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第四章:遣らずの雨

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 その疑問を言外に込めると、飛炎は胸に手
をあてて古都里に一礼した。

 「では改めて自己紹介を。八咫烏やたがらすの飛炎と
申します。いまは人の姿を借りておりますが、
右京さんと同じく、わたしは人とは違うあや
かしと呼ばれる種族です」

 「……八咫烏、さん」


――言われてみれば。


 と、全身黒づくめの飛炎を見つめ呟く。
 烏と聞くとカァカァ鳴きながら電線に止ま
っている不気味な姿しか想像できないけれど。
飛炎からは神威と呼べるような、そんな神々
しい空気さえ感じられる。

 突然正体を明かされ、現実感がないままに
茫洋としていると、飛炎はくすくすと笑みを
零しながら言った。

 「何だか狐につままれたような顔をしてい
ますね。残念ながら、ここであやかしの姿に
戻ると店を破壊してしまうので本当の姿をお
見せすることは出来ませんが……それはまた
機会があった時にでも。それはそうと先ほど
の質問の件ですが。まず『天狐』というのは
古都里さんの隣にいる、右京さんのことです」

 そう言って飛炎が掌を右京に差し伸べるの
で、古都里は弾かれたように右京を見上げる。

 右京もちらりと古都里を見て小首を傾げた。
 照れているように見えるのは、気のせいだ
ろうか?古都里は『天狐』の意味すらわから
ないまま視線を飛炎へと戻すと、「そうなん
ですね」と、頷いた。

 「『天狐』というのは妖狐のなかで最上位と
される、霊力を得たあやかしのことなんです。
その天狐である右京さんが箏曲の会を立ち上
げ、『天狐の森』と名付けた理由。それはさま
ざまな異類が共存する『森』のように、この
箏曲の会を人とあやかしが共存する豊かな会
にしたいという想いがあったからなんです。
森には哺乳類、鳥類、昆虫類など、多種多様
な生物が共存していますよね。同じように、
わたしたちも、この会を通じて人とあやかし
が異類という壁を越えて共に過ごせればと思
い、『天狐の森』と名付けたわけです」

 「なるほど。そんな崇高な想いがあって、
この名前が付けられたんですね。あれっ?
でもお弟子さんたちは皆、先生や飛炎さん
があやかしだということは知りませんよね?」

 ふとそのことに思い至り、古都里は人差
し指を口元にあて、小首を傾げる。すると、
沈黙を守っていた右京が、腕を組み頷いた。

 「いまのところはね。僕としては正体を
明かして人とあやかしがこの世に共にある
ことを伝えたいのだけど、それはリスクが
大きすぎるんだ。古くから人はあやかしを
災害や厄災の元凶として忌み嫌ってきた歴
史があるから、『実はあやかしです』なんて
打ち明けたところで恐れず受けれてくれる
人は、少ない。特に日本人は自分たちと異
なる存在を異端視するという傾向が強いし、
そう簡単には本性を明かせないんだ」
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感想 3

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