37 / 63
第二幕 『黒き山と五つの呪詛』
四章-1
しおりを挟む四章 暗躍する術者
1
嶺花さんの屋敷に集められた俺たちは、それぞれに状況の報告を終えた。
ただ、黒龍である流姫さんはアズサさんの家で、俺たちの話が終わるのを待っているらしい。
あとで、アズサさんが結果を伝えに行くそうだ。
多助と次郎坊が言った白鉱山では、金属のぬりかべもどきが出たらしい。それと白い鼻頭の猿は、多助と次郎坊とで調伏したということだ。
そんな戦いの疲れも見せない多助は、俺と恋子さんの報告を聞いたあと、見るからに落胆した顔をした。
「……そうか。沙呼朗は現れなかったんだな」
「そうです。黒水山を探してみましたけど、残念ながら見つかりませんでした」
俺の返答に、多助はがっくりと肩を落とした。
多助と沙呼朗が古くからの知り合いで、親友と呼べる仲だというのは知っている。それだけに、行方知れずとなった沙呼朗のことを心配しているんだろう。
多助は俺たちを責めることはせずに、嶺花さんへと頭を下げた。
「嶺花殿。沙呼朗を探しに行ってもいいだろうか? 居ても立ってもいられねえんだ」
「まあ、待ちな」
嶺花さんは小さく手を挙げると、桶から姿を見せている水御門さんをチラ見した。
「多助よ。あたしらに、そんな遠慮はいらないさ。だけど、闇雲に動いたって仕方が無いのも事実だ。ちょいと、手掛かりになりそうなことだけでも考えよう」
「手掛かりって言ったって……」
「もうすぐ、凰花とタマモが来る。それまでは待ったって、損はしないさ」
「そうですね。現地にいる彼女でれば、なにかわかるかもしれません」
水御門さんからも言われて、多助は憮然とした表情で胡座をかいた。
それから十数分ほど、無言の刻が流れた。
いい加減、多助だけでなく俺も焦れてきたころ、アスサさんに連れられて、凰花さんが広間に入ってきた。
「皆様、遅くなって申し訳ありません」
深々と頭を下げてから、凰花さんは広間に入ってきた。
手にした壺は、黒水山で見つけたものじゃない。
「こちらは、タマモさんが持ち帰った呪具となります。呪いの本体は、タマモさんが食べたということです」
凰花さんの報告に、俺や次郎坊、アズサさんなんかは、「うっ」という顔をした。
墨染お姉ちゃんと恋子さんは、素知らぬ顔。嶺花さんは無言で口を曲げていたけど、当事者であるタマモちゃんは、何故か得意げな顔をしていた。
これ……みんな、別に感心もしてなければ、褒めてもないと思う。
そんな様子を見ないようにしながら――賢明な判断だと思う――、凰花さんは話を続けた。
「他の呪具も調べてみましたが、これは呪いの本体ではないと判断致しました」
「……どういうことだい?」
嶺花さんの問いかけに、凰花さんは左横に置いた壺に手を添えた。
「これは呪いの為の呪具ではありますが、中に入っていた呪符は鎮宅霊符を改悪したものです。本来、鎮宅霊符とは悪鬼や禍事を防ぐためのもの。ですが中にあった霊符は、陰気などの呪いを招くものになっていました」
「……それは、呪いじゃねぇのか?」
多助の指摘に、凰花さんは首を横に振った。
「この霊符単体では、呪いは発生しません。あくまでも、他の呪いを引き寄せるための霊符となっています。つまり、呪いの本体は別にあるということです」
あれ? となると俺の感じたものは、一体なんだったんだろう。
疑問に感じた俺は、慌てて口を開いた。
「あの……でも、呪いの気配はありましたよ」
「恐らくは引き寄せた呪いが、呪具から発せられているのだと思います。それは他に回収した呪具を調べましたので、間違いがないでしょう」
「となると、問題はその呪いの本体がどこか……だと?」
「はい」
次郎坊に、凰花さんは小さく頷いた。
「この地の状態を調べましたが、陰気の増幅は続いております。ですが、皆様の御報告を教えて頂きましたが、四方と〈穴〉の砂には呪いは無いようです。となると、他の場所となりますが……」
「探すには、範囲が広すぎますね」
「だが、そこに沙呼朗がいる可能性が高い。あいつは、呪いに惹かれるように、飛び出して行ったんだからな」
アズサさんに継ぐように、多助が言った。
四神相応の地と言ったって、こうしてみると問題は山積みなのかもしれない。なんだっけ……前に例えとして言われたけど、本当に人間の身体みたいなものなんだ。
ちょっとバランスが崩れると、病気みたいな悪い物が吹き出てくる。
俺はここまで考えて……ちょっと思ったことがある。例えば人間なら、腐った食材で作った御菓子を食べたりすれば、下痢になったりする。
……もしかしたら、四神相応の地も同じだったり?
俺は墨染お姉ちゃんに、そのことを話してみた。
そうしたら、墨染お姉ちゃんは「堅護さん、それを皆さんに話をして下さいな。考え方は、あちきも合っていると思いますから。ね?」と言ってくれた。
俺は先ほどの考えを、凰花さんや水御門さんに告げてみた。今この場で、風水とか陰陽道のことにもっとも精通しているのは、この二人だ。
「……なるほど」
と、最初に口を開いたのは水御門さんだった。
「風水では、気の大元は崑崙という説があります。日本には、龍脈に沿って流れ込んでくるわけですが……基本的には北側から流れ込みます。その大元を辿って行けば、呪いの根源に辿り着けるかもしれません。烏森君、この気づきは大手柄になるかもしれないな」
「あ、いや、そんな……」
いきなり褒められて、俺は照れてしまった。
でも、これでなんとなく方針は決まった。それは、それで良いんだけど……。
俺と水御門さんのやりとりを見て、目を爛々と輝かせるアスサさんと恋子さんは、なんとかならないだろうか?
……ならないだろうなぁ、きっと。
どことなく諦めの気分で、俺は無表情に天井を見上げたのだった。
----------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
今回出てきた、玄武の砂に入る云々ですが、ちゃんと正式名称というのがあります。
出てくるのは次回ですが……そのあたりの資料を読んでいると、玄武の砂が五行の属性に分岐していたりと、よくわかりません。ぶっちゃけ「喧嘩売ってる?」という気になってきます。
複雑怪奇ですね、このあたり……。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜
ペンちゃん
ファンタジー
魔術研究者であるルークには夢がある。
それは簡単なようで難しい夢だ。
家族と共に笑い共に食事をしそしてそんな日常を繰り返す事。
昔…ルークには家族がいた。
と言っても血の繋がりはない。
孤児院で出会った4人だ。
しかし…今はいない。
だが約束をした、必ずまた会おうと。
ルークはそんな夢を家族と再開すると言う目的の為に異界へと旅立つ。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる