためか、結婚するたびにロアフ辺境伯領は代々豊かにしています」
ロアフ領は元々、ティラジア王国でも貧しい辺境地だったそうです。
しかし今は世界中から一目置かれる領となっています。
「たとえばセレイブ様のお父様、現在のロアフ辺境伯は若いころ不調を抱えていたため、治療のために呼んだ薬師が奥様でした。彼女の治療ですぐに回復したロアフ辺境伯は交際を申し込みました。それからも欠かさず手紙やお菓子を送って彼女に愛を情熱的に伝え続け、ついに結婚されたんです」
そしてふたりが結婚されてから、奥様の目利きと提案でロアフ辺境伯領内で生産される薬草の品質と種類が向上し、輸出量が膨大に増えて生活が豊かになったといいます。
「セレイブ様の亡きお兄様には幼いころから思い合い、婚約していた婚約者様がいました。しかし残念なことですが、十年前に彼女を事故で失ってしまいました。その後も新たな婚約者を迎えることなく、ずっと思い続けていたようです」
「そうですか……」
私は頷きながらも、少し引っかかります。
セレイブ様のお兄様は婚約者を十年も前に亡くして、それから新たな婚約者を迎えることがなかった……?
では、ミュナのお母様は誰なのでしょうか。
「そしてセレイブ様のお姉様は五歳のとき、ソディエ王国の王弟である若きネスト公爵に一目惚れされました」
その年の差はなんと、十二歳だといいます。
つまり五歳で十八歳の男性に想いを寄せたということでしょうか。
成就したのかどうか、想像がつきません。
「ネスト公爵はソディエ国王よりも国民や他国の評判がよく、すでに数々の婚約者候補がいました。しかしセレイブ様のお姉様は彼にふさわしくなるたゆまぬ努力を重ね、重ね、重ね続けて! 二十年後に婚姻を結び、今ではふたりのお子様に恵まれたネスト公爵夫人です!」
成就されていました!
そしてセレイブ様のお姉様が輿入れしたことでネスト公爵家とのつながりが深くなると、互いの領地を繋ぐ道の整備が進んだそうです。
馬車は安全で快適に移動できるようなり、貿易港のあるネスト公爵領とロアフ辺境伯領の交易がいっそう盛んになったといいます。
なるほど。
ロアフ家はたしかに情熱的なほど一途、そして結婚が領地の豊かになるきっかけになっているようです。
「でもセレイブ様は常に人と一定の距離を置いているといいますか。彼は成人をとっくに過ぎて二十四歳になりますが、惹かれる相手と出会う兆候もなく……。世界中の王侯貴族が自分の娘と会わせたがっていますが、冷徹な理由を述べて拒否してばかりです。幼いころも変わらず、怖いくらい大人びた方でした」
セレイブ様の幼いころ……落ち着いている姿が想像できます。
食べ物の好き嫌をしたりせず、淡々と口に運びそうです。
「たとえば三歳のころ、枕元に置かれた建国祭のプレゼントは妖精が持ってくるという設定を見抜き、こっそり用意したご両親に直接お礼を伝えて驚かせていました」
……どうやら、好き嫌いをしない程度では次元が違ったようです。
それにしてセレイブ様、三歳児にして冷徹すぎます……。
「四歳のころは一緒に暮らしていたお兄様が夜更かしされていると、睡眠が人体に影響を与える重要性を説明して早めの睡眠をすすめたそうです」
どうやってその知識を仕入れたのでしょうか……。
「五歳のころはお姉様がスタイルを気にされて悩んでいるのを知り、体型に影響を及ぼす効果的な運動と食事方法を助言したといいます」
年ごろの女性に的確なアドバイスをする五歳児……。
「あの、それは本当にお子様なのですか?」
「セレイブ様です」
「なるほど……」
納得していいのかはわかりませんが、納得しました。
「それが今日、リシェラ様を大切そうに抱いてやってきたセレイブ様は、いつもと違いましたね。冷静というよりもリシェラ様との関わりを楽しんでいるというか。どことなく柔らかい雰囲気に変わっているというか……」
「たしかに、やさしく笑いかけてくださいました」
「「「えっ!?」」」
メイドたちが目を見張って私を見ています。
なにか悪いことでも言ってしまったかと思うほど、彼女たちから動揺が伝わっています。
「それはつまり、なるほど……」
「あの甘い雰囲気、納得しました」
「やっぱりあの一族だったのね」
メイドたちは真剣な様子で目配せしあうと、いっせいに私と向きあいました。
そしてにっこり笑います。
「リシェラ様、ドレスの襟元を直させてくださいね!」
「髪ももう少し、リシェラ様のやさしさを引き立てるようにふんわりとさせて!」
「デコルテが引き立つように、こちらのペンダントを合わせましょう!」
「は、はいっ」
メイドたちが笑顔で私の装いを整えていくその真剣さに、妙な熱量を感じます。
「あの、これからの夕食、なにか起こるのですか? 私はアップルパイがあればそれで満足なのですが。それ以上の心の準備が必要なら教えていただけますか?」
「ふふふっ。リシェラ様を着飾ることは、私たちのセレイブ様へのお祝いなんですよ!」
先ほどの喜びようは、やはりお祝いごとだったようです。
「それでしたら、私にもお手伝いできることがありませんか?」
「あら、いいのですか?」
「はい、もちろん! 私はセレイブ様にこんなに親切にしていただいているのですから。もちろん協力させてください!」
メイドたちはさらに笑顔を深めました。
な、なんでしょう。
これはものすごく、ものすごく楽しそうなことを想像している顔です。
「ではリシェラ様にはひとつ、セレイブ様にサプライズをお願いしましょう」
メイドたちはそんなふうに言うと、内容を話しはじめました。
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