上 下
2 / 20
第1章 海の見える町で深夜に駆ける

第2話 タイヤと潤滑油

しおりを挟む
 造船所の正面玄関を避けて、裏へと回り込むみのり。というのも、この造船所の正面には監視カメラが仕掛けられていた。別に事件でも起きない限り、その映像が見られることは無いが、
(もし今日、泥棒が入ったりしたら、絶対に映像が提出されちゃうもんね……)
 その時、全裸で外をうろちょろしている自分が映っていたらまずい。特にこの造船所を仕切る父にバレたら、本当に困るのだ。
(お父さんの前でだけは、いい子でいたい)
 あるいは、父が自分の性癖を知ってなお、喜んでくれるような変態だったらよかったとも思う。そうしたら大好きなお父さんとセックスしたり、全裸で外にいるところを写真に撮って飾ったりしてもらえたのだろうか。
(いやいや、ないない)
 冷静にそう首を振って、改めて目的地へと向かう。シャッターが閉まった作業所の裏。そこに、みのりの手作り自転車があった。

「お待たせ。Pussycat 07 ピザカッター」

 リカンベントタイプの……しかしギアもチェーンも存在しない自転車。全ての部品が木材などの天然素材から作られているその車体を、みのりは重そうに引きずった。
 ペダルは前輪の横。車軸に直接クランクが付いている。まるでペニーファージングのリカンベント版といった見た目は、まさに大きなピザカッターのようだった。
 そのタイヤは、あまりにも大きすぎる。みのりは身長のわりに脚が長いが、それを加味してもペダルに脚が届かないギリギリくらいだった。
 実はこれ、設計ミスではない。
「わざわざ私の股下に合わせて、クランクを切り出したんだもんねー。……よいしょっと」
 シートに仰向けに寝そべり、ペダルまで脚を伸ばす。すると、股間にタイヤが食い込んだ。ゴムなどを一切使わない木製のタイヤが、みのりのおまんこを筋にそって押し上げる。
(うわっ。結構ぐいぐい来る。こ、このまま回したら、おまんこどうなっちゃうんだろう?)
 どう見ても拷問器具でしかないその自転車に、みのりは怖さ半分、期待半分で胸を高鳴らせる。なんなら、この緊張する時間が一番気持ちいい。これからの痛みを想像すると、神経がそこに集中して、何もされていないのにビクビクと痺れる。
 クリトリスが痛いほど勃起してきた。血管を流れる脈だけで、誰かに触られているみたいな錯覚さえ起きる。
(ま、まずは敷地内で試運転して……あわよくば、公道に出よう)
 そう決めたみのりは、その前に隠しておいた部品を取りに行くため、再び自転車を降りるのだった。

「えっと、ライターと、蝋燭と……」
 この車体に、ヘッドライトなど勿論ついていない。みのりの目指す車体は『100%天然素材』だ。なので、明かりは天然の蝋燭で灯す。真っ赤な和蝋燭だ。
 この自転車のハンドルは、上に長く伸びていた。そこに蝋燭を固定するための紐と台があり、そこに蝋燭を逆さ吊りでぶら下げる。もうお分かりの人も多いだろうが、この状態で点火すると、みのりの胴体に蝋が落ちる。
 せっかくここまで天然素材にこだわっておいて、火をつけるのはガスライターでいいのか?と一瞬考えたが、まあいい事にする。どうやって点火しても火に違いは無いし、自転車さえ天然であれば外部はどうでもいい。
「よーし、行くよー」
 シートに寝そべって、再び車輪に跨る。そしてペダルに足をかけた。ちなみに、このペダルも裸足で踏みやすいように設計されている。麻縄を使った鼻緒を取り付けた木製ペダル。まるで下駄のようである。
 蝋燭に火をつけた時、目を閉じたくなるほどの明かりがついた。
「わっ。わわわわわっ。あ、明るすぎっ!?」
 和蝋燭は温度こそ低いものの、明るさは驚くほど高い。暗闇の中、みのりの裸体と奇妙な自転車だけが、煌々と照らし出される。
 造船所は道路から見れば低い土地に作られている。そのため道路側から見下ろせば、明かりがついているのがよく見えるだろう。逆にみのりからは、道路が見えない。近くを強く照らすろうそくの明かりは、逆に遠くを照らすのに向かなかった。
(ど、どうしよう。いま誰かが私を見てても、私は見られてるのに気づかないんだ。それって、写真を撮られたりしても分からないって事じゃん)
 軽くパニックになるみのり。その胸に、じゅっ……と熱い蝋が垂れる。

