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第二章:蒼穹のひばり
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しおりを挟む古都里の反応が可笑しかったのだろうか?
ふっ、と吹き出したかと思うと、右京はよ
うやく古都里の手を放してくれた。
「すみません。あなたの反応があまりに可
愛くて、つい。他のお弟子さんの手を解して
あげることもありますよ。習い始めは皆さん、
指先が硬くなってしまうので緊張を解してあ
げるつもりで、ちょっとだけね」
「そ、そうなんですね。すみません、変に
意識しちゃって」
「いえ。セクハラになりますと言われれば
もう触りませんので。でも少し手が動き易く
なった気がしませんか?もう一度弾いてみま
しょうか。今日のところはそれで切り上げて、
少しだけ入会の説明をさせてください」
「わかりました」
入会という単語にぎくりとしてしまったが、
それは気付かれなかったらしい。姿勢を正し
て箏に向かい再び曲を弾き始めると、右京は
弦の上を滑る古都里の手を、時折り頷きなが
らじっと見つめていた。
お試しのお稽古を終えると、古都里はすっ
かり冷たくなった緑茶を啜りながら、先ほど
の応接の間で右京の話を聞いた。
「うちは週に二回。お弟子さんの都合の良
い日にお稽古の予約を入れてもらって、毎月
のスケジュールを組むんです。定期演奏会が
年に三回あるので、その月は合同練習も入る
から週に三回。その費用が追加になることは
ありません。入会金も頂かないので初期費用
は、お月謝と箏爪の費用くらいでしょうか」
「お弟子さんは何人くらいいらっしゃるん
ですか?それと、お月謝のお値段は……」
決して、入会すると決めた訳ではないのだ
けれど、何にも質問しないというのも本心が
透けて見えてしまう気がして、古都里は質問
する。定期演奏会のある月は週に三回となる
と、この箏曲の会はかなり練習に力を入れて
いるのかも知れない。
「うちの会に所属する会員さんは三十七人
です。もうすぐ一人辞めてしまうので減りま
すけど。お月謝は一万六千円。封筒をお渡し
しますので月末までに翌月分をお願いしてい
るんです」
「一万六千円……月に八回お稽古出来てそ
のお値段は、凄く安いですね」
古都里は人差し指を口元にあてて、小首を
傾げる。月に八回お稽古出来て一万六千円な
ら一回二千円ということだ。自分は母に習っ
ていたからお月謝は必要なかったけれど……
一般的な相場よりかなり良心的な金額設定の
ような気がする。習い事の定番として人気の
あるピアノに比べ、箏は何となく敷居が高く、
縁遠い和楽器として距離を置かれがちだけど、
それなりに会員数がいるのはお稽古代が手頃
という理由もあるのだろう。もっとも、いま
の古都里にとってはその金額さえも安いとは
言い難いのだけれど。
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