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第四章:遣らずの雨
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「そのためにここに来たのだから、ぴったり
指に合う箏爪と気に入った爪入れを選んで。何
ならプレゼント用にラッピングをしてもらうこ
とも出来るけど?」
言って飛炎に視線を向けると「もちろん」
と、飛炎が目を細める。そのやり取りに古都里
が慌てて「いえっ、自宅用で!」と身を乗り出
したので、二人は顔を見合わせて笑った。
爪輪はそれぞれ四号から十八号までサイズが
あり、その中から三本の指に合うものを見つけ
てゆく。古都里は三色の爪輪から黒いエナメル
のものを選ぶと、それぞれ、親指、人差し指、
中指にしっくりくるサイズを探した。
「どうやら九号から十一号のサイズが一番合
うようですね。これで良ければ爪を差し込みま
すけど、宜しいですか?」
「はい。これでよろしくお願いします」
指に嵌めていた爪輪を外して飛炎に渡す。
それを受け取ると、飛炎はテーブルに置いて
あったカッターで爪輪に切れ目を入れ、そこに
象牙で作られた四角い箏爪を差し込んだ。絶滅
危惧種である象の牙を使うのは申し訳ない気も
するけれど、やはり象牙は絃との相性がいい
し、音の鳴り方も違う気がする。透明の接着剤
で爪を固定し、それが乾くと、飛炎は真新しく
尖った爪角が絃を傷つけてしまわないように
鑢をかけてくれた。
古都里はその様子をにこにこしながらじっと
見守る。自分用に誂えた箏爪を嵌めて、演奏会
に出られると思うと嬉しくてしょうがない。
さっそく、今夜からこの箏爪を嵌めて練習
しよう。そんなことを思っていると、まもな
く、出来上がった箏爪が掌に載せられた。
「完成しましたよ。嵌めてみてください」
「ありがとうございます!」
満面の笑みで頷くと、古都里は三本の指に
そうっと箏爪を嵌めてみた。黒くつやつやし
たエナメルの爪輪に、やや灰がかった淡い黄
色の爪がしっかりと固定されている。
古都里は真新しい箏爪を眺め、ほぅ、と息
を漏らすと顔の前に手をかざし、笑みを湛え
たまま右京に訊いた。
「先生、どうですか。似合ってますか??」
子どものようにはしゃいでいる古都里に、
右京は、ぷっ、と可笑しそうに笑いながら頷
いてくれる。
「似合ってる、っていう表現が正しいかは
わからないけど。うん……よく似合ってるよ。
こんなに喜んでくれるなら、もっと早くに連
れくれば良かったかな。あ、それを仕舞うケ
ースも選ばないといけないね。巾着でもどち
らでも構わないけど」
そう言って飛炎に目配せをすると、飛炎は
すっと立ち上がり古都里を手招きした。
「巾着でもケースでも、たくさん取り揃え
ておりますので好きなものを選んでください」
カウンター横の陳列棚に並ぶ小物コーナー
に、古都里を連れて行ってくれる。
「うわぁ、可愛い。たくさんあって迷っち
ゃいそう」
籐のカゴに並べられた色とりどりの可愛ら
しい巾着や小物入れに目を輝かせると、古都
里はいくつか手に取って悩み、一番初めに目
に留まった錦の柄のケースに決めたのだった。
指に合う箏爪と気に入った爪入れを選んで。何
ならプレゼント用にラッピングをしてもらうこ
とも出来るけど?」
言って飛炎に視線を向けると「もちろん」
と、飛炎が目を細める。そのやり取りに古都里
が慌てて「いえっ、自宅用で!」と身を乗り出
したので、二人は顔を見合わせて笑った。
爪輪はそれぞれ四号から十八号までサイズが
あり、その中から三本の指に合うものを見つけ
てゆく。古都里は三色の爪輪から黒いエナメル
のものを選ぶと、それぞれ、親指、人差し指、
中指にしっくりくるサイズを探した。
「どうやら九号から十一号のサイズが一番合
うようですね。これで良ければ爪を差し込みま
すけど、宜しいですか?」
「はい。これでよろしくお願いします」
指に嵌めていた爪輪を外して飛炎に渡す。
それを受け取ると、飛炎はテーブルに置いて
あったカッターで爪輪に切れ目を入れ、そこに
象牙で作られた四角い箏爪を差し込んだ。絶滅
危惧種である象の牙を使うのは申し訳ない気も
するけれど、やはり象牙は絃との相性がいい
し、音の鳴り方も違う気がする。透明の接着剤
で爪を固定し、それが乾くと、飛炎は真新しく
尖った爪角が絃を傷つけてしまわないように
鑢をかけてくれた。
古都里はその様子をにこにこしながらじっと
見守る。自分用に誂えた箏爪を嵌めて、演奏会
に出られると思うと嬉しくてしょうがない。
さっそく、今夜からこの箏爪を嵌めて練習
しよう。そんなことを思っていると、まもな
く、出来上がった箏爪が掌に載せられた。
「完成しましたよ。嵌めてみてください」
「ありがとうございます!」
満面の笑みで頷くと、古都里は三本の指に
そうっと箏爪を嵌めてみた。黒くつやつやし
たエナメルの爪輪に、やや灰がかった淡い黄
色の爪がしっかりと固定されている。
古都里は真新しい箏爪を眺め、ほぅ、と息
を漏らすと顔の前に手をかざし、笑みを湛え
たまま右京に訊いた。
「先生、どうですか。似合ってますか??」
子どものようにはしゃいでいる古都里に、
右京は、ぷっ、と可笑しそうに笑いながら頷
いてくれる。
「似合ってる、っていう表現が正しいかは
わからないけど。うん……よく似合ってるよ。
こんなに喜んでくれるなら、もっと早くに連
れくれば良かったかな。あ、それを仕舞うケ
ースも選ばないといけないね。巾着でもどち
らでも構わないけど」
そう言って飛炎に目配せをすると、飛炎は
すっと立ち上がり古都里を手招きした。
「巾着でもケースでも、たくさん取り揃え
ておりますので好きなものを選んでください」
カウンター横の陳列棚に並ぶ小物コーナー
に、古都里を連れて行ってくれる。
「うわぁ、可愛い。たくさんあって迷っち
ゃいそう」
籐のカゴに並べられた色とりどりの可愛ら
しい巾着や小物入れに目を輝かせると、古都
里はいくつか手に取って悩み、一番初めに目
に留まった錦の柄のケースに決めたのだった。
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