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第二章:蒼穹のひばり
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しおりを挟む本当はこのまま右京の提案にのってしまい
たい。そう思うのに、母と姉の顔が頭に浮か
んで消えない。自分だけが悲しみから逃げて、
愉しく生きてしまっていいのだろうか?
二人がもう弾くことのない箏に触れ、その
悦びを享受してしまってもいいのだろうか?
そう思い悩み、返事が出来なかった古都里
の耳に穏やかな声が届く。
「お姉さんが亡くなったことで、古都里さ
んはなぜか自分の人生を生きることに躊躇い
を感じているようですが、多くの場合、遺さ
れた者が幸せに生きている姿を見て、この世
を去った者は安心するんです。そろそろ一歩
前に踏み出してはどうですか?いまがその
チャンスだと思いますよ」
その言葉に、はっと顔を上げれば、全てを
悟ったような眼差しが自分を待っていた。古
都里は、つん、と鼻先が痛むのを感じながら、
いまがチャンスと言った右京に頷いた。
「わかりました。ここでお箏を習えるよう
に、母を説得してみます。家から近いのに何
で家を出る必要があるのか、って怒られそう
ですけど」
「ふむ。ですがこの家に住んでくれた方が、
昼夜好きな時間に僕が教えられるんですよね。
お弟子さんが多いので朝は十時、夜は八時ま
でお稽古が入ってるんですけど、それ以外の
時間は自由に箏に触れてもらって構わないし」
そう言って、ちろりと横目で古都里を見た
右京に、古都里は目を輝かせる。お稽古が入
っていない時間に、好きなだけ箏に触れられ
るなんて夢のようだ。
「わたしここで働きます!働きながら先生
にお箏を教わります。頑張って母を説得する
ので待っててくださいね」
手にしていた譜面を握りしめ、そう言った
古都里の目は生き生きとしていて、目の前の
大師範が、実はあやかし狐なのだという事実
をすっかり忘れていたのだった。
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