屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
211 / 349
第七部『暗躍の海に舞う竜騎士』

三章-7

しおりを挟む

   7

「ペークヨーについては、わたしも多くは知らないのです」


 海竜族のキングーは目を伏せながら、俺たちに話し始めた。
 オモノの街に駐屯している海軍の帆船は、落ちついて見てみると至る所に板で補強がしてあった。
 破損した部分を修復した箇所なんだろう――が、そこから腐った鯨肉の臭いが漂って来て、海風がなければ立っているだけでも辛い。
 船尾へ向かう途中にある階段に腰掛けたキングーは、両手で顔を覆った。


「あの眷属神と出会ったのは、つい先日のことですから……わたしも詳しいことは知りません」


「……そこで、クラーケンとランドを戦わせようと共謀した、というわけですか?」


 少々棘のあるセラからの問いに、キングーは一瞬だが虚を突かれたような顔をした。


「いいえ……いいえ、それは違います! わたくしもクラーケンを止めるべく、あなたがたと共に戦うつもりでした。ですが、ペークヨー殿に下手に動けば、あなたがたの邪魔になると言われ……」


「それならそれで、ひと言あっても良かろう。それすら怠ったのであれば、妾たちのことを軽んじておったと思われても仕方なかろう?」


 キングーの言い訳に対し、瑠胡はいつになく辛辣だ。それは同胞であるドラゴン族を殺されてもなお、自分の体裁を優先させたキングーへの怒りもが元になっている気がする。
 天竜族の姫から疑いの目を向けられたことが、よほど堪えたようだ。表情を強ばらせながら、視線を下へと向けた。


「それは……いえ、返す言葉も御座いません」


 素直に自らの非を認めたところで、俺はキングーへと話しかけた。


「理由はともかく、ペークヨーと戦わざる得ない状況になっちまったわけです。もちろん、共闘してくれるんでしょうね」


 こうなった以上、戦力は多い方がいい。クラーケンを葬った雷は、ペークヨーの竜語魔術か、それとも《スキル》――《魔力の才》――かは、わからない。
 だけど、あの威力はまさしく神の雷そのものだ。あれを防ぐなり、発動を阻害する手段がない限り、俺がペークヨーに勝つのは難しい。
 海竜族であるキングーが共闘してくれれば、勝つ可能性も高くなる――と、そこまで考えたところで、キングーは俺の期待を裏切って、首を左右に振った。


「それはできません。この戦いは、一対一であるべきだと考えます。瑠胡姫様や、そちらの女性の共闘されるのも、ペークヨー殿は納得しないだろう」


「待って下さいよ。あなただって、ジコエエルの助っ人に、クラーケンを呼び寄せたじゃないですか。なら今回だって、俺が助っ人を頼むのは妥当だと思いませんか」


「……それは違います。どのような手段を使ったのかまでは存じておりませんが……あなたがグレイバーンとの勝負に勝ったという話は伝わっております。その力量の差を埋めるための措置――だと考えて下さい」


「いや、待った。それなら、今回だって同じでしょ? 神と俺とじゃ差があるんじゃないですか?」


「眷属神とはいえ、ペークヨー殿も神の一柱。確かに、あなたよりも強大な力を有しているでしょう。ですが、やはり共闘はできません。なぜなら、ここで共闘してしまえば、我ら海竜族は、瑠胡姫様とあなたとの仲を認めたと思われてしまうでしょう。天竜の姫君がドラゴン族ではなく、人族を選んだなど……我らドラゴン族の自尊心が許さないのです」


 結局、俺が気に入らないから手助けをしない――言葉は違えど、キングーの主張はその一点しかない。
 いい加減、怒りを抑えるのも限界だ。俺は「巫山戯るなっ!」――と言おうとしたが、その直前に瑠胡が、片手でそれを制してきた。
 怒りの目をキングーに向けながら、瑠胡は感情を押し殺した声を出した。


「……それが海竜族の総意だと、思ってよいのか?」


「……多少の差異はあるでしょうが、お二人の仲を認めないという一点については、総意でしょう」


 つまり俺と共闘しないのは、キングーの独断ということらしい。
 キングーの返答を聞いてから、瑠胡は柳眉を釣り上げた。そして踵を返すと、俺とセラの腕に手を添えた。


「二人とも、もう行きましょう。ここで話をしていても、時間の無駄だとわかりました」


「えっと……はい」


 俺とセラは、大人しく瑠胡に従うことにした。ここまで怒りを露わにするのは、かなり珍しい。
 俺たちが甲板を歩き始めると、背後でキングーが身を乗り出した。


「瑠胡姫――ひ、一つだけ、お訊きしたいことが御座います。瑠胡姫は、クラーケンとの戦いに参加しない、わたくしに怒りを抱いていた御様子。なので、なぜペークヨー殿の雷から、わたくしを助けてくれたのでしょうか?」


「……そんなことすら、理解できぬか」


 立ち止まった瑠胡は、睨むような左目だけをキングーへと向けた。


其方そなたの命が、潰えようとしていたからに他ならぬ。それに同族を助けるのは、同じ竜神を長に据える一族として、当然のこと」


「そんな貴女が、なぜクラーケンを斃そうとしたのです。同じ命であるのに……」


「一つだけの約束だと思うたが……まあよい。よいか、同じ命であればこそ、その者が犯した不必要な殺戮には、相応の罰が必要であろう? 我らが同胞、そして人間――それらを虐殺しておいて、呪いが解けて改心したら目出度し目出度し――というわけにもいくまい。それでは殺された者の霊魂だけでなく、を悲しむ同胞や家族が浮かばれぬ。
 それに、ドラゴン族や人族を喰った彼奴は、飢えればまた、同じことを繰り返す。呪いに関係無く、人やドラゴン族を襲って喰らうだろう。それを防ぐためにも、斃さねばならぬ」


