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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

三章-6

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   6

 レティシアの騎士団は、デモスさんが接収された土地の近くに集まっていた。
 昼食の仕込みを終えた俺は、言われたとおりに騎士団へと赴いた。そこには前にいた女騎士たちと一緒に、職人らしい男たちがいた。
 俺が近寄ると、こっちに気づいたクロースが大きく手を振ってきた。続けてリリンが俺に会釈をし、ユーキはクロースの後ろに隠れた。
 この前と行動が、さほど変わってないんだけど……いいのか、これで。


「おーい、ランドくーん!」


 俺はクロースに手を振り返しながら、レティシアの姿を探した。
 少し離れたところで職人と話をしていたレディシアは、セラに肩を突かれていた。それでようやく俺に気づいたらしく、小さく手招をしてきてきた。
 俺がゆっくりと近寄ると、レティシアは腰に手を当てた。


「やっと来たか」


「来いと言われたからな。それより、なんでこの村で駐屯地を造るんだ?」


「ここは国境に近いからな。守備の強化と……あとは、あのドラゴンの姫への警戒だ。なにかあってからでは遅いしな」


「その心配は、いらねぇと思うけどな」


 共同生活をした上での感想だが、瑠胡に人へ危害を加えようという意志は感じられない。そのことを告げると、レティシアは「あくまで念のためだ」と、不機嫌に答えた。 


「それより本題に入ろう。貴様には、駐屯地の建設を手伝ってもらいたい」


「建設って……そんなの、やったことねぇからな。技術を貰わないと」


「だろうな。それについて、職人たちと相談していたところだ」


 レティシアが首を向けると、後頭部以外に毛の無い中年の男が、不安げな顔を見せた。


「あのですね、騎士様。本当に、ちょっと吸われるだけなんですかい?」


「その通りだ。ランド、技術を奪うのは最低限でいいのだな?」


「ああ。まあ、そうだけ……ああっと。技術や《スキル》を貰うのは、そうだけどな。ただ、個人的なルールがあるんだよ。俺がこの仕事でスキルを貰うのは、基本的に依頼主からだ。同じ依頼主を持つ職人じゃない」


 俺がそう言うと、レティシアは不機嫌そうに睨んできた。いや、こういうルールを作らないと、不公平感のある依頼が来ることもある。たとえば借金を肩代わりさせる代わりに、使用人の技術を提供してくる依頼主とか――だ。
 それを防ぐために、俺が考えたルールだ。


「ちょっといいか?」


 返答を待っていた俺に、レティシアではなく職人の親方さんが話しかけてきた。
 体格だけなら、俺の二回りはでかい。無精髭の下には、思慮深い目に彫りの深い顔。外見だけでなく、周囲にいる職人たちの様子を見ても、頼りになる親方といった雰囲気があった。
 そんな親方さんだが、今は不安そうに表情を曇らせていた。


「仕事を依頼するのは、俺なんだけどよ。実際、人手は多い方がいいしな」


「あ、そうなんですか」


 レティシアからの反論に身構えていただけに、なんか拍子抜けしてしまった。
 俺が〈スキルドレイン〉の説明をすると、親方さんはぎこちなく頷いた。まだ戸惑うような顔で差し出してきた左腕を、俺はトゲのある左手で掴んだ。
 それから一秒ほどで、俺の頭の中に親方さんの技術や《スキル》が浮かび上がった。
 建築系の技術に、《スキル》は〈体力回復〉――そんな技術の中に、責め苦・受けや、豚の鳴き真似とかあるんだけど……この二つは、見なかったことにしておこう。
 俺は建築系の技術を少しだけ貰うと、営業用の笑顔を浮かべた。


「それでは、これで契約成立ってことで。仕事は今日からですか?」


「ああ……そうだ。今日は設計図を元に、地面に印を付けていく。土台を埋め込むために、地面を掘り始めたいが……まあ、順調に作業が進めたらの話だ」


 親方さんに頷くと、俺は作業の開始時間や必要な道具などを聞いた。そこで、やはりどうしても気になることがあって……俺は親方さんに尋ねた。


「でも、こんな辺鄙なところに長期滞在だと大変ですよね。恋人さんとかと離ればなれで、寂しくないですか?」


「恋人っていうか、じ――いや、かみさんはいるがな。言っておくが、浮気なんざしねぇぞ?」


「ああ、そうですか。すいません」


 俺は謝りながら、頭の中では別のことを考えていた。

 そっか……アレは、奥さんとなんだ。
 世の中って、意外と斜め上方向にも広いんだな……。

 人は見かけによらないとか思いながら、俺は職人たちから離れた。
 職人にしろ騎士団の面々にしろ、まだ村に着いたばかりで疲れているだろう。それに、もうすぐ昼飯の時間だ。
 仕事は昼飯を食べ終わってから。必要な道具はないことだけを親方さんから聞くと、俺は先に家に戻ることにした。
 とりあえずは……汚れてもいい服に着替えよう。昼飯はどうしようかな……そんなことを考えながら、俺はのんびりと村の中を歩いていた。

