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第五章:人と妖と
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しおりを挟む――妖狐、八咫烏、温羅、すねこすり。
ここに集うあやかしたちの正体を知るのは
古都里だけで、もし他のお弟子さんに正体を
知られれば、荒肝を拉ぐことになってしまう
からだろう。
「悪かったな、古都里ちゃん。いきなり見
苦しいところ見せちまって」
ばつが悪そうに言って角を引っ込めると、
雷光はぽりぽりとこめかみを掻いた。
「いいえ、全然」
ほぅ、と胸を撫でおろしつつ古都里は朗笑
する。古都里には妃羽里という姉がいたが、
どちらも穏やかで喧嘩をすることがなかった
のだ。だからまるで本当の家族のように遠慮
なくぶつかり合う彼らが、羨ましくもある。
そんなことを思いながら、大人しくなった
小雨を足元に下ろすと、「はいはい」と右京が
手を叩いた。
「今日はお弟子さんが勢ぞろいするからね。
気を引き締めて、愉しくお手合わせをしよう。
狐月、古都里さんと調弦をお願いできるかな。
飛炎と雷光も、二階に上がって準備を進めて
くれる?延珠は順番待ちの間にお弟子さんが
お団子を食べられるように、お茶の準備を。
小雨は、大人しく犬のフリをしているんだよ」
右京が各々に指示を出す。
犬のフリをしろと言われた小雨だけは恨め
しそうに右京を見上げていたけれど。古都里
は「はい!」と意気込んで頷くと、皆の後に
続き、二階へ上がって行った。
いつもお稽古をする部屋の並びの広い和室
を繋げると、そこは二十四畳もある合同練習
の場となった。古都里は慣れた様子で準備を
進める彼らに倣って、配置された箏に※鳥居
台や桐の譜面台を並べていった。さらに順番
待ちのお弟子さんが座る座布団を壁に沿って
並べてゆく。
「わたしもお手伝いしますよ」
「ありがとうございます。じゃあこれをお
願いします」
次々にやってくるお弟子さんたちも勝手が
わかっていて、テキパキと準備を手伝ってく
れる。やがて時間通りにお弟子さんが勢ぞろ
いすると、部屋の中はちょっとした発表会の
様相となった。小さな子どもを連れた主婦や
学生、親しそうに肩を並べ談笑するおば様た
ち。いずれも女性ばかりだが、明るく和やか
な雰囲気の中でお稽古が始まる。
「全員揃ったようですので、合同練習を始
めさせていただきます。今日と来週の二回で
本番に合わせられるように皆で励みましょう」
「よろしくお願いします!」
右京が挨拶を述べると、一同が揚々と頭を
下げた。やがてプログラムの順番通りに練習
が進んでゆく。古都里が午前の部で弾く『八
千代獅子』は三曲目。二曲目の新曲、『飛躍』
の手合わせが終わると、古都里は弾き終えた
箏と調弦が済んでいる箏を入れ替え、右京が
買ってくれた箏爪を手に所定の席についた。
※箏を支える座奏用の台のこと。
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