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天狗の転生と言われて、何故か妖怪の世界を護ることになりました
エピローグ
しおりを挟むエピローグ
俺たちが〈穴〉で土鬼を浄化してから、八日が経った。
帰ったその日の夕方に、嶺花さんはアズサさんと次郎坊を連れて〈穴〉へ赴き、生き残った鬼たちとの交渉を纏めてきたという。
その日の夜は宴が催されたんだけど……あれが宴会というやつ……なんだろうか? 人界ではまだ、そういうのに参加したことがなかったから、ああだ、こうだと言えないけど。
酔っ払った多助と沙呼朗は、素っ裸で踊り出すし。次郎坊は近くの障子に、『天狗としての道とは』という内容で、とうとうと語り続ける始末。
墨染お姉ちゃんは、俺にしだれかかったまま、寝息を立ててしまった。
さすがに不安になった俺は、アズサさんに「これ、大丈夫なんですか?」と訊いたんだけど。俺の両肩に手を置いたアズサさんも酔っ払っていたらしく。顔を真っ赤にさせながらの返答は、俺の予想した内容の斜め上を行っていた。
「あのですねぇ……このくらいで怖じ気づいていてたぁらぁ、立派な社会人には~なれませんよぉ? わかりまひたか!?」
言っている意味は分からなかったけど、一つだけ理解した。
なんていうか、その――社会人って怖い。
この次の日、俺は熱を出して寝込んでしまった。
アズサさんや次郎坊、それに墨染お姉ちゃんたちが言うには、黄龍を宿したことに慣れていないのに、力を全力で使用した反動ということだった。
墨染お姉ちゃんとタマモちゃんの看病の甲斐あって、熱は六日目の朝に下がった。
回復した俺は、とりあえず――念願だったことをやろう、と決めた。
人里で材料を買い、家で試作を繰り返した。納得のいくものができたのは、七日目の夕方だった。なにせ、妖界にはレンジやオーブンがない。竃での調理になったから、熱加減や焼き具合を確かめるのが大変だった。
そして八日目の朝。つまり今日――俺は屋敷の庭にある、小町桜の木に出来上がったものを持参していた。
「墨染お姉ちゃん」
俺の呼び声で、桜の木から墨染お姉ちゃんが現れた。
「堅護さん、おはようございます」
「あ、お、おはよう、ございます――それで、ええっと……これ。食べて欲しくて」
俺は器に入れた、三つのサツマイモのスイートポテトを差し出した。バターを使わない、砂糖と牛乳、それに卵と蜂蜜で作った御菓子だ。
「あら、良い香り」
墨染お姉ちゃんは、微笑みながらスイートポテトを一つ取ると、三分の一ほど千切ってから、口に入れた。
「ほんのり甘くて……美味しいわ」
墨染お姉ちゃんの言葉に、俺は心からホッとした顔をしたんだと思う。墨染お姉ちゃんは、そんな俺に身体を寄せると、左肩に頭を預けてきた。
「このために、堅護さんは頑張ってくれたのよね? とても嬉しい……」
頬を桜色に染めた墨染お姉ちゃんに、俺は顔を真っ赤にさせながら頷いた。
*
縁側で酒を飲んでいた嶺花は、近くにある水桶が光るのを見た。
「……おやまあ、こいつは珍しい」
水桶を妖力で手繰り寄せると、光の焦点が定まるのを待った。
光の中に袴姿の水御門が現れると、嶺花は徳利を縁側に置いた。
「そちらからとは、珍しい。〈穴〉の件かい?」
「ええ……その件で、今まで本家に出向いておりましたので。当主から、嶺花殿への伝言を承っております。この度の件、双方にとって善き流れと確信致しました。今後とも、共に二つの世界の安寧を願いましょう――と、いうことです」
「相変わらず、お堅いことで。そんなの、『ありがとう』のひと言でよかろうに。あんたも家柄としては当主の次だっていうのに、ご苦労なことだねぇ」
「……御存知でしたか」
目を丸くする水御門に、嶺花はニッと笑った。
「まあ、その程度の邪推はできるさ。風水の四神相応の地において、主山となる砂は北――つまり水を司る玄武だ。本家は、黄龍にあたる土を冠したんだろう? なら、水はその次ってわけだ」
砂――つまり四神相応の地における四方の山のことだ――が、一族の名の源流であることを当てられ、水御門は感服した顔つきで首を振った。
「流石です――これだから、妖の方々は侮れない」
「おや、今までは侮っていたのかい――っと、冗談だから、困った顔をしないでくれ」
苦笑する嶺花に、水御門は表情を和らげた。
「龍脈に関しては、妖界に頼り切りになってしまってますから。ご苦労をおかけしますが、何卒宜しくお願いします」
「ん? ああ――人界は山を削ったりして、砂の形状が変わっているらしいね。人も世もぐちゃぐちゃだろうさ」
そう言って、嶺花は杯残っていた酒を飲み干した。水御門は僅かに頭を下げてから、ふと周囲を見回した。
「ところで、今日は一人酒ですか。アズサさんはどこに?」
「あれは今、執筆中だ。ネタは新鮮なうちに、だそうだよ」
「それは……まあ、迷惑をかけない限りは、個人の自由ですから。で、今回の被害者は?」
「烏森と次郎坊――あとはほれ、墨染だな」
「それはまた……彼らには同情します」
