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4・再会

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 王都の町はずれは、とっぷりと暮れていた。
 ぽつり、ぽつりと街灯がともる道に、ひとけはない。
 アロンはひとり、宿屋へと向かうため河川敷に沿って歩いていた。
 別れ際の姫の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。

「まだ国民には知らせていないけれど、近々婚約発表をするって、お父様も張り切っているわ。明日、衣装合わせがあるから、忘れずに来てね」

 アロンは足を止める。
 どうしてこんなことになったのか、どこで何を間違えたのか、わからない。
 ただ、帰りたかった。
 飢えのように、会いたい思いが募っていく。

「アロン」

 アロンは息を止めた。
 聞き間違えかと思い、しかし確かめずにはいられず、顔を上げる。
 道の先に、エミリマが立っていた。

「どうして……」
「隠れてついてきたの。気づいていなかった?」

 事情が分かってくると、アロンの中でじわじわと焦りが這い上がってくる。
 一体どこまで見られていたのか。
 エミリマは、アロンの動揺を察したように、静かに告げた。

「アロンがリュシャーヌ姫と橋で夕日を眺めているとき。あの橋の下の河川敷で私、黄リンゴをかじってたの。そこで全部、聞いていた」

 全部。
 知られたくないこと、聞かれたくないこと、情けなさや嫌悪感が全身に駆け巡る。
 ダメだ。
 これ以上、話してはいけない。
 アロンは叫んだ。

「これで、わかっただろ! もう俺に関わるな! 消えろ!」
「昔から、そうだね」

 エミリマは、あまりにも落ち着いている。
 アロンはひるんだが、動揺を押し隠すように、冷静なふりをした。

「……何が」
「嘘つき」
「……何のことだ。ただ俺は、もう、おまえになんか会いたくも──」
「私、アロンとリュシャーヌ姫が幸せなら、それでもいいって思うことにしたの。二人の幸せそうな姿を見れば、納得したほうがいいかなって。でも、違った」

 エミリマが、一歩一歩、アロンに近づいてくる。
 アロンは恐怖で、喉がからからに乾いていた。
 エミリマは、気づいている。

 アロンは後ずさった。

「来るな。俺は……」
「アロンの好みが細い女性だなんて嘘よ」

 エミリマのしっかりとした足音が、アロンに近づいてくる。
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