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第二章:蒼穹のひばり

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――シャーン、シャーン、シャン、ツテツ♪


 緊張した面持ちで座っていた古都里の耳に、
格調高い箏の音が響き始める。続けて、かほ
るの伸びやかな歌声。


――散りむる桐の一葉におのずから~♪


 和室の空気を凛とした箏の音と清新な歌声
が揺らす。幼い頃から慣れ親しんできた箏の
音は、やはり聴いているだけで心が安らぎ、
無意識のうちに口元が綻んだ。古都里は目を
閉じて静かに箏の音に耳を傾けると、曲の終
わりと共に細やかな拍手を送った。

 かほるが僅かに肩を竦め、古都里に面映ゆ
い表情を向ける。やはり、ギャラリーがいる
だけでいつもと勝手が違うのか、ほっとした
ように息をついている。それからは、右京と
かほるが揃って箏を弾いた。同じ曲を何度か
繰り返し、気になる部分を右京が手本に弾き
聴かせながら、一時間のお稽古が終わった。

 「今日はここまでにしましょう。転調して
後歌に入る部分も滑らかに弾けていますし、
次のお稽古を最後に修得ということで」

 「はい。ありがとうございました」

 指から爪を外し、錦織の小さな巾着にしま
うと、かほるは頭を下げる。身動き一つせず
箏に聴き入っていた古都里は、緊張が解れた
瞬間に長く息を吐き出した。その古都里に気
付き、右京が目を細める。

 「どうでしたか?お稽古の様子は」

 「はい、とても充実していました。子ども
の頃は一時間がとても長く感じていた記憶が
あるんですけど、今日はあっという間に終わ
ってしまったという感じです。終始和やかな
雰囲気の中でやさしく、でも的確に、丁寧に
先生がご指導してくださるんだなぁ、と……」

 感じたことを、感じたままにそう述べると
右京は満足そうに笑みを深めた。

 「僕の指導が的確かどうかはわかりません
が、緊張せずに楽しく弾いてもらった方が早
く身に着くと思っているので、厳しいことを
言うことはありませんよ。ねぇ?清水さん」

 右京に同意を求められ、かほるは、ふふっ、
と頷く。

 「はい。いままで先生が厳しいと思ったこ
とは一度も。ゆったりと愉しみながら、お稽
古の度に箏の音に心が洗われるので、わたし
はストレス解消になってるんですよ」

 「へぇ、お稽古がストレス解消に」

 箏の音にヒーリング効果があるのだろうか。
 好きな箏を弾きながら、その音に耳を傾けて
いるのだから自然に癒されるのかも知れない。

 どちらかと言うと古都里の母は厳しい方だ
ったから、お稽古でストレス解消できること
はなかったけれど。ひとしきりそんな会話を
終えると、かほるは

 「じゃあ、また会えるのを楽しみにしてい
ますね」

 などと云うひと言を古都里に残して、部屋
を出て行った。入会するなんて決めて
いないのに、参ったなぁ……と密かに思って
いた古都里の耳に、「さて」と右京の声が
届く。
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