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第五章:薄明の中で

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-----世界は、広かった。



 その、広い世界の真ん中に立ち止まっている
僕たちは、どこにでもいる、普通の恋人たちだ。

 僕は、走り回る子供たちを見やったままで、
言った。

 「いつかさ、僕らもこの公園に子供を連れて
来たいね」



-----それは、願ってやまない僕らの未来。



 ありふれた幸せのようで、手に入らないかも
知れない、不確かな未来だ。
 だからこそ、こうして祈るように、口にした
くなるのだろう。そんな僕の想いに応えるよう
に、彼女は繋いだ手を握り返した。

 「必ず来ようね。その時は………」

 そこで、突然、ざぁ、と、吹き荒れた風に、
彼女の声が掻き消されてしまう。

 「!!!」

 僕は舞い上がる砂埃に目を瞑り……
そうして、ゆっくりと目を開けた。

 再び目に映った風景は、見慣れた天井
だった。

 「……なんだ……夢、か」

 僕は夢現ゆめうつつの狭間で、言いようのない
虚無感を覚えながら、天井に向けて手の平
をかざした。
 視界の中心に、僕の手が映る。
 その手を、少しずらしただけで、僕の手は
あっけなく視界から消えた。



-----やはり、これが現実か。



 僕は深いため息をつきながら、目を閉じた。



-----この夢が何を暗示しているのか。



 僕には、わからない。
 ねがわくば、この夢が正夢になることを
祈るばかりだけれど………
 僕はベッドから体を起こし、時計を見た。
 時刻は7時を半分回っている。
 今日は年に一度の眼科検診だ。
 そして夕方には、弥凪が部屋へ来ることに
なっている。僕は、ぼんやりとしている頭を
覚ますように伸びをすると、ベッドを抜け出
し、洗面所へ向かった。








 「……それは、どういうことですか?」

 久しぶりに訪れた大学病院の診察室で、
僕は、久しぶりに顔を合わせた担当医に、
そう、訊ねた。
 ふむ、と、感情の読めない顔をして、白髪
の男性が検査結果の用紙から僕へと視線を移
す。僕は膝の上で拳を握りしめ、食い入る
ように医師の顔を見つめた。

 「基本的にこの病はゆっくり進行していく
ものなんですけどね、やはり、その早さには
個人差があって、30代で視機能がかなり低下
する人もいれば、70代を過ぎても良好な視力
を保っている人もいるんです。あなたの場合
は、もしかしたらですが、前者のタイプに入る
のかも知れません。前年よりも視野狭窄が進ん
でいるんです。とにかく、通常の眼底検査だけ
では評価が難しいので、網膜色素上皮の変化を
みる検査を追加しましょう。今後の治療はその
結果を診て決めるということで……まずは
検査の予約を、だね…」

 僕の顔色を窺いながら、そう説明をすると、
医師はカルテを記入しながらカレンダーを
覗いた。
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