神妙な顔で告げられ、嶺花は苦笑した。これ以上は、アズサの名誉――というか色々なものが損なわれると、嶺花は話を変えることにした。
「鬼たちは、あたしの保護下へ入れた。〈穴〉の守護を任せる代わりに、交易を了承したよ。里のモノに迷惑をかけないという約束も取り付けた。あとは……ああ、タマモの様子も知りたいんだろ? あれはついさっき、烏森のところへ茶々を入れに行ったよ。なにか、気に入ってるようだねぇ。力を取り戻したら、一番目に誘惑してやるって息巻いてたよ」
「それは――烏森君は、そのことを?」
「ああ、知ってたみたいだね。千年後だし、関係ないですね――って言っていたけど」
苦笑交じりの嶺花の言葉に、水御門は眉を潜めた。
「彼は――天狗でしたよね? なら、千年くらいは生きるのでは?」
「まあ、力の戻り具合――いや、成長具合ってしとこうか。それ次第じゃ、二千年は生きるんじゃないか?」
「……それは、彼に教えたんですか?」
「いんや? 教えたって戸惑うだけだしな。それに……そっちのほうが面白そうだ」
ククッと笑った嶺花は、思い出したように手を打った。
「本家への返答を言わなきゃね。妖界における嶺花の領地は、多少のいざこざはあったが今日も太平。春を肴に、酒が旨い――と」
上機嫌な嶺花に笑みを浮かべながら、水御門は頭を下げた。
「確かに伝えます」
二人が庭に目をやると、小町桜のすぐ脇にいた堅護と墨染へ、タマモが突撃したところだった。
完
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます。
わたなべ ゆたか です。
供養しようという投稿でしたが、多くの方々に読んで貰えて、感無量でございます。
そんなわけで……続きとか考えてませんでした。
某有名な人の言葉を借りするなら……。
「読めなかった、このリ●クの目をもってしても」
という感じです。
本当にありがとうございました。
一つ余談ですが、嶺花の最後の台詞「春を肴に、酒が旨い」ですが、大まかな意味は「目の前でやってる恋愛を見ていると、酒がおいしい」なのですが、もうちょっと詳しく説明をしますと……。
春というのは、五行において木気に属します。もちろん、青龍も木気です。
ですので、青龍の加護を得た木気の象徴ともいえる、墨染のことも含まれています。
これを踏まえると、
「ここで行われている墨染(と堅護)の恋愛を見ていると、安心して酒がうめぇ」
という意味になります。中の人の自己満足な内容ではありますが。本文中で説明をするのは無粋かな……と思い、さっと流して書きました。
続きの話ですが、前述の「このリ●クの目をもってしても」という状況ですので……プロットは書き始めておりますが、まだ出来ていません。
発表後、またお付き合い頂けたら幸いです。
今、裏で二本くらい進めてまして……一本は他社さん用、もう一本は来月の大賞用なのですが……。
後者のほうを少し宣伝しますと、こんな感じです。
***
俺、ランド・コールは王都で行われた訓練生の最終試験に挑んでいた。
試験内容は、訓練生同士の一騎打ち。神から与えられたと言われている、《スキル》の使用が許可された最初の戦いでもある。
俺の《スキル》は、左手からトゲが出るだけのもの。
そう思っていたし、周囲の評価もそうだった。
「いよう、《トゲ男》……ぶちのめしてやるぜ」
「うるせえ……てめえを砕いてやるから、覚悟しろ!」
《ダブルスキル》のゴガルンとの試合が始まったが……その試合の中で俺の《スキル》が覚醒した。そこまでは良かったんだが……この《スキル》が原因で、俺は王都から追放されてしまった。
辺境に近い村での暮らしにも慣れ、『手伝い屋』を営んでいたある日、俺を王都から追い出すことを提言した、訓練生の同期だったレティシアが、俺の元にやってきた。
領主の騎士団の団長になっていたレティシアは、俺に魔獣の討伐を手伝うよう依頼してきた。
その依頼を受けた俺は、魔獣と戦うことになる――が。
「貴様……妾に――!?」
魔獣に会心の一撃を加えたあと、その場にいたのは、苦しそうに跪いた少女だ。
黒に見えるほどの濃い緑色の髪は、太股まで伸びていそうだ。異国のものらしい、赤、緑、そして白色と重ね着している前合わせの衣服を、銅褐色の太い帯で締めていた。大きな長方形をした袖は、下に垂れている。
この少女と出会ったことで、のんびりとした農村暮らしが、大きく変わっていくことになる――。
「屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです」
●現在執筆中☆
という感じです。現在、ラストの部分とエピローグを残すのみ……ですが、イベントの期間を考えると続編も続きで書きたいところです。
こちらも、どうかよろしくお願い致します(ペコリ
少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。
次回……少しお待たせしますが、よろしくお願い致します!
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