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第二章:何気ない出会い
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「あの、すごく美味しかったです。ごちそ
うさまでした」
慇懃な態度でそう言うと、男の子は照れた
顔をして、「お礼とかいいから」と目を逸ら
した。その顔は、よく見ればすっきりと整っ
ていて、短めの前髪が爽やかで似合って
いる。
けれどやはり、自分よりもずいぶん
年下だ。
密かにそんなことを思いながらも、なぜか
二人の会話が途切れたことに満留は焦りを感
じてしまった。だから、こんなことを訊いた
ら可笑しいだろうか?と思いつつ、彼に
訊ねた。
「ここって……お化けが出るって噂あるの
知ってる?」
唐突に、そんな突拍子もない話題を振って
きた満留に、男の子は一瞬目を丸くする。
けれど、ちらりと中庭を見やると、
「ああ」と、小さく頷いた。
「そう言えばそんな話、どっかで聞いたよ
うな気がする」
「やっぱり。けっこう有名な話なんだね。
私もつい最近小耳に挟んだんだけど、こんな
素敵な中庭にそんな噂があるなんて信じられ
なくて……」
タイミングよく、ざわざわと風が葉を揺ら
したので、何となくおどろおどろしい雰囲気
がその場に漂う。満留はその風に肩を竦める
と、ぽつりと呟くように言った。
「でも、信じてなくてもお化けって出ると
きは出るのかな?」
そう思うのは、いま隣にいる男の子がこの
世のものではなかったらどうしよう?という
不安が僅かでも胸にあるからだった。
だから、お化けが出るという噂を話題にし
たわけで……満留はそれとなく彼の足元を盗
み見る。暗がりでよく見えないけれど、どう
やら足はあるようだった。
「さあ、どうだろ……」
満留の呟きに、男の子がぼそりと答える。
そうして、目を伏せると言葉を続けた。
「でも、会えるなら会ってみたいかもな。
幽霊に」
聞こえてきた声が思いのほか寂しげなもの
だったので、満留は何も言えずに男の子の顔
を覗き込む。彼は膝の上で組んだ手を見つめ
ながら、物憂げな表情を浮かべていた。
「実はさ、半年前に婆ちゃんが死んだん
だ。ずっとそこの病院に入院してたんだけど
……だから、見舞いの帰りにここで時間潰し
て帰るのが俺の習慣だった。けど、婆ちゃん
が死んで半年も経つのに、何となく足が向い
ちゃうんだよな、この場所に。幽霊でもいい
から会いたいって気持ちがあるから、ここに
来るのかも」
語られた胸の内は、いまの自分とどこか似
通っていて……満留は何か言ってあげなきゃ
と必死に言葉を探し始める。けれど、悲嘆に
暮れる彼の眼差しを見てしまえば、安易に
慰めの言葉を口にすることが出来なかった。
満留は、「そうだったんだ」と頷くと遠く
を見つめ、自分のことを話し始めた。
うさまでした」
慇懃な態度でそう言うと、男の子は照れた
顔をして、「お礼とかいいから」と目を逸ら
した。その顔は、よく見ればすっきりと整っ
ていて、短めの前髪が爽やかで似合って
いる。
けれどやはり、自分よりもずいぶん
年下だ。
密かにそんなことを思いながらも、なぜか
二人の会話が途切れたことに満留は焦りを感
じてしまった。だから、こんなことを訊いた
ら可笑しいだろうか?と思いつつ、彼に
訊ねた。
「ここって……お化けが出るって噂あるの
知ってる?」
唐突に、そんな突拍子もない話題を振って
きた満留に、男の子は一瞬目を丸くする。
けれど、ちらりと中庭を見やると、
「ああ」と、小さく頷いた。
「そう言えばそんな話、どっかで聞いたよ
うな気がする」
「やっぱり。けっこう有名な話なんだね。
私もつい最近小耳に挟んだんだけど、こんな
素敵な中庭にそんな噂があるなんて信じられ
なくて……」
タイミングよく、ざわざわと風が葉を揺ら
したので、何となくおどろおどろしい雰囲気
がその場に漂う。満留はその風に肩を竦める
と、ぽつりと呟くように言った。
「でも、信じてなくてもお化けって出ると
きは出るのかな?」
そう思うのは、いま隣にいる男の子がこの
世のものではなかったらどうしよう?という
不安が僅かでも胸にあるからだった。
だから、お化けが出るという噂を話題にし
たわけで……満留はそれとなく彼の足元を盗
み見る。暗がりでよく見えないけれど、どう
やら足はあるようだった。
「さあ、どうだろ……」
満留の呟きに、男の子がぼそりと答える。
そうして、目を伏せると言葉を続けた。
「でも、会えるなら会ってみたいかもな。
幽霊に」
聞こえてきた声が思いのほか寂しげなもの
だったので、満留は何も言えずに男の子の顔
を覗き込む。彼は膝の上で組んだ手を見つめ
ながら、物憂げな表情を浮かべていた。
「実はさ、半年前に婆ちゃんが死んだん
だ。ずっとそこの病院に入院してたんだけど
……だから、見舞いの帰りにここで時間潰し
て帰るのが俺の習慣だった。けど、婆ちゃん
が死んで半年も経つのに、何となく足が向い
ちゃうんだよな、この場所に。幽霊でもいい
から会いたいって気持ちがあるから、ここに
来るのかも」
語られた胸の内は、いまの自分とどこか似
通っていて……満留は何か言ってあげなきゃ
と必死に言葉を探し始める。けれど、悲嘆に
暮れる彼の眼差しを見てしまえば、安易に
慰めの言葉を口にすることが出来なかった。
満留は、「そうだったんだ」と頷くと遠く
を見つめ、自分のことを話し始めた。
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