   *

 レティシアが職人たちとは別の宿に戻ると、部屋の前でセラとキャットが待っていた。
 二人とも立ったままでレティシアを出迎えていたが、なにか言い合いでもしていたのか、和やかな雰囲気ではなかった。
 とりあえず二人と部屋に入ったレティシアは、鎧を着たまま椅子に腰掛けた。


「……二人とも、どうした?」


「団長に質問です。結局、ランドを雇うんですか?」


 腕を組んだキャットは、どこか不機嫌そうだ。
 レティシアは足を組みながら、大きく息を吐いた。


「どうして、そんなことを?」


「女だけの騎士団を設立する――そう聞いたから、入団の誘いを受けたんです。それなのに、知り合いだからって、なんで男を雇うとか」


 この質問で、レティシアはキャットが不機嫌な理由を察した。
 キャットは男嫌いというわけではない。ただ、過去に色々とあったらしく、男と仕事をしたくないという気持ちが強い。
 レティシアは小さく手を挙げて、キャットを制した。


「そういうことか。雇うといっても、ランドが騎士団に入団するわけではない。なんというか……助っ人要員として使うつもりだ。今回にしても、大工として雇っただけだ」


「つまり、騎士団への入団はない?」


 確認をするようなキャットの問いに、レティシアは頷いた。


「そうだ。我ら《白翼騎士団》は、男の入団は認めぬよ」


 レティシアが断言すると、キャットは珍しく表情に安堵の色を滲ませた。
 これでキャットの話は終わりかと、レティシアはセラを見たが、


「わたしは、ただの付き添いです」


 そう言って肩を竦めただけだ。
 それでも、二人のあいだには不穏な空気が漂っていた。レティシアは立ち上がると、二人を手招きをした。


「これから食堂に行くが、一緒にどうだ?」


 セラもキャットも、この誘いを断らなかった。
 三人が食堂に着くと、そこにはすでに、リリンとクロースがいた。二人はレティシアに気づくと、立ち上がって僅かに頭を下げた。


「二人とも、今は休息中だ。楽にしてくれ」


 レティシアが小さく手を挙げるのに合わせて、二人は姿勢を戻した。
 それからクロースは少し迷った素振りを見せてから、レティシアに問いかけた。


「あの、団長。ランドく――いえ、ランド殿は、騎士団に入団しないのでしょうか?」


「いや、その予定はないが……なぜだ?」


「いえ、その……」


 クロースはリリンをチラリと見てから、返答を続けた。


「強いし、頼りになるし……ユーキも言ってましたけど、入団してくれたら心強いと思います。それに、リリンも喜ぶかなって」


 話の中に自分の名が出たことに、リリンは驚いたように目を見広げた。
 酒場にいる騎士団の全員を順に見回したリリンは、視線を彷徨わせてからレティシアへと向き直った。


「あの……別に、嬉しくは……ありません。村の人たちの話を聞くと、ランドさんはドラゴンの姫様と仲良くやっているようで……あ、すいません。これは関係がないですね……ええっと」


 珍しく狼狽えているリリンに、レティシアは溜息を吐いた。
 キャットと、クロースやリリン、ユーキたち三人娘。彼女らで、ランドに対する意見が違いすぎる。前者はともかく、少なくとも後者はランドのことを気に入っているようだ。
 それはそれで、困りものだ――と、レティシアは溜息を吐いた。


(まったく……)


 ランドが瑠胡のことをどう想っているのか――気になりはするが、本人に聞くのは抵抗があった。


(女にうつつを抜かしている暇などないだろう……武勲を立てねば、軍や近衛兵への登用もないのだぞ)


 レティシアはリリンやクロースに、「もういいから」という意味の所作をすると、近くの席に座った。
 この日――レティシアが夕食までの時間に消費したエールは、軽く一〇杯を超えた。
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