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第六章:思い初める

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 そんな古都里の心配を他所に、狐月と雷光
は阿吽の呼吸で箏を車に運び込み、市民会館
へと運搬してしまう。

 古都里が手伝う間もなく、最後の箏を運び
終えて戻って来た狐月は、にぱっ、と笑って、

 「雷光さんのみたらし団子でお茶でもしま
しょうか」

 と、宣ってくれたのだった。






 「いよいよ明日かぁ……」

 しゅるる、と掃除機のコードを本体に回収
して古都里は立ち上がる。明日は朝早くから
延珠に着物を着せてもらい、会場に向かわな
ければならない。

 箏爪が無くなったくだんの件から数日が経つが、
相変わらず塩対応は続いていたものの、これ
といって延珠に変わった様子はなかった。

 もしかしたらほんの悪戯心でやったのかも
知れない。延珠に好かれてはいないだろうけ
ど、そこまで嫌われてはいないのかも。だか
らきっと、延珠は快く着付けをしてくれるだ
ろう。そんなことを思いながら、古都里は掃
除機を手に階段を下りて行った。そして一階
にある納戸に掃除機を仕舞い、戸を閉めた。

 と、その時、古都里さん、と背後から名を
呼ぶ声がした。その声を不思議に思いながら
振り返れば、いつもと変わらぬ着流し姿の右
京が立っている。

 「あれ?先生、もう帰ってきたんですか?」

 腕を組み、悠然と笑みを浮かべている右京
にそう問いかけると、右京は小さく頷いた。

 「思ったより早く話が済んでね。でも照明
の打ち合わせがあるから、またすぐに会場に
向かわなければいけないんだ」

 「そうなんですね。演奏会の準備で忙しい
のに、何もお役に立てなくてすみません」

 普段と何ら変わらぬ生活を送っている自分
に恐縮しながら肩を竦めると、右京は、すぅ、
と目を細めた。

 「そんなことは全然構わないのだけどね。
もし、古都里さんの手が空いているようなら
お願いしたいことがあるのだけど、いいかな」

 「もちろん!わたしにお手伝いできること
なら何でも」

 古都里は生き生きとした表情で頷く。

 思えば右京から頼みごとをされたことなど、
いままで一度もなかったのだ。住み込みで働
きながら箏を習うという名目なのに、これで
はただの居候なのではないかと内心、自分の
存在意義に疑問を感じていた。

 だから右京の役に立てるなら本当に嬉しい。
 古都里は腕まくりでもしたい心持ちで右京
に近づいた。すると、右京は笑みを湛えたま
まで、すっ、と廊下の奥を指差す。古都里は
彼の指の先を見やった。

 「実は、運び忘れてしまった箏があってね。
この廊下の最奥、東側の和室に仕舞ってある
のだけど。それに持ち運び用のレザーカバー
を掛けて玄関に置いておいて欲しいんだ」

 言って手を引っ込めると、右京は窺うよう
に古都里の顔を覗く。廊下の奥を凝視してい
た古都里はゆっくり右京を向くと、戸惑いの
色を露わにした。
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