上 下
85 / 111
第五章:薄明の中で

84

しおりを挟む
 (わたしも、純のお嫁さんになりたい。
だから、プロポーズしてくれて、すごく
嬉しかった。目が見えなくても、大丈夫。
わたしたちは、きっと、大丈夫)



-----彼女の言葉は、指文字だった。



 一文字ずつ、形作った指文字を僕の手に
触れさせ、想いを伝えてゆく。僕は、暗闇
の中で彼女の言葉を拾い、ヘレン・ケラー
女史とサリバン先生がそうしたように、彼女
の一語一句を受け取った。

 それは、目が見えなくても、耳が聞こえ
なくても、想いは伝えられるのだという、
彼女のメッセージだった。

 僕はゆっくりと目を開き、彼女を見つめた。
 白いアーチの下で、彼女が微笑んでいる。
 その眼差しは、愛しているのだと、言葉
以上に語っていた。

 「ありがとう、弥凪」

 僕はそう口にすると、鞄から取り出した
指輪を、彼女の薬指に嵌めた。
 ほんの少し、サイズが大きかったらしい
指輪が、彼女の左手を飾る。やはり、驚いた
ように彼女はその指輪を見つめたが、まもな
く破顔した。

 (ありがとう。すごく、キレイ)

 陽光を浴びた白とピンクのダイヤが、
きらきらと永遠の光を放っている。

 顔の前に手をかざし、その輝きを見つめる
弥凪はとても嬉しそうで、僕は満足げに目を
細めた。



-----その時だった。



 斜め後ろからパチパチと手を叩く音がして、
僕は振り返った。

 「……?」

 不思議に思いその音の主を見れば、園内を
散歩していたらしい老夫婦が、僕たちに拍手
を送ってくれている。

 「お幸せにね」

 にこやかな笑みを浮かべ、お婆さんがそう
口にすると、周囲を歩いていた他の人たちも、
足を止め、僕たちに拍手を送ってくれた。

 「おめでとう」

 「お幸せに!」

 僕たちは顔を見合わせると、彼らを向き、
恥じらいながら頭を下げた。僕はガリガリと
頭を掻き、弥凪の頬は赤く染まっている。

 まさか、こんな祝福を受けられるとは……

 この場所を選んだときは思いも寄らなかった
けれど、思いも寄らないことばかり起こるの
が、人生なのかも知れない。

 僕たちは手を繋ぎ、もう一度頭を下げると、
肩を竦め、二人で笑い合ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

水義士

風波瞬雷
歴史・時代
織田・豊臣・徳川と深く関わりを持ち、生涯最後まで義と希望を捨てなかった水軍の将・屋舗忠信の生涯の物語。

もう「友達」なんかじゃいられない。

らぉん
BL
「憧れ」があるから、「今」がある_。 学校の頃から仲の良い、バスケ部でかつて憧れを抱いた斎藤に振り向いてほしい土谷陽真(つちたにはるま)と、同じくバスケ部で自分にBL展開なんて望んでもない斎藤亜紀(さいとうあき)は友達であり、部活の良きライバル。亜紀はうざ絡みしてくる陽真が嫌いだった。しかし、県大会を境に斎藤は陽真に惹かれ、恋心を抱いていく。でも好きな人が「あいつ」と被ってしまって…!?「ハイスペックなイケメン攻め」×「可愛い系執着受け」の2つの視点から同じ時系列で読む青春&部活BL!

貴方は好きになさればよろしいのです。

cyaru
恋愛
王妃となるべく育てられたティナベル。 第1王子エドゥアールとは成婚の儀を待つのみとなっていたが、そこに異世界からエリカという少女がやって来た。 エドゥアールはエリカに心を奪われてしまう。 しかしエリカには王妃という大役は難しく、側妃とするにも側妃制度はない。 恋愛感情のない結婚であっても寵愛を向ける女性がいると判っていて自分の人生を捧げる事は出来ない。エリカを手放せないエドゥアールにティナベルは「婚約を解消しましょう」と告げたが・・・。 ティナベルに煽られ怒りに任せてエドゥアールは禁断のロープを斬りティナベルは生涯を終えたはずだった。 目が覚めたティナベルは同じ時を過ごす2度目の人生だと直ぐに気が付く。 今度は誰にも自分の生き方を決めさせない。 ティナベルは自身の足で二度目の人生を歩き始める。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。10日 序章。11日、12日 本編です。 ★2月10日投稿開始、完結は2月12日22時22分です。 ★シリアスを感じ、イラァ!とする展開もありますが、出来るだけ笑って頂け・・・お察しください。一応、恋愛でして、最終話ではヒロイン「は」幸せになります。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

隕石

Akira@ショートショーター
大衆娯楽
1分から3分で読めます

お助け妖精コパンと目指す 異世界サバイバルじゃなくて、スローライフ!

tamura-k
ファンタジー
お祈りメールの嵐にくじけそうになっている谷河内 新(やごうち あらた)は大学四年生。未だに内定を取れずに打ちひしがれていた。 ライトノベルの異世界物が好きでスローライフに憧れているが、新の生存確認にやってきたしっかり者の妹には、現実逃避をしていないでGWくらいは帰って来いと言われてしまう。 「スローライフに憧れているなら、まずはソロキャンプくらいは出来ないとね。それにお兄ちゃん、料理も出来ないし、大体畑仕事だってやった事がないでしょう? それに虫も嫌いじゃん」 いや、スローライフってそんなサバイバル的な感じじゃなくて……とそんな事を思っていたけれど、ハタと気付けばそこは見知らぬ森の中で、目の前にはお助け妖精と名乗るミニチュアの幼児がいた。 魔法があるという世界にほんのり浮かれてみたけれど、現実はほんとにサバイバル? いえいえ、スローライフを希望したいんですけど。  そして、お助け妖精『コパン』とアラタの、スローライフを目指した旅が始まる。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

処理中です...