「熱っ!?」

 逆さ吊りの蝋燭は、炎の向きも逆になる。つまり、炎が蝋燭本体に当たりやすく、溶けるのが早いのだ。
 いくら西洋蝋燭より若干低温とはいえ、その熱さは一歩間違うと火傷するほどである。そんな雫が何滴も、何十滴も、みのりの乳房に垂れ堕ちる。
「んっ!ああんっ!!」
 ただ熱いというよりは、もっと奥の方に鋭く刺す痛み。まるで針で刺されたか、電流でも通ったような痛みが、肌を超えて奥の方を刺激する。顔料の混じった赤い蝋は、みのりの身体に当たるとすぐに固まった。
「んっ、き、気持ちよくなってきた、かも」
 素肌の上で固まった蝋の上に、また新しい蝋が垂れ堕ちる。するとその熱で、固まっていた蝋も再び溶けて流れていく。その光景は、新しい芸術作品を作り出しているようにも見えた。
「は、はぁんっ!――っく!」
 気持ちが高ぶってきた彼女は、その気持ちよさと痛みに耐えながら、ペダルに力を入れる。足漕ぎ式のペダルが回り出し、車体を進め始めた。
 後輪は小さいが、左右にそれぞれ1輪。要するに3輪タイプなので、転ぶ心配はない。

 木製とはいえ、浅く溝を掘ったタイヤ。それがおまんこを擦り上げる。後ろから前へと、力強く。
「んっ。ダメ……ちから、入んない。ちゃんと漕げないよ」
 ゆっくり確実にペダリングをしようと頑張る。それでも股間への刺激は、思ったより強かった。反射的に脚を閉じてしまいそうになるが、そうすると膝がホイールに当たって、ブレーキがかかってしまう。
(閉じちゃダメ。痛くても、んっ……閉じちゃ、ダメ……)
 膝を曲げた方の脚は大きく開いて、股をおっぴろげる。伸ばした方の脚は、そもそも内側にも外側にも傾けられない。本当に、脚の長さギリギリに合わせて設計した結果だった。
(ペダルの角度によって、ちょっとずつ、当たるところが変わる……んっ。あ、今度は、そんなっ――)
 左側の大陰唇を擦っていた車輪が、今度は右側のそれを擦る。足を入れ替えるタイミングで、たまにクリトリスやフードに直撃する。慣れない姿勢でフォームは定まらず、自分で漕いでても不意打ちをたまに食らう。
 その瞬間が、たまらなく気持ちよかった。

 狙いが定まらないと言えば、蝋燭も揺れ始まり、その狙いが定まらなくなっていた。ただ、落ちる蝋の量と回数は増えている。本体に火が当たるポイントも変わり、どんどん蝋を溶かしているのだ。
「んんんんっ」
 唇や頬に、数滴ほど命中した。それらはすぐに固まり、口を開けるとポロリと割れ落ちる。
 円を描くようにふらふらと揺れる蝋燭は、みのりの身体全体に蝋をばら撒いていく。主にお腹と胸を、遠い所では太ももや腕を、もちろん何にも当たらず地面に落ちる分もあった。
 みのりの身体も振動して、そのたびに乳房が円を描いて回った。そのせいでたまに蝋にひびが入り、そこを補修するようにまた新しい蝋が落ちてくる。
「んやっ!――ちょ、ちょっと、休憩……んっ」
 刺激の強さで動けなくなったみのりが止まる。まだほんの数メートルしか進んでいない。
 ぜぇ、はぁ、と大きく息をする。そのたびに胸が上下して、上に積もった蝋を揺らした。
 たった数メートルとはいえ、ここまでくるのにどれほどの時間がかかっただろう。はっきり言えば、歩くよりずっと遅い。どころか、まともに進む車体でもないようだ。
 休憩とはいえ、車体を軽く揺するのは忘れない。そうやって蝋燭を揺らし続けないと、一か所に蝋が落ちてくる。それはそれで痛いのだ。
 逆に言えば、違う個所に命中するなら、思ったより痛くない。というより、一瞬で済む。冷たい空気はみのりの身体を、そして落ちた蝋をしっかりと冷ましてくれた。だから、思ったほど深い火傷にはならない。なっても表面だけだ。

