120 / 122
エピローグ
116
しおりを挟む
「具合が悪いところ……そう言えば。しば
らく前から息切れが酷くて気になっていたの。
年のせいだと思っていたのだけど、何か悪い
病気が隠れているのかも知れないわね」
その言葉に男性の顔を覗けば、彼はそれが
正解というように大きく頷いてくれる。
「きっとそれです!ご主人はそのことを小
見山さんに伝えに来たんだと思います」
古都里がそう言うと、何も見えないはずの
小見山は老齢の男性が立つ方向を見て、目を
細めた。
「あなたが守ってくれるような気がして、
ずっとこの指輪を身に付けていたのだけど。
そう……本当に守ってくれていたのね」
ころんとした翡翠の指輪に触れながら、小
見山が笑みを深める。そうして、古都里に向
き直ると、慇懃に頭を下げた。
「教えてくれてありがとう、古都里ちゃん。
まだ、迎えに来るには早いということなんで
しょうね。さっそく明日病院へ行ってみるわ」
古都里が安堵して頷くと、小見山は玄関の
格子戸を開けて帰ってゆく。その後を追うよ
うに玄関を出てゆこうとした男性は、古都里
を振り返ると被っていたハットを外し、頭を
下げた。その所作に慌てて古都里も頭を下げ
れば、男性は笑みを浮かべ、すぅ、と扉の向
こうに消えてゆく。
――良かった。
これできっと、小見山は難を逃れることが
出来るだろう。そう思って息をついた古都里
の耳に、突然、右京の声が飛び込んで来た。
「どうやら、信じてもらえたようだね」
「せっ……右京さん!いつからそこに!?」
今しがた、男性が出て行った玄関と右京と
を見比べる。小見山を見送ろうと彼も下りて
来たのだろうか?もしそうなら、扉の向こう
に消えた男性が、右京に見えていないはずが
なかった。
「人には見えないものが見えたって何も役
に立たない、ってずっと思ってたんですけど。
初めて誰かの役に立てそうです。思い切って、
小見山さんに伝えて良かった」
心底満たされた顔で言えば、右京は「そう
だね」と、やさしく頷いてくれる。
「伝え方も大事なんだ。悪いことや、恐ろ
しいことは信じたくないっていう心理が働い
てしまうからね。黒い人影が見えるとか、死
神が見えるとか、そんなことを言われれば誰
だって恐ろしくて否定したくなる。だけど、
亡くなった家族やご先祖が何かを知らせに来
ていると聞けば恐くはないでしょう?自分を
助けるために伝えに来たと思うだろうからね」
「でも、いままでは本当に黒い人影しか見
えなかったんです。こんな風に、はっきりと
人の姿が見えたのは初めてで……」
「うん。いままで古都里に見えていたアレ
もね、実は死神ではないんだ。その人の身に
迫る危険を知らせに来たご先祖が、古都里に
はそう見えていただけなんだよね。だいたい
が悪いことを知らせに来ることの方が多いか
ら、その姿が黒く見えてしまうんだろうけど。
稀に、その人に憑りつこうとしている悪霊や
道端で命を落とした小動物の魂なんかも黒く
見えるけど、その場合はもっと色が濃いのが
特徴かな」
らく前から息切れが酷くて気になっていたの。
年のせいだと思っていたのだけど、何か悪い
病気が隠れているのかも知れないわね」
その言葉に男性の顔を覗けば、彼はそれが
正解というように大きく頷いてくれる。
「きっとそれです!ご主人はそのことを小
見山さんに伝えに来たんだと思います」
古都里がそう言うと、何も見えないはずの
小見山は老齢の男性が立つ方向を見て、目を
細めた。
「あなたが守ってくれるような気がして、
ずっとこの指輪を身に付けていたのだけど。
そう……本当に守ってくれていたのね」
ころんとした翡翠の指輪に触れながら、小
見山が笑みを深める。そうして、古都里に向
き直ると、慇懃に頭を下げた。
「教えてくれてありがとう、古都里ちゃん。
まだ、迎えに来るには早いということなんで
しょうね。さっそく明日病院へ行ってみるわ」
古都里が安堵して頷くと、小見山は玄関の
格子戸を開けて帰ってゆく。その後を追うよ
うに玄関を出てゆこうとした男性は、古都里
を振り返ると被っていたハットを外し、頭を
下げた。その所作に慌てて古都里も頭を下げ
れば、男性は笑みを浮かべ、すぅ、と扉の向
こうに消えてゆく。
――良かった。
これできっと、小見山は難を逃れることが
出来るだろう。そう思って息をついた古都里
の耳に、突然、右京の声が飛び込んで来た。
「どうやら、信じてもらえたようだね」
「せっ……右京さん!いつからそこに!?」
今しがた、男性が出て行った玄関と右京と
を見比べる。小見山を見送ろうと彼も下りて
来たのだろうか?もしそうなら、扉の向こう
に消えた男性が、右京に見えていないはずが
なかった。
「人には見えないものが見えたって何も役
に立たない、ってずっと思ってたんですけど。
初めて誰かの役に立てそうです。思い切って、
小見山さんに伝えて良かった」
心底満たされた顔で言えば、右京は「そう
だね」と、やさしく頷いてくれる。
