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第四章 円卓の影

エピローグ

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 ルイハスの街から馬車で北へ四日進んだ山間に、オットリア市という街がある。山の手といわれる裕福層の住む住宅地に、市長の屋敷がある。
 領主の住む城を望むその応接室に、エキドアがいた。目の前にいる二人の男たちと、紅茶を飲んでいた。


「人間たちが造り上げた文化の中でも、茶葉だけは評価しているわ。精神というのかしらね。どこか安定を得られる気がするわ」


「どちらかというと、高揚感に似たものを感じますが」


「そこは個人差があるのかしらね。でも、悪くはないのでしょう?」


「ええ、まあ」


「それより、今後のことを決めねば」


 鎧を着た男がティーカップを置くと、エキドアは小さく頷いた。そして、目を閉じながら静かに息を吐いた。しばらくは黙考していたが、考えが纏まったのか、静かに目を開けた。


「まずは、今の地位と名前を捨てなければ。できれば、身体も変えたいところね」


「身体を……次の身体はどうなさるのです」


「それが問題ね。都合の良い死体があれば良いのだけれど。最悪、都合の良い身体を造るしかないわね」


「どちらにせよ、一苦労しそうですな」


 背広の男が溜息混じりに言うと、エキドアは紅茶を飲み干した。そしてティーカップを静かに置くと、前にいる二人を見回した。


「そうね、そろそろ行きましょうか。持ち出す金銭は、最低限にしておきなさい。追跡される原因になるわ。あと、食料もね」



 三人は立ち上がると、応接室を出た。
 そして血まみれの廊下に出ると、ゆっくりとした足取りで市長の執務室へと向かった。

   *

 ウコバークを捕らえた七日後。オントルーマに戻った俺たちは、ティレスさんの屋敷を訪れた。
 居間に通された俺とクリス嬢は、ソファに座るティレスさんに、事件の途中報告を行った。捕らえたウコバークが、古井戸を利用した地下牢に収監されたこと。
 主犯らしいエキドアと他二名は逃走。その後の行方は、現在調査中――。
 そこまで話を聞いたティレスさんは、ゆっくりと頷いた。


「ご苦労様でした。あんな状況から、こんなに早く関係者を捕らえるなんて。正直、思っていなかったわ」


「運が良かったんですよ。ただ、残りの三名は手こずるでしょうね。調査と追跡は続行しますが、今回のように連続としたものは難しいです」


「……それは、仕方ないわね」


「ご理解頂けて、幸いです。中央政府のマーカスさんが、追跡を継続してくれるそうです。こちらは、その経過を確認しながら動きます」


 これで、俺からの報告は終わりだ。
 ティレスさんは「わかりました」と告げてから、小箱を俺に差し出した。


「これは、ここまでの報酬です」


「……いいんですか?」


「ええ。少なくとも、一人は捕らえたんですもの。それには報います」


「さすが……街の権力者だった人は、商人や並の貴族とは違いますね」


 小箱の重さに素直に感嘆した俺に、ティレスさんは目を見開いた。
 静かに息を吐いてから、まっすぐに俺を見上げた。


「そんな話を、どこで聞いたのかしら?」


「いえ。倉庫にあった財産を見たとき、単なる商人や貴族のご隠居ではないと思いましたので。あとは、犯人の依頼をされたときの目、ですね。失礼ながら、かなりの迫力でしたから……その、ある程度の地位にいたのではと。そうなると、考えられるのは領主か権力者だった貴族――領主は別にいますから、残るは」


「権力者というわけね。なるほど……ローウェル伯爵が欲しがるわけね」


「ええっと……伯爵を御存知でしたか」


「ええ。近隣の貴族は大抵ね。どうかしら……この街に移り住む気はない? できる限りの支援はさせてもらうけれど」


「いえ……祖父が残してくれた店がありますから」


「お店ごと移り住んでくれていいのよ? 優秀な人材は、いくらでも欲しいところよ。息子の仕事を手伝って――」


「あの……失礼ですけれど。トトは、渡せませんの。そんなこと許したら、お爺様が激怒しますもの。それに、わたくしも困ります」


 クリス嬢は毅然とした態度で、ティレスさんの言葉を遮った。
 特に最後の言葉に驚いたようで、何度も目を瞬かせていた。


「あら、まあ――これは、ごめんなさいね。これ以上は、控えるわ」


 ティレスさんが、どこをどう納得したのかは不安が残る。だけど、そこを確認するのも怖かった。俺は少し強引に話を終わらせると、クリス嬢とティレスさんの屋敷を後にした。



 駅まで戻ると、クリス嬢は切符売り場での手続きに向かった。
 切符の購入を待つあいだ、俺は玄関口に近い柱に凭れていた。真っ青な空を見上げると、無性に気が滅入ってきた。
 大きな溜息を吐いたとき、ガランが話しかけてきた。


〝トト――大丈夫か? ウコバクの件が終わってから、落ち込んでいるようだが〟


「ああ――そうだね」


 首からかけた竜の首輪を軽く握ると、俺は静かに目を閉じた。


「あんな小さい子から向けられる殺意ってさ……いつになっても慣れねぇなって思って」


〝そういう悩みは、クリスにも話をしたらどうだ?〟


「……ちっちゃな意地みたいなものかな。こんなの、俺だけが抱えていればいいんだよ」


〝そうか? だがな――〟


 ガランの言葉が終わる前に、背後から固い声がした。


「トト? なんで、そういう悩みをガランにしか話さないのです?」


 いつのまに戻ってきていたんだろう――クリス嬢が柱のすぐ裏にいた。顔はしとやかに微笑んでいた。微笑んではいるんだけど、こめかみがピクピクと動いているのは、果たして俺の気のせいだろうか?
 血の気の引いた俺がたじろぐのも構わず、クリス嬢は詰め寄って来た。


「まったく……いつまでもガラン、ガランって。ガラン離れができないんですか?」


「あ、いや……その、ですね」


「そのあたりのこと、帰りの汽車の中でちゃんと話し合いましょう?」


 もちろん、反対意見なんか言えないわけで。
 帰りの汽車で、俺はクリス嬢から説教に近い『お話』をすることとなる。

                                                完
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

まずは業務連絡から……。

転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました第四章。本編は終わりましたが、ボツした内容を一話出したいと思います。
次の話のプロットは、これから作りますので、しばしお待ち下さい。いつものことで申し訳ありませが、ご理解下さいませ。

さすがに連日の投稿をすると、ネタにできそうな日常がないですね……困ったものです。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
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