(ひとまず、今日は最低でも、このまま海まで走ろう。ここから、多分30mくらい……)
 今日の目標として、そう決める。本当なら100mほど離れた浜辺まで行きたかったが、そんな体力と忍耐力はない。何しろ、10mも走らないうちから休憩に入り、走っている時間より休憩時間が長いのだ。
(今、何時だろう?)
 すっかり体内時計も狂っていた。家を出た時はまだ0時だったから、そこから造船所まで歩いて、海に入りながらオナニーした時間を含めて30分……いや、もっとかもしれない。
 その後、少しだけ休憩と……ついでに気絶もしていたはずだ。この気絶の時間がどのくらいなのかによって、今の時間が変わってくる。
(早めに済ませないと。2時くらいになったら、新聞配達の人たちが起きちゃう)
 急いでペダルを踏み込む。もう、痛いとか、気持ち悪いとか、気持ちいいとか、そんなことを言っていられる状態ではない。
 もっとも、頭で分かっていても、
(気持ちいい。ダメっ。い、イクっ!)
 身体は嘘をつけないように出来ているようで、結果として少しも進まないのだが。



 股間がひりひりする。タイヤに粘液を擦り落とされ、大陰唇には擦り傷が付くほど擦られている。明日の授業の時、椅子に座ることさえできないかもしれない。
 胸元は蝋燭で真っ赤に染まり、まるで水着でも着ているようだった。お腹や二の腕も似たようなことになっていて、遠目に見たら全裸に見えないだろう。
 それでも、彼女は諦めずに走った。
「ご、ゴール……」
 息を荒くしたみのりは、海を見てそう宣言する。厳密に言えばあと数メートル残っているが、もう限界だ。
 これ以上の時間をかければ、もしかしたら新聞配達の人が来るかもしれない。田舎なので、そのくらいしか夜に出歩いている人はいないと思うが、逆に言えば新聞だけは毎日来るのだ。
(だいたい、2時になると出社する人が多くなるよね。それから新聞に折り込みチラシとかを挟んで、実際に配達するのが4時ごろから……かな)
 と、自身の経験からそう予想する。ちなみに新聞配達の経験ではなく、その目をくぐって続けた露出散歩の経験からだ。
 繰り返すが、今が何時なのかは分からない。腕時計も付けていないし、スマホも置いてきている。だから、あくまで時間は当て水量なのだが、
(そろそろ試運転を終わっておかないと、道路からこっちを見降ろされたら絶対に見つかるもん)
 そう思って起き上がると……

「……!?」

 道路側から、光が見えた。街灯の光などではない。その証拠に、揺れながら少しずつ近づいてくる。エンジン音はない。
(自転車……ううん。歩行者かもしれない)
 田舎だと街灯もろくにないため、夜に出歩くなら懐中電灯を持つことはそんなに不思議じゃなかった。そうやって夜中にコンビニに行く人と、全裸でバッタリ会ったこともある。みのりが何度か『人生終わった』と思った経験談のうちのひとつだ。
(あの時は優しい人だったから、通報もされなかったけど……みんながそうとは限らないよね。私みたいな変態のせいで、相手を傷つけちゃうかもしれないし)
 慌てて、蝋燭を吹き消す。いくら何でもこの明るさは気づかれるだろう。
(と、とにかく、隠れなきゃ……)
 そう思った時、ライトの角度が変わった。
 みのりのいる場所あたりを、まるで何かを探すかのように動き始めたのだ。



