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「馬はここに置いて移動します。殿下達が魔物を弱らせますので動きが止まったらリリエナ様は祓いの発動をお願いします。対象より少し離れた場所に待機しますので私から離れないで下さい」
「分かりました」
オーガストを先導に森の中を歩くと獣のような唸り声と金属音、それにヴァイツェンの声が聞こえた。その開けた場所の全容が見える位置まで来ると、禍々しいオーラを纏う巨大な塊を騎士達が囲んでいた。
足が何本もあり、その先端には鋭い爪も見える。象ほどの大きさで蜘蛛のような姿だった。
「うっ、気持ち悪い」
「蜘蛛は苦手ですか?もう少し離れておきましょう」
オーガストがリリエナの肩をそっと押し後退させる。
基本的に動物は好きなリリエナだが、昆虫の特に多足類は少々苦手だ。
しかしそうも言ってられない。
「オーガストさん、大丈夫です。私はやらなければいけませんから」
目の前で殿下や騎士達が戦っている、蜘蛛は足をばたつかせて騎士を薙ぎ倒そうとするが剣を盾に後退り回避した。炎が蜘蛛を包んだが暴れ、発動者を蹴り上げた。
飛ばされた騎士は木に衝突し気絶したようだった。怪我をしているかもしれない。
「あっ、癒さなくちゃ」
リリエナは駆け寄り癒しの魔法をかけ、他に怪我人がいないか戦っている騎士達に近づこうとした。
その時、今まで感じたことがない程腕を強く掴まれ、強引に引っ張られた。
殆ど引き摺られるように最初の位置まで戻らされたリリエナは戸惑い、振り返る。
「オ、オーガストさん!どうして」
「すみません、貴女を守る為です」
らしくない、と感じたものの彼の責任感の強さとも思え、リリエナは視線を騎士達にヴァイツェンに向けた。
蜘蛛は所々青い血を流し、足の動きも鈍くなってきているがヴァイツェンからの指示はまだ無い、まだ近づいてはいけないのだろうか。
遠目にも怪我人が出ているのが確認出来る、早く治してあげないと。
リリエナも責任感から焦っていた、目の前のものしか見ていなかった、だから不意を突かれたのだ。
カチリ、と音と共に首に違和感を感じ、同時に背後から延びた手で口を塞がれ、お腹に回された腕がリリエナの身動きを封じた。
悲鳴を上げる間も無く、その場から連れ去られようとしていた。
え、何が起こっているの。後ろを振り向けないがこの腕はオーガストさんだ。
足掻いてみるがびくともしない、助けを求めて騎士達を見るが当然ながらこちらを見ている者などいない。だがどんどん離れていく。
何か魔法で知らせられないかと考えたが、魔法は何も発動しなかった。
私どうしたらいいの!誰か助けて!殿下!
互いの視界から完全に消える直前、ヴァイツェンが振り向いた。
その瞳を見開き、こちらに体を向けた瞬間、蜘蛛の足がヴァイツェンを蹴り飛ばした。
ヴァイツェンが宙に舞ったところでリリエナ達は完全に姿を消した。
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