「伝え方も大事なんだ。悪いことや、恐ろ
しいことは信じたくないっていう心理が働い
てしまうからね。黒い人影が見えるとか、死
神が見えるとか、そんなことを言われれば誰
だって恐ろしくて否定したくなる。だけど、
亡くなった家族やご先祖が何かを知らせに来
ていると聞けば恐くはないでしょう?自分を
助けるために伝えに来たと思うだろうからね」
「でも、いままでは本当に黒い人影しか見
えなかったんです。こんな風に、はっきりと
人の姿が見えたのは初めてで……」
「うん。いままで古都里に見えていたアレ
もね、実は死神ではないんだ。その人の身に
迫る危険を知らせに来たご先祖が、古都里に
はそう見えていただけなんだよね。だいたい
が悪いことを知らせに来ることの方が多いか
ら、その姿が黒く見えてしまうんだろうけど。
稀に、その人に憑りつこうとしている悪霊や
道端で命を落とした小動物の魂なんかも黒く
見えるけど、その場合はもっと色が濃いのが
特徴かな」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
卑屈令嬢と甘い蜜月
永久保セツナ
キャラ文芸
【全31話(幕間3話あり)・完結まで毎日20:10更新】
葦原コノハ(旧姓:高天原コノハ)は、二言目には「ごめんなさい」が口癖の卑屈令嬢。
妹の悪意で顔に火傷を負い、家族からも「醜い」と冷遇されて生きてきた。
18歳になった誕生日、父親から結婚を強制される。
いわゆる政略結婚であり、しかもその相手は呪われた目――『魔眼』を持っている縁切りの神様だという。
会ってみるとその男、葦原ミコトは白髪で狐面をつけており、異様な雰囲気を持った人物だった。
実家から厄介払いされ、葦原家に嫁入りしたコノハ。
しかしその日から、夫にめちゃくちゃ自己肯定感を上げられる蜜月が始まるのであった――!
「私みたいな女と結婚する羽目になってごめんなさい……」
「私にとって貴女は何者にも代えがたい宝物です。結婚できて幸せです」
「はわ……」
卑屈令嬢が夫との幸せを掴むまでの和風シンデレラストーリー。
表紙絵:かわせかわを 様(@kawawowow)
あやかし神社へようお参りです。
三坂しほ
キャラ文芸
「もしかしたら、何か力になれるかも知れません」。
遠縁の松野三門からそう書かれた手紙が届き、とある理由でふさぎ込んでいた中学三年生の中堂麻は冬休みを彼の元で過ごすことに決める。
三門は「結守さん」と慕われている結守神社の神主で、麻は巫女として神社を手伝うことに。
しかしそこは、月が昇る時刻からは「裏のお社」と呼ばれ、妖たちが参拝に来る神社で……?
妖と人が繰り広げる、心温まる和風ファンタジー。
《他サイトにも掲載しております》
九十九物語
フドワーリ 野土香
キャラ文芸
佐々木百花は社会人2年目の24歳。恋人はなし。仕事に対する情熱もなし。お金もないのにハマってしまったのが、ホストクラブ。
すっかり気に入ってしまった担当――エイジといい気分で自分の誕生日を過ごした百花だったが、エイジがデートしている現場を目撃し撃沈。さらに勤め先の社長が逮捕。人生どん底に。
そんな時、夢で見た椿の木がある古民家にたどり着く。そこは誰でも気が済むまで語ることができる〈物語り屋〉。男女がややこしく絡んで縺れた恋愛話を物語ってきた。
〈物語り屋〉店主の美鈴は、美しくも妖しい掴みどころのない男。話して鬱憤を晴らすだけなら何時間でも何日でも話を聞き、報復を願う場合は相談者の大切な思い出の一日の記憶をもらい請け負っていた。
恋の縺れを解いてくれる?
むしろぐちゃぐちゃにしちゃう?
今、美鈴と百花ふたりの運命が大きく動き出す――。
カクテルBAR記憶堂~あなたの嫌な記憶、お引き取りします~
柚木ゆず
キャラ文芸
――心の中から消してしまいたい、理不尽な辛い記憶はありませんか?――
どこかにある『カクテルBAR記憶堂』という名前の、不思議なお店。そこではパワハラやいじめなどの『嫌な記憶』を消してくれるそうです。
今宵もまた心に傷を抱えた人々が、どこからともなく届いた招待状に導かれて記憶堂を訪ねるのでした――
鬼人の養子になりまして~吾妻ミツバと鬼人の婚約者~
石動なつめ
キャラ文芸
児童養護施設で育ったミツバは鬼人の『祓い屋』我妻家に養子として引き取られる。
吾妻家の家族はツンデレ気味ながら、ミツバの事を大事にしてくれていた。
そうしてその生活にも慣れた頃、義父が不機嫌そうな顔で
「お前と婚約したいという話が来ている」
といった。お相手は同じく鬼人で祓い屋を生業とする十和田家のソウジという少年。
そんな彼が婚約を望んだのは、ミツバが持つ『天秤体質』という特殊な体質がが理由のようで――。
これは恋に興味が無い少女と少年が、面倒で厄介な恋のアレコレに巻き込まれながら、お互いをゆっくりと好きになっていく物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる