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16・甘党の魔術師
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ベルタさんは確か五年ほど前に「今は大体三百歳かしらね」と言っていたけれど、実際には百歳を越えているように見えないくらい若々しい。
「あら、ごめんなさいね。若い男と猫の仲を邪魔をしてしまって。すぐ帰るから」
「待ってベルタさん。大切な話があるんです!」
もちろん猫の姿をしているけれど私はレナーテだとか、若い男と猫の仲とは一体なんなのかとか、魂剥離のことを詳しく教えて欲しいとか、帰るというけれどここはベルタさんの家だとか、言いたいことは色々とある。
でもなによりも!
「ベルタさんの魔術で保存しているアイスの置き場所、どこなのか教えてください!!」
*
それから人の姿に戻った私とディルは並んでテーブルに着き、ベルタさんと向きあう形で早めの昼食を取ることにした。
昨日コリンナたちからもらった食材もある。
丸パンに切れ目を入れて、角切りにした燻製肉と黄色いチーズを詰めて香ばしい焼き目が付くまで焼いたり、ありあわせの野菜と干し肉をことこと煮込んで、具だくさんのスープを作ったりした。
魔術を使ったのであっという間に、最高の状態で、小屋中にお腹の空く匂いが満ちているけれど。
隣に座るディルは、私によって切ない形となった梨を食べている。
気分がのってきて梨の皮を自力で剥いてみたら、こんなことに……。
「あ、あのね……時魔術で鮮度を戻したから、味はいいはずだよ」
「ああ、うまいな」
「……見た目は、その」
「俺がうまいと言っているのだから、なにも気にすることはない。それよりレナはナイフで指を怪我してはいないか?」
「大丈夫だよ。ちょっと危なかったけれど」
「レナさえよければ、今度から俺が作る」
「ディルが料理を?」
「ああ。レナが望むのならしたい」
まな板と向き合い、包丁を握って小魚をさばく黒猫……ではなくディルの姿が浮かんでくる。
「レナ、呆然としているように見えるが、どうかしたのか。やはりどこか怪我をして痛むのか?」
「違うの。ディルが初めて包丁を握っている姿を想像してしまうと、すごくかわいくて仕方がないというか」
「……その手に握っているのは刃物のはずだが」
「危なっかしいのが、余計にかわいい」
「それを言うならレナの方だ。梨を剥く手つきがぎこちないのに、あんなに楽しそうにされると止めることもできない。いつも以上にお前から目が離せなかった」
苦々しく呟くディルは私の手を取り、怪我がないか丁寧に確認している。
多少は自覚があったけれど、梨を切っただけでここまで心配されるほどの実力だったらしい。
「甘いわねぇ……」
早食いのベルタさんは、すでに食事を平らげてデザートに移っていた。
涼しげなグラスに盛ったキャラメル風味のアイスを、おいしそうに食べている彼女と目が合う。
「あら、私のことなら気にしなくていいのよ。お邪魔になるのは嫌だから、すぐ出て行くわね。ただアイスはおかわりをさせてちょうだい」
「ベルタさん、せっかく戻って来たんですから、私たちに遠慮しないでください。小屋を貸していただいているのは私の方で、ここはあなたの別荘なんですから」
「レナーテこそ私を気にせず、好きにここを使えばいいのよ。私はあなたに助けてもらった恩があるしね」
「あら、ごめんなさいね。若い男と猫の仲を邪魔をしてしまって。すぐ帰るから」
「待ってベルタさん。大切な話があるんです!」
もちろん猫の姿をしているけれど私はレナーテだとか、若い男と猫の仲とは一体なんなのかとか、魂剥離のことを詳しく教えて欲しいとか、帰るというけれどここはベルタさんの家だとか、言いたいことは色々とある。
でもなによりも!
「ベルタさんの魔術で保存しているアイスの置き場所、どこなのか教えてください!!」
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隣に座るディルは、私によって切ない形となった梨を食べている。
気分がのってきて梨の皮を自力で剥いてみたら、こんなことに……。
「あ、あのね……時魔術で鮮度を戻したから、味はいいはずだよ」
「ああ、うまいな」
「……見た目は、その」
「俺がうまいと言っているのだから、なにも気にすることはない。それよりレナはナイフで指を怪我してはいないか?」
「大丈夫だよ。ちょっと危なかったけれど」
「レナさえよければ、今度から俺が作る」
「ディルが料理を?」
「ああ。レナが望むのならしたい」
まな板と向き合い、包丁を握って小魚をさばく黒猫……ではなくディルの姿が浮かんでくる。
「レナ、呆然としているように見えるが、どうかしたのか。やはりどこか怪我をして痛むのか?」
「違うの。ディルが初めて包丁を握っている姿を想像してしまうと、すごくかわいくて仕方がないというか」
「……その手に握っているのは刃物のはずだが」
「危なっかしいのが、余計にかわいい」
「それを言うならレナの方だ。梨を剥く手つきがぎこちないのに、あんなに楽しそうにされると止めることもできない。いつも以上にお前から目が離せなかった」
苦々しく呟くディルは私の手を取り、怪我がないか丁寧に確認している。
多少は自覚があったけれど、梨を切っただけでここまで心配されるほどの実力だったらしい。
「甘いわねぇ……」
早食いのベルタさんは、すでに食事を平らげてデザートに移っていた。
涼しげなグラスに盛ったキャラメル風味のアイスを、おいしそうに食べている彼女と目が合う。
「あら、私のことなら気にしなくていいのよ。お邪魔になるのは嫌だから、すぐ出て行くわね。ただアイスはおかわりをさせてちょうだい」
「ベルタさん、せっかく戻って来たんですから、私たちに遠慮しないでください。小屋を貸していただいているのは私の方で、ここはあなたの別荘なんですから」
「レナーテこそ私を気にせず、好きにここを使えばいいのよ。私はあなたに助けてもらった恩があるしね」
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