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第五章:人と妖と
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まだ数回しか指に嵌めていないというのに、
無くしてしまったなどと言ったらきっと右京
に呆れられてしまうに違いない。
「どうしよう。このまま見つからなかった
ら、わたし……」
――先生に嫌われちゃう。
その言葉を呑み込んでまたゴミ箱の中を覗
くと、大丈夫ですよ、と狐月の柔らかな声が
聴こえた。
「もうすぐ銀行から帰ってくると思います
から、右京さまに探していただきましょう。
右京さまの『千里眼』があれば、無くし物を
探すことなど朝駆けの駄賃みたいなものです
から」
「千里眼???」
聞き慣れないその言葉に目を瞬けば、狐月
がにっこりと頷く。
「右京さまは遥か遠くの出来事を見通した
り、隠れたものを探したりすることが出来る
千里眼という能力をお持ちなんです。だから
心配しなくても箏爪はすぐに見つかりますよ」
言って、狐月は丸まったパッケージをポイ
とゴミ箱に捨てる。御霊寄せといい、千里眼
といい、普通の人間にはない特異な能力を右
京はいくつ持ち合わせているのだろう?
類稀なる数々の能力に感心していると、
「ただいま」という声と共に玄関の戸が開き、
狐月は、ととと、と右京の元へ走って行った
のだった。
「洋服のポケットに入れておいた箏爪が、
無くなった」
廊下を歩きながら狐月から話を聞いた右京
は、居間に突っ立っていた古都里を見るなり、
「大丈夫だよ」と朗笑してくれた。
その笑みに、ほぅ、と息を漏らしながらも
古都里は、「すみません」としょげてしまう。
すると、大きく温かな手が、ぽん、と頭に
載せられた。
「何もそんな顔しなくても。物を無くすく
らい誰にでもあることだし、別にダイヤの指
輪を無くしたとかじゃないんだから」
そう言って口角を上げた右京に、それでも
古都里は首を振る。決して高価とは言えなく
ても、あの箏爪は右京が買ってくれた大切な
宝物だ。無くしてしまって悲しくないわけが
ない。しょげたまま俯いている古都里に息を
つくと、さっそく右京は箏爪を探し始めてく
れた。
御霊寄せの時と同様に二本の指を口元に添
え、目を閉じる。そうして聴こえて来たのは
呪文のような経文のような短い言葉。けれど
あの晩の言葉とは明らかに違うそれ。微かに
震える右京の長い睫毛を狐月と共にじっと見
つめていると、やがて彼は静かに目を開けた。
「あった」
そのひと言に古都里は目を見開き、驚嘆の
声を上げる。
「ホントですか!?」
祈るように手を組んで右京の顔を覗き見れ
ば、彼はやや口を引き結びながら頷いた。
「見つかったよ。でも家の中にはないんだ。
靴を履いて西側の庭に行かなくてはね」
そう言って部屋を出てゆこうとする右京に、
古都里は狐月とついてゆく。洋服のポケット
に入れておいたはずの箏爪がどうして庭にあ
るのだろう?その理由をぼんやり考えながら、
古都里はスニーカーに足を通した。
無くしてしまったなどと言ったらきっと右京
に呆れられてしまうに違いない。
「どうしよう。このまま見つからなかった
ら、わたし……」
――先生に嫌われちゃう。
その言葉を呑み込んでまたゴミ箱の中を覗
くと、大丈夫ですよ、と狐月の柔らかな声が
聴こえた。
「もうすぐ銀行から帰ってくると思います
から、右京さまに探していただきましょう。
右京さまの『千里眼』があれば、無くし物を
探すことなど朝駆けの駄賃みたいなものです
から」
「千里眼???」
聞き慣れないその言葉に目を瞬けば、狐月
がにっこりと頷く。
「右京さまは遥か遠くの出来事を見通した
り、隠れたものを探したりすることが出来る
千里眼という能力をお持ちなんです。だから
心配しなくても箏爪はすぐに見つかりますよ」
言って、狐月は丸まったパッケージをポイ
とゴミ箱に捨てる。御霊寄せといい、千里眼
といい、普通の人間にはない特異な能力を右
京はいくつ持ち合わせているのだろう?
類稀なる数々の能力に感心していると、
「ただいま」という声と共に玄関の戸が開き、
狐月は、ととと、と右京の元へ走って行った
のだった。
「洋服のポケットに入れておいた箏爪が、
無くなった」
廊下を歩きながら狐月から話を聞いた右京
は、居間に突っ立っていた古都里を見るなり、
「大丈夫だよ」と朗笑してくれた。
その笑みに、ほぅ、と息を漏らしながらも
古都里は、「すみません」としょげてしまう。
すると、大きく温かな手が、ぽん、と頭に
載せられた。
「何もそんな顔しなくても。物を無くすく
らい誰にでもあることだし、別にダイヤの指
輪を無くしたとかじゃないんだから」
そう言って口角を上げた右京に、それでも
古都里は首を振る。決して高価とは言えなく
ても、あの箏爪は右京が買ってくれた大切な
宝物だ。無くしてしまって悲しくないわけが
ない。しょげたまま俯いている古都里に息を
つくと、さっそく右京は箏爪を探し始めてく
れた。
御霊寄せの時と同様に二本の指を口元に添
え、目を閉じる。そうして聴こえて来たのは
呪文のような経文のような短い言葉。けれど
あの晩の言葉とは明らかに違うそれ。微かに
震える右京の長い睫毛を狐月と共にじっと見
つめていると、やがて彼は静かに目を開けた。
「あった」
そのひと言に古都里は目を見開き、驚嘆の
声を上げる。
「ホントですか!?」
祈るように手を組んで右京の顔を覗き見れ
ば、彼はやや口を引き結びながら頷いた。
「見つかったよ。でも家の中にはないんだ。
靴を履いて西側の庭に行かなくてはね」
そう言って部屋を出てゆこうとする右京に、
古都里は狐月とついてゆく。洋服のポケット
に入れておいたはずの箏爪がどうして庭にあ
るのだろう?その理由をぼんやり考えながら、
古都里はスニーカーに足を通した。
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