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第四章:遣らずの雨
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しおりを挟む「あのう、先生?」
「ん?」
「あの子、付いてきているようですけど」
「うん、付いて来てるね。どうやら古都里
さんが気に入ったみたいだ」
「ええっ?そうなんでしょうか」
コソコソと、そんなやり取りをしながら数
メートル歩く毎に二人は振り返る。
振り返ると、すねこすりはぴたりと止まる。
また歩き出すと、すねこすりも付いてくる。
そのやり取りを繰り返しているうちに雨は
上がり、ついにすねこすりは数寄屋門の戸を
くぐり、村雨家の玄関の前まで来てしまった。
「家まで付いて来ちゃいましたね」
「そのようだね」
数寄屋門の前にちょこんと座り、そっぽを
向いているすねこすりを見て、二人は顔を見
合わせる。すると、ここまで付いて来てしま
ったものを追い返すもの忍びないと思ったの
か、右京は閉じた番傘を古都里に渡すと、す
ねこすりに近づいた。
「やれやれ。よっぽど古都里さんが気に入
ってしまったようだね。幸いこの家は広いし、
僕との約束を守れるならうちに置いてやらな
いこともないけど」
その言葉に、そっぽを向いていたすねこす
りが右京を向き、ぴょこぴょこと小さな尻尾
を振る。
「約束とはなんじゃ。ワシに申してみろ」
不遜な態度を崩さないまま目を輝かせたす
ねこすりに右京は、すぅ、と目を細めると人
差し指を唇にあてた。
「約束その一。僕たちの前以外では絶対に
喋らないこと。約束その二。お弟子さんの前
では『犬』のふりをすること。もし、君が犬
じゃないことがバレたら大騒ぎになってしま
うからね。お弟子さんがいる時は犬のふりを
して『わん』と鳴くことを約束できるなら、
うちに置いてあげるよ」
「わっ、ワシが犬のふりじゃと!?そんな
畜生と天下のあやかしであるワシを一緒くた
にするとは、無礼にもほどがあるわい」
右京の提案にすねこすりは憤慨し、そう捲
くし立てる。けれど、右京は我意に介さずと
いった顔で「ふうん」と小首を傾げて見せた。
「それじゃあ、仕方ないね。約束できない
ならここには置いてやれないし、金輪際うち
に近づけないように結界を張ってしまうけど、
それでいいかな?」
言って意地悪く口角を上げると、すねこす
りはチラチラと古都里を盗み見ながら「むぅ」
と苦悶の声を漏らす。そのやり取りを見るに
つけ、何だかすねこすりが不憫に思えてしま
った古都里は、番傘を玄関に立てかけると、
二人の傍にしゃがみ込んだ。
「何も無理に『わん』って鳴く必要はない
んじゃないかな。あまり吠えない犬だってい
るのだし、お弟子さんに訊かれたら『犬』で
すよ、ってわたしたちが答えればいいのだし。
ねぇ、先生?」
窺うように古都里が顔を覗くと、右京は口
をへの字にして、「まあねぇ」と頷く。
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