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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

技術長の高慢と欺瞞の渦 その3

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 技術長の高慢と欺瞞の渦 その3


「わたしは冷静に、と言ったはずだが。事後の対応をする、こちらの身にもなってくれ」


 窪地から出た早々に、ジョージ大尉は僕とレオナへの苦情を漏らした。 
 僕とレオナは顔を見合わせてから、ジョージ大尉に謝った。


「あの言い方は、酷いと思ったら、つい」


「申し訳ありません、大尉。アウィンと同じ理由ですが、我慢しきれませんでした」


 僕らの弁明に、ジョージ大尉は溜息で応じた。


「まあ、気持ちはわかるがな。ああいう男だ。権力を握ったことで、気性に歯止めが利かなくなっている。君たちに不快な思いをさせたことは、わたしから詫びよう。しかし……ああいう男だからな。次はどんな手でくるか、想像ができん」


「え……まだ、なんか絡んでくるんですか?」


「可能性はある。引っ込みがつかないだろうしな。それに、ヤツの言葉ではないが、未知の魔導器を手に入れたいだろうしな」


「うわぁ……」


 あの調子で色々と茶々を入れられると思うと、僕は気が重くなった。話の通じないというか、自分に都合の悪い話は聞く耳持たない人な気がしてならない。
 折り合いをつけたくても、向こうの条件を呑むまでは、こっちの迷惑など省みることなく、絡み続けてきそうだ。
 僕が溜息を吐くと、レオナが苦笑しながら背中に手を添えてきた。


「大丈夫よ。あたしもいるし。それに、あれだけ技術の差を見せつけたんだもの。今日明日で絡んでくるとか、ないと思うし――まあ、普通ならね」


「あの人が普通ならいいけど……」


 とりあえず、仕事に行こう――僕はレオナと一緒に、第二坑道へと向かった。
 その途中で、僕はふと不安にかられた。


「遅れているついでだし、一度家に寄ってもいいかな?」


「あたしはいいけど……あの、なにをするの?」


 どこか照れたように、レオナが少し頬を赤くした。
 その意味を察してしまい、僕も頬を赤くしながら慌てて首を振った。


「あの、泥棒よけというか。侵入防止の仕掛けを準備したいんだよね。前に、ダントやラントを警戒して造ったことがあって。倉庫に眠ってるはずだから」


「あ、そ、そうなんだ。でもなん――あ、なるほど」


 レオナも、ピンっと来たみたいだ。ジョージ大尉の言葉が真実なら、留守を狙った住居侵入くらいはやるかもしれないし。
 なにやら、面倒くさいことになったな……。

   *

 アウィンとレオナが家に向かっていたころ。
 《箱》の調査と発掘のために立てられた仮設の小屋で、アラド技術長は癇癪を起こしていた。魔導器の拳銃を部下に投げつけ、「貴様らが未熟なせいで、恥をかいたぞ!!」と、怒鳴り散らかしている。


「あの小僧と魔導器め――スクラップにしてでも手に入れてやる」


「ですが、技術長。街中で手荒なことはできません」


「手荒でなければ良いのだろう? 兵士を召集させろ。作戦を練る」


「は、はい……」


 気乗りのしない表情だったが、部下は素直に小屋から出て行った。
 アラド技術長は、すでに部下への関心を失い、小屋に置かれた荷物から細長い棒状の魔導器を取り出した。
 これは魔導器の動作を一時的に止めるためのものだ。魔導器の一種だが、魔力は手にした使用者ではなく、対象の魔導器から吸い取るのだ。


(あの魔導器の動きさえ止めれば、あんな小僧など無力だ。二人で魔神を斃したというが、戦ったのは魔導器のほうに違いないからな。そうなると、邪魔者はジョージか)


 命令書用の書面を取り出したアラド技術長は、ジョージ大尉宛の書簡を記し始めた。
 このとき、すでにアラド技術長の頭の中では、作戦の立案はほぼ完成していた。決行の日時は本日の深夜零時丁度。
 目的は魔導器の確保と、発掘技師の拘束。


(本体に戻り次第、魔導器の研究と実験を行わねばな。それと、あの技師……知っている秘術を洗いざらい吐かせてやる。技師なら、手さえ残っていればいい。尋問で足の一本でも切断すれば、あの糞生意気な態度も改まるだろう)


 恥をかかされたという屈辱を被虐の妄想で晴らしながら、アラド技術長は命令書を書き記した。
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