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第四章:遣らずの雨

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 こうして右京がやさしくしてくれる度に古
都里はどんな顔をしていいかわからなくなり、
何も意味がないならやさしくされても困るな、
などと……心の片隅で考えてしまっていた。

 だから、ひやりとした右京の指が瞼に触れ
た瞬間、古都里は顔を伏せ、右京の手を自分
から剥がしてしまう。そして、ぎこちない笑
みを浮かべると、目の前で心配そうに顔を覗
き込んでいる右京に言った。

 「熱なんてないですよ。ちょっと朝ごはん
食べ過ぎちゃって、ぼんやりしてしまっただ
けなので」

 下手な嘘を見透かされてしまいそうで目を
逸らした古都里に、右京は「それならいいけ
ど」と言って、ぽん、と大きな掌を頭に載せ
てくれる。その手に、きゅっと胸が苦しくな
って顔を上げると、やさしい眼差しが古都里
を待っていた。

 「午前のお稽古が終わったら夕方まで少し
時間があるから、古都里さんの新しい箏爪を
買いに出掛けようか?」

 「えっ、わたしの箏爪ですか?」

 唐突に、そんなことを言い出した右京に、
古都里は目を丸くする。そう言えば、いま指
に嵌まっている箏爪は、右京から借りた練習
用のものだった。

 「そう。合同練習も始まるし、演奏会にも
出るのだし、いつまでもプラスチックの箏爪
を使っているわけにいかないでしょう?練習
を頑張ったご褒美に僕からプレゼントするよ。
お昼を食べ終わったら、散歩がてら二人で和
楽器店に行こう」

 「そっ、そんなの悪いです!買うならわた
しが自分でっ」

 「そんなつまらない遠慮することないよ。
古都里さんが来てくれたお陰で、狐月も延珠
も助かっているのだし、そのお礼も兼ねたご
褒美だから、プレゼントには安いくらいだけ
ど。それに和楽器店の店主はね、僕の馴染み
で尺八の奏者でもあるんだ。だから、一足先
に顔合わせ。さ、もう一度初めから弾いてみ
ようか。僕が第二箏を弾くから、互いの呼吸
を合わせられるように意識してみて」

 そう言って、自分の席に戻っていってしま
った右京に、古都里は仕方なく頷く。そして、
右京のやさしさにまた戸惑いながらも、二人
で出掛けるというシチュエーションに、密か
にときめいてしまったのだった。






 延珠が作ってくれたきつねうどんを食べ終
えると、古都里は右京と共に家を出た。

 「雨、降ってきちゃうでしょうか?」

 倉敷駅と歴史的建造物群保存地区とを結ぶ
メインロード、倉敷中央通りを歩きながら曇
天の空を見上げる。朝は陽射しが差していた
というのに、お昼を過ぎたくらいからもくも
くと鈍色の雲が出てきて、いまは太陽を覆い
隠している。

 「どうだろう?まだ風はそんなに吹いてい
ないし、帰って来るまでもちそうだけどね」

 空に掌をかざし、右京が小首を傾げる。
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