 みのりの体内時計は、実際には大きく間違っていた。この時すでに午前3時。まだ朝と呼ぶには早いが、起きる人は起きてくる時間帯である。
「ふー……この時間は、特に寒いなぁ」
 と、肩を震わせる初老の男性も、早起きして犬の散歩をするのが習慣になっていた。ついでに犬に話しかけるのも癖になっている。もっとも、いつも2時には撤収するみのりが、そんなことを知るはずも無かった。
「ん?おい、キュウ太。あれ何だ?」
 男性が海の方を指さした。それを、キュウ太と呼ばれた犬も見る。
「明かりが点いてる……あれって、森泉造船所だよな?」
 あの小さな造船所が、こんな時間から何かをしていることは珍しい。と、男性は目を見開いた。やや速足で歩み寄ると、道路から造船所を覗き込む。
 その時、ふっと明かりが揺らいで消えた。
「な、何だ?いったい……」
 手元の懐中電灯を使い、造船所の方を照らす。明かりがあったのは海の方だ。そこを重点的に調べてみるのだが、
「……誰もいないな」



「はぁ……はぁ……はぁ……っん!?」
 みのりは、とっさにペダルを漕いで、建物の陰に隠れていた。あまりに衝撃的だったので、思った以上に力を出すことが出来た。
(こ、この自転車、本気で走るとこんなに速いんだぁ)
 と、開発者である彼女自身が驚く。一瞬とはいえ股間への刺激を気にせずペダリングできたのは、怖さのあまり脳内麻薬が放出されたせいか、それとも少し漏らしたのが潤滑油の代わりになったのか。
(……とにかく、見つからなかった、よね?)
 そっと、先ほどまで自分がいたところを見る。すると、懐中電灯はその周辺をくるくると照らしていた。少しでも逃げ遅れたら、全裸のままの姿で発見されてしまったところだろう。
(よかったぁ……んっ。安心したら、おしっこしたくなっちゃった)
 先ほども中途半端に漏らしたばかりだが、そのせいで残りの分まで込み上げてきた。我慢が出来ない。
 屋外で、コンクリートの上である。どうせしたところで、数時間後には乾くだろう。そう考えたみのりは、自転車を降りた。
(おしっこ。おしっこー)
 誰とも知らない相手に見つからなかった事も含めて、安心しきっていた。しかし――



「降りてみるか」
 犬の散歩をしていた男性は、造船所の敷地内へと入っていた。いくつかある小屋や、大きな(と言っても、造船所としては小さな)メインドック。それらの横をすり抜けて、光のあった場所へと向かう。
「こんな時間から仕事とも思えないけどな。もし森泉さんがいるなら、挨拶くらいはしていこうじゃないか」
 ここで男性が言っている『森泉さん』とは、みのりの父親だ。二人は顔見知りであった。もっとも、森泉(父)の顔は広く、この町で彼を知らない人はいない。
「たしか……ここに明かりが点いていたんだよな」
 既に誰もいないし、蝋燭も自転車も回収された後の場所。そこにはコンクリートの地面と、ちょっと向こうには海が見えるだけだった。ただタイヤの跡だけが、まっすぐ小屋の向こうへと伸びている。
「……」
 すん、すん、と犬が鼻を鳴らした。何かを感じ取ったように、小屋に近づこうとする。そのリードがピンと伸びた。
「お、何か見つけたのか?キュウ太」
 その犬に引かれるようにして、飼い主の男性が歩いていく。
 小屋の裏に回り込むと、そこには少女が座っていた。ちゃぶ台ほどの高さの木箱を机代わりにして、その前に正座するように座っている少女だ。
 男性は、その少女の顔に見覚えがあった。

