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第五章:人と妖と
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「また団子?馬鹿の一つ覚えみたいに毎回
毎回、団子ばっかり持って来て。無理矢理食
べさせられるあたしたちの身にもなってよね」
つっけんどんに言いながら、腰に両手をあ
てながらやって来たのは延珠だ。その隣には、
「姉上ぇ」と眉を寄せた狐月と、足元に小雨。
延珠は古都里の隣に仁王立ちをすると雷光
を睨め上げた。
「だいたい、団子配って歩くのは桃太郎と
相場が決まってるのに、温羅のあんたが団子
配って歩いてりゃ世話ないわ。団子焼くしか
能が無いから、しょうがないけど」
そんな辛辣な嫌味など物ともせずに雷光は、
にぃ、と肩眉を上げる。
「なんだぁ、万年反抗期娘。ホントは俺様
の団子が食いたくて仕方ないくせに、相変わ
らず素直じゃねぇな、おい」
言って、両の拳で延珠の頭をグリグリする。
俗に云う、『梅干し』というヤツだろうか?
けれど延珠は「やめてよ、痛いじゃない!」
と声を上げると着物を捲り上げ、雷光の鳩尾
に蹴りを入れた。
「くっ、やったなぁ!」
その瞬間、雷光の顔が朱く染まり、左右の
髪際辺りに、にうゅっ、と尖った角が生える。
――赤鬼だ。
出会って五分も経たないうちに、温羅の姿
の雷光を目の当たりにした古都里は、二人の
諍いを止めるのも忘れ、ぽかん、と口を開け
てしまった。
「およしなさい、二人とも。古都里さんが
怯えていますよ」
しょうがない人たちですね、とぼやきなが
ら飛炎がやんわりと仲裁する。
が、大男と小娘の小競り合いは止まらない。
おまけに、
「やれ、やるのじゃ温羅!ワシも加勢する
ぞい」
小雨まで煽るように言って、延珠の足元を
くるくると回り出したので、たちまち玄関が
囂々たる場となってしまった。
「あああ、小雨まで。もうすぐお弟子さん
たちが来ますから、しゃべっちゃダメです!
姉上も雷光さんも、やめてくださいってばっ」
狐月が二人の間に入り、飛炎も雷光の腕を
引いて二人を引き剝がす。その剣幕に呆気に
取られていた古都里もようやく我に返り、東
袋を足元に置くと小雨を抱き上げた。
その時、階段の上の方から右京の声が聞こ
えてくる。
「まったく賑やかだね、君たちは」
ゆったりとした声と共に二階から下りて来
ると、右京は腕を組み二人を交互に見やった。
「延珠。着物を捲り上げて足蹴にするなん
て、女の子のすることではないよ。雷光も。
今日は、かほるさんが最後の挨拶に来るとわ
かっているから、いつもより多めに団子を持
って来たんだよね。気持ちがざわつくのはわ
かるけど、演奏会前に足並みを乱すのは感心
しない。さっさと角を引っ込めないと、もう
そこまでお弟子さんが来ているよ」
言って、玄関の格子戸に右京が目をやるの
で、二人ともさっきまでの剣幕が嘘のように
大人しくなる。
毎回、団子ばっかり持って来て。無理矢理食
べさせられるあたしたちの身にもなってよね」
つっけんどんに言いながら、腰に両手をあ
てながらやって来たのは延珠だ。その隣には、
「姉上ぇ」と眉を寄せた狐月と、足元に小雨。
延珠は古都里の隣に仁王立ちをすると雷光
を睨め上げた。
「だいたい、団子配って歩くのは桃太郎と
相場が決まってるのに、温羅のあんたが団子
配って歩いてりゃ世話ないわ。団子焼くしか
能が無いから、しょうがないけど」
そんな辛辣な嫌味など物ともせずに雷光は、
にぃ、と肩眉を上げる。
「なんだぁ、万年反抗期娘。ホントは俺様
の団子が食いたくて仕方ないくせに、相変わ
らず素直じゃねぇな、おい」
言って、両の拳で延珠の頭をグリグリする。
俗に云う、『梅干し』というヤツだろうか?
けれど延珠は「やめてよ、痛いじゃない!」
と声を上げると着物を捲り上げ、雷光の鳩尾
に蹴りを入れた。
「くっ、やったなぁ!」
その瞬間、雷光の顔が朱く染まり、左右の
髪際辺りに、にうゅっ、と尖った角が生える。
――赤鬼だ。
出会って五分も経たないうちに、温羅の姿
の雷光を目の当たりにした古都里は、二人の
諍いを止めるのも忘れ、ぽかん、と口を開け
てしまった。
「およしなさい、二人とも。古都里さんが
怯えていますよ」
しょうがない人たちですね、とぼやきなが
ら飛炎がやんわりと仲裁する。
が、大男と小娘の小競り合いは止まらない。
おまけに、
「やれ、やるのじゃ温羅!ワシも加勢する
ぞい」
小雨まで煽るように言って、延珠の足元を
くるくると回り出したので、たちまち玄関が
囂々たる場となってしまった。
「あああ、小雨まで。もうすぐお弟子さん
たちが来ますから、しゃべっちゃダメです!
姉上も雷光さんも、やめてくださいってばっ」
狐月が二人の間に入り、飛炎も雷光の腕を
引いて二人を引き剝がす。その剣幕に呆気に
取られていた古都里もようやく我に返り、東
袋を足元に置くと小雨を抱き上げた。
その時、階段の上の方から右京の声が聞こ
えてくる。
「まったく賑やかだね、君たちは」
ゆったりとした声と共に二階から下りて来
ると、右京は腕を組み二人を交互に見やった。
「延珠。着物を捲り上げて足蹴にするなん
て、女の子のすることではないよ。雷光も。
今日は、かほるさんが最後の挨拶に来るとわ
かっているから、いつもより多めに団子を持
って来たんだよね。気持ちがざわつくのはわ
かるけど、演奏会前に足並みを乱すのは感心
しない。さっさと角を引っ込めないと、もう
そこまでお弟子さんが来ているよ」
言って、玄関の格子戸に右京が目をやるの
で、二人ともさっきまでの剣幕が嘘のように
大人しくなる。
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