「あと同じ命というならさ。どうして、襲って来たクラーケンを斃すのが駄目なんだ? あいつだって、ドラゴン族や人族を襲い、殺し、喰らってきたんだ。命を大事にしろって言ってますけど、ちょっと不平等過ぎませんか?」


 瑠胡のあとに継いで、俺も言いたかったことをぶちまけた。
 俺からの反撃は予想外だったのか、呆気にとられるキングーは、瑠胡だけに視線を注ぎながら、震える声で言ってきた。


「ならば、このあと……もし、わたしの命がまた危うくなり、そこに貴女が居合わせたら、また助けると言うのですか?」


「その場に居れば、助けるに決まっておる。こんな決まり切ったこと、なんども言わせるでない」


 凜とした態度で質問に応じた瑠胡は、そのまま顔を正面へと向けた。


「ではな。ランドの手当もせねばならぬ故、妾たちはもう行く。もう二度と会わぬ事を期待しておるぞ」


 最後にキングーへ辛辣な言葉を言い残すと、瑠胡は俺たちを促しながら歩き始めた。
 瑠胡とセラに支えられながら帆船から飛びだったとき、ふと背後を振り返った俺は、キングーが俺たちをジッと見上げている姿を見た。
 その表情は、どこか惚けているように見えた。
 海岸に到着した俺たちは、先ずシャルコネとレティシアに、クラーケンとペークヨーについての状況を報告した。
 新たな災難の出現に愕然とするシャルコネの横で、レティシアは冷静な顔で離島へと目を向けた。


「……なるほど、新たな敵というわけか。それに話を聞く限り、そいつが黒幕というわけだな」


「ああ。それだけは、まちがいない」


「そ、それで、ランド……戦ってくれるのか?」


 少し恐る恐るという感じのシャルコネに、俺は頷いた。


「もちろん。戦いますよ。神を名乗るヤツに、どこまでやれるかは、わかりませんけど」


「平然と言いやがるな。肝っ玉が凄いのか、頭のどこかがぶっ飛んでるのか。どちらにせよ、出来る限りの支援はしてやる」


「ありがとうございます。でも、取りあえず寝床と食事だけでいいですよ。とりあえず、傷の手当てをしたいので、離れに戻ります」


「わかった。あとで、食事は持って行かせる」


 シャルコネに礼を言ってから、俺たちは離れに戻った。
 治療といっても瑠胡の《スキル》である、〈回復の血〉によるものだ。だから手術とか薬草なんかは必要ないんだけど……その光景は、ちょっと人前に出せるものじゃない。
 お互いの想いを打ち明けてからというもの、〈回復の血〉を使うときは接吻だから……ほら。
 色々とあるのである。色々と。
 戦いの興奮状態も抜けてきて、痛みが酷くなってきた。クラーケンを凍らせた力についても気になるが、痛みが酷くて、そっちを考える余裕がない。
 俺は脂汗を拭いながら、まずは離れに辿り着くことだけを考えた。

   *

 ランドたちを見送ったレティシアは、シャルコネに一礼をした。


「シャルコネ殿。わたくしもここで失礼致します」


「ああ……ご苦労だった。大袈裟な布陣をしたわりには、なにもせず終いだったが」


「いえ。作戦自体には、問題はなかったように思います。ただ、相手の行動が予想の範疇を超えておりました」


「……そうだな。野生動物というのは、行動が読めねぇしな。ああ、嬢ちゃんもゆっくりと休んでくれ」


「そうします」


 海岸から出たレティシアは、海蝕洞へと向かった。
 まだ傷の癒えていないジコエエルに、クラーケンが死んだことと、ペークヨーという黒幕のことを伝えるためだ。


(ジコエエルはもう、ランドと敵対はしないだろう)


 いつしかレティシアは、そんなことを考えるようになっていた。
 種族は違えど、戦いに身を置いているジコエエルの気持ちが、武人であるレティシアには理解できる――つもりだった。
 ジコエエルの中では、もう瑠胡のことより失った同胞たちへの想いが強くなっている。
 だから黒幕の存在は恐らく、ランドへの敵対心を上回るはずだ。復讐の炎が燻っているであろうジコエエルにとって、ランドがもたらした話は、ある意味では吉報だ。
 生きる気力を取り戻してくれればいいが――そんなことを考えながら、レティシアは海蝕洞へ続く岩場へと脚を踏み入れた。

---------------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

たった今、変換ミスで「本作を読んでいたザクとドムは最高だぜ、ジークジオン」ってのが出てきたんですが……なにを覚えやがりましたか、このワープロソフト。

昔、なにか学習させたっけ……とか、本文とは関係のない話から始まったわけですが。

クラーケンに対するランドや瑠胡の考え方は、本文の通りです。改心したら仲間です――とか、普通ならありえませんね。
改心しようが牢屋へ行って、裁判になるのが普通かと。仲間になるのは、それからでしょう。

戦時中だと、亡命や投降って例もありますが。
でも過去の事例ですと、戦争犯罪を確認されつつ、裁判待ちで刑務所にって例が多かったような。これは、階級に依るのかもしれませんが。

稀に無事に釈放され、他国でパイロット教官に――という事例もありますね。ルー○ルみたいに。そして29才も年下(21歳)な奥さんをゲットするという、羨……けしからん展開もあったりします。

……ベツニウラヤマシクハナイデスヨ? 

個人的には年齢より、ハイヒールと鞭が似合って、踏んでくr……いえ、なんでもないです。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

処理中です...