「あれ?みのりちゃんじゃないの」
「ご、ご無沙汰しています。おじさん」
 みのりからしたら、その男性は『顔を見たことはある』程度の知り合いである。父と話しているところを何度か見たが、名前や素性までは知らない。
 そんな男性に名前を憶えられていることは、普段なら怖かっただろう。みのりは元々、これでも人見知りしがちなのである。
 ただ、今はそれどころではない。人間、もっと恥ずかしい事があると、他の緊張など薄れるものだ。処理が追い付かないともいう。
(や、やばい……全裸なのバレた?うにゃぁああ!!)
 顔は作り笑顔を浮かべつつ、頭の中はパニック状態だ。こういうのを『笑うしかない』というのだろうと、みのりは確信した。フル回転しているはずの脳内は現在フリーズ中であり、大したことを考えられない。
 しかし、運命は彼女を見捨てないものである。
「どうしたの?こんなところで……つーか、薄着じゃない?」
「う、薄着、ですか?」
 なにも着ていないんですが――とは言えないが、この初老の男性には馬鹿には見えない魔法の服が見えるらしい。着ているはずのみのり本人には見えない。
「下着みたいな恰好の……なんって言ったっけ?夏に着るやつ」
 男性がそう言った時、みのりは自分の姿がどう映っているのか理解した。
 目の前の木箱(隠れようとしたけど、小さすぎて隠れられなかった)の陰になっているせいで、地べたに座る下半身は見えにくいのだ。そして上半身は、さきほどの蝋燭のせいで真っ赤に染まっている。これが服のように見えるのだろう。
「キャミソールですか?そうですね。キャミソールでも寒くないです。むしろ温かいくらいです。キャミソール!」
 何度も『キャミソール』という単語を出して、男性に暗示をかける。真っ赤な蝋のキャミソールは、男性の懐中電灯に照らされてテカテカと光った。まるでビロードかエナメルのようである。
(お願い。後ろには回り込まないで。この距離と角度でおしゃべりして。そして出来ればすぐに帰ってー!)
 背中はがら空きなのだ。見られるわけにはいかない。

(んっ。こんな時に!?)
 おしっこが我慢できなくなった。というより、我慢しているのに勝手に漏れ出してくる。まるでおしっこの穴を増やされたような気分だ。
(お、音がしないように、そーっと……)
 地べたに座り込んだ姿勢のまま、コンクリートにおまんこを押し当てる。両手で股間を押さえて、そっと放尿……
 温かい液体が、内ももを伝って地面に流れる。それが足やお尻を湿らせていく感触まで、しっかり温かさで分かった。気温の低さと相まって、うっすら湯気が立ち上ってくる。
 だというのに、目の前の男性は気づかないまま、会話を続ける。
「みのりちゃん、こんなところで何してんの?」
「い、いやー。にゃははあ……えっと、そう!スマホです。スマホを造船所に忘れちゃったので、取りに来たところだったんです」
「ああ、それで部屋着のままだったのかい?」
「は、はい。寝る時はいつもこの格好なんですよ。暑がりなので――」
 適当に会話を続けているが、本当は怖い。それでいて、どこかその恐怖に身をゆだねたい願望も湧き上がってくる。
(すごい……興奮する。私、よく知らないおじさんの目の前で、全裸でおしっこしながら喋ってる)
 おしっこは最後の段階になっていた。ちょろちょろと流れ続ける状態から、断続的にぴゅっ、ぴゅっ、と出る状態へ。
(あっ。こ、これ、多分、イっちゃってる!?っん)
 身体にぞくぞくとした感触が流れ、まるで風に触られるように肌が粟立つ。ぺたぺたしていたおしっこは、ねばねばとした別の汁へと変わってしまう。
(おじさんに、イってる姿、見られちゃってる)
 なるべく平静を装いながら、みのりは当たり障りのない話をし続ける。

「くぅーん」
 犬が、みのりの後ろへと回り込んだ。臭いに反応してしまったのか、別な理由があったのかは分からない。
(あ……)
 それを追って、男性もみのりの後ろへと回り込む。
「おい、キュウ太。どうした!?」
(きゃあっ!)
 後ろから見られたら、全裸なのがバレてしまう――

「おいおい。キュウ太。ダメじゃないか。いきなり走り出しちゃ」
 男性は犬を撫でまわした。寒さに耐えるため毛を逆立てた犬は、とてもモフモフしている。
「ん?」
 ふと、男性は今までみのりがいたところを見る。そこに既に彼女の姿は無かった。ただコンクリートの地面に、奇妙な染みだけが残っている。
 ほのかに、若い少女のかぐわしい匂いがした。犬じゃなくても気づくほどの、季節外れの花のような匂い。
「あ、あのっ……」
「んー?」
 物陰から、みのりが呼ぶ声がした。そっちを見てみると、彼女は小屋の陰から、顔だけを出している。
「おお、そっちの方に行ってたのか。みのりちゃん、足が速いんだね」
「は、はい。ちょっとビックリしました」
 犬が怖くて逃げた、ということにしておく。
(おじさんの態度も変わらないし、見られてないのかも……)
 それを確認しないと不安で、こうして逃げた後にわざわざ戻ってきたのである。もっとも、時間にしたら一瞬の出来事で、会話は全く途切れていないが。
「みのりちゃん、犬が嫌いだったっけ?」
「え?……えっと、好きですけど、ちょっと、その、怖かっただけです」
「そっかそっか。ごめんねー。おじさん、そろそろ行くよ。みのりちゃんも気を付けて帰ってね」
「は、はい」
 やっと助かる。そう思ったみのりは、胸をなでおろした。そっと手のひらを胸に当ててみると、そこには蝋燭の蝋の感触……ではなく、しっとりとした素肌が触れ合う感覚がある。手を離すと、むき出しの乳首に風が当たる。
(あ……)
 どうやら、犬から逃げた拍子に、右胸の上に積もっていた蝋を落としたようだ。これではますます、建物の陰から顔だけを出して見送るしかない。

