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第四章:遣らずの雨
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しおりを挟むところが、すねこすりは大人しく古都里に
体を拭かれていたかと思うと、突然、ぶるぶ
ると犬のように体を震わせ、水しぶきを飛ば
した。
「きゃっ!」
しぶきが顔にかかり、古都里は咄嗟に手で
顔を覆う。すねこすりはその様子に、つん、
とそっぽを向くと拗ねたような口調で言った。
「これでもワシはあやかしじゃぞ。ハンカ
チ一つで小娘に絆されるほど安くはないわい。
やさしくするフリしたって、この道は通して
やらんからな」
自尊心を傷つけてしまったのだろうか?
古都里はすねこすりの態度に肩を竦めると、
素直に詫びの言葉を述べた。
「別に、そういうつもりじゃなかったんだ
けど。でも気分を害しちゃったならごめんね」
「謝ったって通してやらんぞ」
いっそう、つん、と顎を逸らしてしまった
すねこすりに眉を寄せると、古都里は助けを
求めるように右京を覗き見る。
その視線を受け止め、右京は苦笑した。
雨はぽつぽつとアスファルトを濡らしてい
たけれど、先ほどより小降りになっている。
鈍色の雲は風に流れ、その雲の向こうから
淡い光が射し始めていた。
「申し訳ないけど、僕たちは先を急いでる
んだ。夕方までに戻らないとお弟子さんが来
てしまうからね。それでも彼女の邪魔をする
というなら、僕にも考えがあるけど」
そう言って右京が立ちあがると、すねこす
りは、びくぅ、と体を震わせる。その怯えよ
うに右京は目を細めると、いつもと違う口調
で凄みを効かせた。
「儂が何者か、わかっておるのじゃろう?
口で言って聞かぬなら、ちぃと灸を据えねば
ならんが」
言葉と共に、きらりと右京の瞳が黄金色に
輝く。すねこすりはガタガタと震えながら後
退りすると、俗に云う『捨て台詞』というも
のを吐いた。
「わわわわ、わかった。今日のところは仕
方ないから見逃してやるわい。じゃが、次は
絶対に通してやらんからな」
すっかり縮こまってしまったあやかしに嫣
然と笑みを浮かべると、右京は古都里に肘を
差し出す。
「さっ、行こうか。古都里さん」
「はっ、はい」
一瞬、垣間見えた大妖怪、天狐の迫力に目
をぱちくりすると、古都里は抗うことなく彼
の腕に手を絡めた。
そうして、二人で番傘を差して歩き出す。
人通りのない路地を進みながら、それでも
雨の中に置き去りにしたすねこすりが気にな
って振り向けば、彼は素知らぬ顔をしながら、
トコトコとついて来ていた。
その挙動はまるで『だるまさんがころんだ』
をしているようで……古都里が振り返るたび
にぴたりと歩みを止めるすねこすりを見て、
古都里は肩を竦める。
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