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42・事情はわかりました
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周囲は静けさに包まれている。
注目の先には気の強そうな目鼻立ちの女性がいて、顔以外は全身白タイツな姿で直立していた。
魔導具屋によく行くイザベラも、その装備に見覚えがあったらしい。
「ロベリアナ、まさか魔術を使って私の姿に変化していたの?」
「なっ、なんのことかしら!?」
「だって変化魔術は難易度が高いでしょう? だから魔術を使う補助として、特殊な白タイツに全身を包んで行うのが一般的だから。魔道具店で売っているのも、見たことあるし」
偽イザベラの正体──イザベラの同期だというロベリアナは今、変化魔術専用の特殊な装備を身に着けただけの姿となっていた。
たとえ「私服として白タイツを着ていただけだ」と言い張っても、カフェテラスにいる人たちは彼女の変化魔術が解除された瞬間を目撃している。
言い逃れはできない。
「だけどロベリアナ。そんな装備をしてまで私の姿になって、メイドたちにひどいことを言ったのはどうして? 私が嫌いなら、私だけに嫌がらせをしたほうが早いのに」
「だってイザベラがいると、ヨルクはいつも楽しそうだから。そんなの……」
「俺?」
ヨルクさんとロベリアナの目が合う。
ロベリアナは慌てて自分の変化魔術用フル装備を見回し、人生で一番の屈辱を受けたかのように真っ赤になった。
「っ、ヨルク! 違うの。こ、この全身白タイツ姿は……これには訳があるのよ!」
「訳があったとしても、お前がイザベラに変化して、俺たちメイドの悪口をしつこく言っていたのは事実なんだろ?」
「違うわ! ヨルクにも変身して、皇城魔術師の悪口をイザベラへ言ってやったもの!!」
「いい加減にしろよ……。どうしてそんなことをしたのか、俺には理解できない」
ロベリアナは切なげな顔をすると、恋する乙女のようにうつむく。
「だって私、ヨルクのこと……」
「俺? 俺がなにかしていたのなら謝るけど。でもお前に姿を偽られたイザベラや、侮辱されたメイドのみんなは関係ないだろ? それならみんなに……もちろんイザベラにも謝れよ。これ以上あいつのことを傷つけるつもりなら、俺は許さないからな」
自然と、ヨルクさんとイザベラの視線が重なる。
ふたりの顔はみるみるうちに赤くなって、同じタイミングで顔をそらした。
うん、やっぱり気が合うんじゃないかな。
「事情はわかりました」
静かな、でも厳かな男性の声がして、自然と注目が集まった。
品のある外套を着こなした紳士的な男性が、背後に護衛を従えてそこにいる。
彼はカフェテラスの隅で、この一部始終を見ていたようだった。
「見て、あの方……」
周囲から驚きに満ちた声があがる。
「ハーロルト・クライス・ヴァイゲル閣下!」
注目の先には気の強そうな目鼻立ちの女性がいて、顔以外は全身白タイツな姿で直立していた。
魔導具屋によく行くイザベラも、その装備に見覚えがあったらしい。
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「なっ、なんのことかしら!?」
「だって変化魔術は難易度が高いでしょう? だから魔術を使う補助として、特殊な白タイツに全身を包んで行うのが一般的だから。魔道具店で売っているのも、見たことあるし」
偽イザベラの正体──イザベラの同期だというロベリアナは今、変化魔術専用の特殊な装備を身に着けただけの姿となっていた。
たとえ「私服として白タイツを着ていただけだ」と言い張っても、カフェテラスにいる人たちは彼女の変化魔術が解除された瞬間を目撃している。
言い逃れはできない。
「だけどロベリアナ。そんな装備をしてまで私の姿になって、メイドたちにひどいことを言ったのはどうして? 私が嫌いなら、私だけに嫌がらせをしたほうが早いのに」
「だってイザベラがいると、ヨルクはいつも楽しそうだから。そんなの……」
「俺?」
ヨルクさんとロベリアナの目が合う。
ロベリアナは慌てて自分の変化魔術用フル装備を見回し、人生で一番の屈辱を受けたかのように真っ赤になった。
「っ、ヨルク! 違うの。こ、この全身白タイツ姿は……これには訳があるのよ!」
「訳があったとしても、お前がイザベラに変化して、俺たちメイドの悪口をしつこく言っていたのは事実なんだろ?」
「違うわ! ヨルクにも変身して、皇城魔術師の悪口をイザベラへ言ってやったもの!!」
「いい加減にしろよ……。どうしてそんなことをしたのか、俺には理解できない」
ロベリアナは切なげな顔をすると、恋する乙女のようにうつむく。
「だって私、ヨルクのこと……」
「俺? 俺がなにかしていたのなら謝るけど。でもお前に姿を偽られたイザベラや、侮辱されたメイドのみんなは関係ないだろ? それならみんなに……もちろんイザベラにも謝れよ。これ以上あいつのことを傷つけるつもりなら、俺は許さないからな」
自然と、ヨルクさんとイザベラの視線が重なる。
ふたりの顔はみるみるうちに赤くなって、同じタイミングで顔をそらした。
うん、やっぱり気が合うんじゃないかな。
「事情はわかりました」
静かな、でも厳かな男性の声がして、自然と注目が集まった。
品のある外套を着こなした紳士的な男性が、背後に護衛を従えてそこにいる。
彼はカフェテラスの隅で、この一部始終を見ていたようだった。
「見て、あの方……」
周囲から驚きに満ちた声があがる。
「ハーロルト・クライス・ヴァイゲル閣下!」
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