「おや?」
 男性が歩みを止めて、何かを拾った。それは――
(あ、あれ。私の胸から外れた蝋!?)
 男性の手の中に、ギリギリで収まる程度の大きさの球面パーツ。真っ赤な色のそれは、遠目からでも間違いなくそれだと分かった。
「何だろうな?みのりちゃん、これ……」
「あ、たたたた多分、ゴミだと思います。造船所で出たゴミ。ときどきその辺に落ちてるんです」
「ふーん」
 男性はそれをまじまじと見つめた。
「えっと、処分してしまって構いませんよ。その辺に戻しておいてもいいですし……」
「いや、捨てるならちゃんと捨てるよ。燃えるゴミかな。後で捨てておくね」
「は……はい。はい。よ、よろしくお願いします」
「うん。それじゃ、みのりちゃんも元気でね。……ほら、キュウ太。行くぞ?」
 犬はどうしても地面の染みが気になる様子だったが、リードを引かれて渋々ながら飼い主についていった。

(よ、ようやく助かった……今度こそ、本当に、フラグとかじゃなくて)
 助かったと思った時には次の事件に巻き込まれる。今日はそんな夜だった。
 戻って来た静寂に耳を澄ませて、耳たぶが痛くなるほどピンと神経を研ぎ澄ませる。暗闇が戻って来た造船所で、その陰に誰もいないことを目が痛くなるほど確認する。
 今度こそ、周囲には誰もいない。
(はー。もうっ。怖かったじゃないかー)
 誰に対してでもない八つ当たりをした後、そっと自分の胸に手を当てる。反省するためではなく、もう片方の胸に残っている蝋を剥がすためだ。
「んっ」
 痛いのかと思ったが、さほどでもない。抵抗感なく剥がれたそれは、意外と綺麗だった。
(これ、右側を持っていかれちゃったなぁ。別に何に使うわけでもないけど……)
 と、残った左側をまじまじと見る。何度も落ちて固まることを繰り返した大きな蝋は、みのりの乳房をくっきりと映していた。ぷっくりとした乳首も、肌のさらっとした質感も、見事にかたどっている。
「……」
 急に恥ずかしくなって、それを握りつぶした。パキパキと痛快に潰れる蝋は、あっという間に粉々に砕ける。
「どうしよう……あれが私のおっぱいの型だって気づかれたら、恥ずかしいどころの話じゃないよぅ。うにゃあ」
 夜空に独り言を聞いてもらったみのりは、それから周囲を見回して、誰も聞いていないことを確認した。
 本音を言えば、少しだけ――ほんの少しだけだが、誰かに気づいてほしかった気持ちもある。
 本当は、エッチされるだけなら大歓迎なのだ。お父さんに知られたり、学校に通報されたりしなければ――

(とりあえず、海に行こう。そんで、身体に付いた蝋を洗って、それからこの自転車を――公道で、試してみよう)
 まだまだ、この車体の試運転は続く。その前に、まずは本日2度目となる入浴の時間だ。
 冷え切った身体は、だんだん冷たい水を快感に感じてしまっていた。それに誰も来ない桟橋の横の梯子が、安心できる場所のように感じてしまって、動きたくなくなってもいた。
 結局、みのりは思った以上に長く寒中水泳を楽しんでしまい、肌の血色が悪くなるくらいまでオナニーを楽しんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...