上 下
4 / 66

4 朝食

しおりを挟む
 ◇

 ハリエット夫人への手紙を書き終えた私は、マリスヒル伯爵邸の朝食に向かいました。

 私は十歳のころから、あの小屋にひとりで暮らしています。
 もともと私は養父母から邪険にされていました。
 でも動物と話せるようになったことを知られると、露骨に嫌悪されるようになりました。

 ソディエ王国では、動物は邪悪でおぞましい存在だと嫌われているのです。

「おまえを後妻にして相手から高額の支度金をもらう予定だったのに、獣と話せるだと? 薄気味悪いせいでまともな値がつかなかったらどうするつもりだ!?」

「その不吉な力は他の誰にも知られないようにしなさい!」

 私はあのボロボロの小屋に押し込められました。
 でも誰も近づかないため、私は動物たちと気兼ねなく話せました。

 食事は残り物を取りに行きました。
 エレナの機嫌が悪いとわざと廃棄されて、なにもないこともあります。
 でも動物たちはよく果実や野草をわけてくれたので、飢えをしのぐこともできました。



 ◇

「あら、お義姉様。相変わらず土みたいな色の髪と目……しかも地味な顔よね! 使用人すら着ないようなボロ服とボロ靴、とってもお似合いだわ!」

 マリスヒル伯爵邸の食堂の入り口で家族を待っていると、現れた義妹のエレナは勝ち誇ったように嘲笑っています。
 ピンクブロンドを派手に巻いた彼女は主役のようなドレスをひるがえし、一番に食堂へ入っていきます。

 それから横幅のある養父と縦に細長い養母がやってきました。
 挨拶をしましたが、返事はありません。

 どれも記憶の通りです。
 やはり今日は私の成人した日、二十歳の誕生日なのでしょう。

 席につくと朝食が給仕されていきます。
 私の席には、しなびたパンがひとつ置かれているだけです。
 いつもと同じ使用人の残り物のようですが、しっかりといただきます。
 これからやることがたくさんありますから!

「ねぇお父様! 来年のエレナの誕生日には、エレナにふさわしい男性と会える豪華なパーティーをしてほしいわ!」

 エレナの甲高い声が食堂に響き渡りますが、養父母はとがめません。
 それどころか彼らも無作法に食器を鳴らしたり、スープの音を立ててすすったりしています。

「わかっておる、ソディエ国王陛下から『国一番の美女だ』と注目されたエレナにふさわしい縁談相手を探さなければな!」

 ソディエ王国の王侯貴族の子は、婚約者候補を探すために誕生日にパーティーを開くことが一般的です。
 私は養女となってからパーティーに参加したことがないので、詳しくはわかりません。
 でもエレナはより好みが多くてなかなか相手が見つからないと、メイドたちが陰口を言っているのを聞いたことがあります。

「でもエレナ、下位貴族なんて自慢できないからイヤよ。伯爵位があっても、ドレスもアクセサリーも好きなだけ買えるほどのお金持ちじゃないとダメね。侯爵位は妥協ラインだけど、見た目が悪いのは絶対にムリっ!! そうよね、お母様?」

「もちろんよ。エレナの来年の誕生日には、高位貴族令息や聖騎士団の若い男性を招待しましょう。世界的に注目されているロアフ辺境伯の令息、そしてロアフ騎士団長でもあるセレイブ様も忘れずにね」

「セレイブ様!?」

 エレナの瞳が輝き、頬も赤く染まっています。
 彼の名前は若いメイドたちが夢中になって噂しているので、聞いたことがあります。
 類まれなほど優れた容姿と才能を持ち、性格はとても冷淡なようです。

「それって美形でお金持ちで強くて世界中で人気のある、あのセレイブ・ロアフ卿よね? 彼と婚約できたら、お茶会で他のご令嬢たちに羨ましがられるわ! お父様、彼と今すぐ会うことはできないの?」

「そういえばセレイブ様は、我がマリスヒル伯爵領で一番豪華な別荘をソディエ国王から下賜されている。そこに仕える使用人たちの慌ただしい様子から、近々来訪するのではないかと小耳に挟んだぞ」

「本当!? セレイブ様がマリスヒル伯爵領に来るかもしれないのね! 彼の一族は縁談をすべて断るって聞いたことがあるけれど、エレナに会ったら他の令息みたいに夢中になるかも……。ふふっ、彼が来ているか、後でセレイブ様の別荘まで、縁談を申し込みに行ってみようかしら!」

「たしかにエレナに会えば、セレイブ様も夢中になるだろうな!」

「そうね。エレナはソディエ国王夫妻にも認められるほど美しいもの!」

 三人は盛り上がっていますが、それは相手の方にあまりにも失礼なことです。
 私は思わず口を開きました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【完結】皆様、答え合わせをいたしましょう

楽歩
恋愛
白磁のような肌にきらめく金髪、宝石のようなディープグリーンの瞳のシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢。 きらびやかに彩られた学院の大広間で、別の女性をエスコートして現れたセドリック王太子殿下に婚約破棄を宣言された。 傍若無人なふるまい、大聖女だというのに仕事のほとんどを他の聖女に押し付け、王太子が心惹かれる男爵令嬢には嫌がらせをする。令嬢の有責で婚約破棄、国外追放、除籍…まさにその宣告が下されようとした瞬間。 「心当たりはありますが、本当にご理解いただけているか…答え合わせいたしません?」 令嬢との答え合わせに、青ざめ愕然としていく王太子、男爵令嬢、側近達など… 周りに搾取され続け、大事にされなかった令嬢の答え合わせにより、皆の終わりが始まる。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru
恋愛
パッと見は冴えないブロスカキ公爵家の令嬢ディアセーラ。 そんなディアセーラの事が本当は病むほどに好きな王太子のベネディクトだが、ディアセーラの気をひきたいがために執務を丸投げし「今月の恋人」と呼ばれる令嬢を月替わりで隣に侍らせる。 色事と怠慢の度が過ぎるベネディクトとディアセーラが言い争うのは日常茶飯事だった。 出来の悪い王太子に王宮で働く者達も辟易していたある日、ベネディクトはディアセーラを突き飛ばし婚約破棄を告げてしまった。 「しかと承りました」と応えたディアセーラ。 婚約破棄を告げる場面で突き飛ばされたディアセーラを受け止める形で一緒に転がってしまったペルセス。偶然居合わせ、とばっちりで巻き込まれただけのリーフ子爵家のペルセスだが婚約破棄の上、下賜するとも取れる発言をこれ幸いとブロスカキ公爵からディアセーラとの婚姻を打診されてしまう。 中央ではなく自然豊かな地方で開拓から始めたい夢を持っていたディアセーラ。当初は困惑するがペルセスもそれまで「氷の令嬢」と呼ばれ次期王妃と言われていたディアセーラの知らなかった一面に段々と惹かれていく。 一方ベネディクトは本当に登城しなくなったディアセーラに会うため公爵家に行くが門前払いされ、手紙すら受け取って貰えなくなった。焦り始めたベネディクトはペルセスを罪人として投獄してしまうが…。 シリアスっぽく見える気がしますが、コメディに近いです。 痛い記述があるのでR指定しました。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

処理中です...