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第二章:蒼穹のひばり
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しおりを挟む「お茶をお持ちしました」
目を伏せたままで言って、女の子が漆器の
茶托を古都里の前に置く。長い廊下を歩いて
来たはずなのに、古都里はまったく気配を感
じなかった。
「あ、ありがとうございます」
背筋を伸ばして礼を述べると、右京は女の
子の顔を覗いて言った。
「この子が、さっきお話した狐月のお姉さ
んで、僕の姪っ子なんです。こちらは見学に
いらした笹貫古都里さん。ほら、ご挨拶して」
「狐月の姉の、延珠と申します。以後、お
見知り置きを」
そう言ってぺこりと頭を下げた女の子は、
中学一、二年くらいに見えた。が、慇懃な
振る舞いのせいか、かなり落ち着いて見える。
長い睫毛で覆われた猫科の目は古都里を
捉えることなくそっぽを向いていて、お団子
ヘアが自分と似ているな、と思ったけれどそ
れを口に出来る雰囲気ではなかった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぎこちなく笑みを返すと、その子は一度じ
っと古都里の顔を見て、くるりと踵を返して
しまう。その態度に少々驚いて右京を見ると、
彼はやれやれと言いたげに肩を竦めた。
「申し訳ない。反抗期のせいか、どうにも
扱いが難しくてね。僕も困っているんです」
「……ああ、反抗期」
そういうことなら、自分に何か落ち度があ
った訳ではないのだろうと思い、古都里は胸
を撫でおろす。今日を最後に二度と顔を合わ
せることはないかも知れないけれど……。
そんなことを思って、なぜかモヤっとして
しまった自分に古都里は戸惑っていた。
その時、階下から微かに「ピンポーン」と
インターホンが聴こえ、続けて「はーい」と
狐月の声が二人の耳に届く。
「どうやら、お弟子さんが来たみたいです
ね。お稽古部屋の方に移動しましょうか」
「はい。あっ……えっと、お茶は」
立ち上がってそう言った右京に、古都里は
おたおたしてしまう。延珠が持って来てくれ
たお茶は熱々で、とても口にすることは出来
なかった。その様子にくすりと白い歯を見せ
ると、右京は古都里の茶を手に持ってくれる。
「お茶はゆっくりお稽古を聴きながらどう
ぞ。時間はたっぷりあるので」
「ありがとうございます」
茶托を手に、すらりと和室の障子を開けて
右京が入ってゆく。古都里はどきどきと、先
ほどとは違う胸の高鳴りを感じながら部屋に
足を踏み入れた。
お稽古部屋に入ると、古都里は懐かしさに
大きくひとつ息を吸い込んだ。八畳ほどの和
室はふわりと木の匂いがして、障子の向こう
からは柔らかな陽が射し込んでいる。
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